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クラスメイトなメイド  作者: 神無桂花
二年 秋
118/186

第百九話 帰ろうと決めた日。

 「先輩。私、どうすれば良いのでしょう」

「それは私も聞きたいです」

「はいはい。二人とも。たっぷり私にご奉仕してね。せっかく衣装があるんだし、ちょっと堪能したいな」

「ちょこっとどころか、すでに結構ですよ。三日も……」


 場所、相馬くんの家。私は二人にメイド服を持参させ、それに着替えさせ、ちょっとしたお嬢様気分を味わっている。


「あの、なつkじゃなくて、お嬢様。お次は何を……」

「そうだね、じゃあ、むぎゅーってして」

「えっ……」

「ほら早く。お嬢様の命令は?」

「「絶対!」」


 素直で良い子たちだなぁ。素直過ぎるなぁ。それに、板に付き過ぎている。

 お辞儀から食事やおやつのセッティング、エスコトートまで。所作のどれか一つとっても無駄なく、そして美しい。 

 まさかね。


「さて、たっぷり堪能したし、行きますか」

「どこにですか?」

「決まっているじゃん。ケアをするのが桐野君。帰るお手伝いは、私。二人はもう少し待ってね」


 二人に相馬くんの事を考える暇を与えないように次々と色々お願いと言うか命令したけれど、はぁ、有能過ぎるのも困りものだねぇ。処理が早すぎ。ネタが尽きる。




 駅前にあるゲーセンにて、対戦型格闘ゲームでポチポチと遊ぶ二人がいた。


「なぁ、お前手加減を知らんのか?」

「うん? 京介はコンボに頼りすぎ。ボタン連打の癖は直した方が良い。僕ができるのはアドバイスくらいだな」


 俺はさっきから相馬の使用するキャラに叩きのめされている。

 負けるたびに悔しさでボタン連打が加速。それに反し、朝野さんも感情が乏しいが、こいつも大概、衝動とか人間らしさと言うか、そこら辺が薄すぎないか? もっと動揺とかしろよ。

 むしろ、そんな奴が衝動で家出する。それくらいには苦しかったんだろうな。


「あっ」


 相馬が動揺したような声を上げる。俺のキャラが相馬のキャラの隙を偶然突き、猛烈な反撃を加え始めた。


「考えすぎないってのも、良い物だろ」

「たまたま偶然だろ」

「それを引き当てるコツってやつだ」


 そう言う俺に、相馬は小さく笑みを見せる。


「ほれ、次行くぞ」

「あぁ」


 歩きながらスマホで周辺の遊べるところを探すが、まぁ、あまり無いな。


「おっ、バッティングセンターあるじゃん」

「ふーん」


 そこに向かう道を歩くと相馬は黙ってついてくる。


「お前行きたいところとかは?」

「特に」


 当然のようにそう答える。よく言えば付き合いやすい。悪く言えば主体性が無い。


 カキーンと芯を捉えた音が響く。


「普通に上手いじゃねぇか」

「飛んでくるもの打ち返すだけじゃん」


 ぼんやりしているが、それでもしっかりとバッドは振る。


「スカッとするなぁ、しかし」


 自分でも打ってみる。気持ちが良い。しかし、相馬の表情は微妙に曇っていた。遊んで忘れる、そんな事ができる奴じゃないのはわかっていた。深刻に捉えるなと俺は伝えたいというのにな。

 不器用なのはお互い様か。こう、回りくどく目的を達成するというのは難しいな。

 けれど、これは、一歩間違えればもう戻って来ないまである。だから俺は、間違えられない。

 うむ。こうなれば、飯だ!

「よし、そろそろ飯の時間だな」

「うん」


 ラーメンでも食うか。おっ、そこそこ評価の高いラーメン屋が……。




 「なんじゃこりゃ」

「すごいね」


 もやしの山。麺がもはや見えない。写真では見ていたが、目の前にすると、それは圧巻の光景だ。しかし、これは、あれだ。部活動の後に食うと考えると。


「腹減ってきたぁ!」

「京介、お前、大丈夫か?」

「今のお前にそれ言われるとなぁ」


 とりあえずと上のもやしから食っていく。隣の相馬も黙々と食べ始める。


「秘儀……天地返し」

「んなっ!?」


 不意に聞こえた声に隣を見る。相馬のお椀、もやしが沈み、麺が現れた。


「ネットで昔見たんだ。麺が伸びるからぁって」

「へ、へぇ」


 妙な知識ばかりあるなぁ。まぁ良いけど。

 ここまで胃にずしんと来る食べ物も初めてだ。しかしお椀も底が見えて来る。腹を満たせば少しは前向きに考えることができるかもしれない。


「ごちそうさまでした」


 相馬も少し遅れて。


「ごちそうさまでした」


 店を出る。そろそろ夕方か。混雑を避けたくてこの時間にしたのだが。


「どうだったよ」

「んー。たまには悪くない。そんな味。でも、気晴らしにはなった」

「深く考えすぎだっての、お前は。聞いて良いか? 何で家出した?」

「……旅館に戻ろう。そこで話す。まとめる時間をくれ」

「わかった」


 慌てて聞き出してもしょうがない。話す気ではいる。それが重要だった。




 旅館に戻り、現在相馬が寝泊まりしている部屋に机を挟んで座る。旅館の制服がハンガーにかけられ、旅行鞄の荷物はほとんど開けられた形跡が無い。


「結局さ、僕のこの行動が間違っていることもわかってはいるんだ。でも、僕は、僕の中途半端さで、陽菜と乃安を傷つけた。そしてこの行動もまた傷つけるとはわかっている。でも、気がついたらここに来ていたんだ」


 そう言って、ぼんやりと窓の外を眺めた。 


「まともな自衛行動じゃねぇか。責められるべきことじゃねぇ」


 自分の事に鈍感すぎるように見える。


「でもまぁ、どうだ? 帰る気にはならんか?」

「ごめん。今すぐは無理かな。でも、ちゃんと帰るよ。このままお別れは、悲しいから」

「そうか。今日は土曜。明日には帰って来ねぇとな。テストあるし。俺はすまんな、明日練習試合でよ」

「悪いのは僕だ。わざわざ来てもらったのに。頑張れよ」

「おう」


 差し出された拳に拳で合わせる。まさか相馬の方からされるとは思わなかった。


「その、ありがとな」

「俺らの仲だ。このくらい当たり前だろ」


 後は言葉はいらんな。俺は旅館を出た。





 明日には帰る。そう結論を出したは良いものの。どうにも及び腰なのが困ったものだ。

 結局のところ、何か問題があっても、深刻にしているのは自分自身で、本質を覗けば案外大したことじゃない、それがほとんどだ。そして、今回もそうだ。 

 今日は二人分の予約が一つ入っている。


「夕食をお持ちしました」


 扉を叩いてそう声をかける。


「は~い」


 そんな、聞き覚えのある。気の抜けた声が聞こえる。


「やほー相馬くん。来ちゃった」

「えっ?」


 部屋には夏樹一人が座っていた。二人分のはずなのに、一人しかいない。


「何しているのかな? まぁまぁ座りなよ。お客様からここのアルバイトの男の子と食べたいという要望を聞いていないのかな? 二人分の食事を用意してもらったんだから」


 ちらりと後ろを振り返ると、おばあちゃんがニコニコ笑って頷いていた。

 夏樹の正面に座り。二人でとりあえず「いただきます」する。


「いや~、良い場所だね」

「どうしてここに?」

「一人じゃ帰りづらいでしょ。だから来たの」

「……ごめん。迷惑かけて」

「こら、そんな顔しないの。ご飯マズくなる」

「そうだね」


 ほっぺを抑えて美味しいと全力で表現する夏樹は、確かに微笑ましい。

 夏樹はパクパクとあっという間に食べていく。女の子相手でもやっぱり美味しさで量を制圧できるんだな。


「いやぁ。美味しいねぇ。私の食べ歩きした中でもトップクラスだよ」

「今度連れて行ってよ、他のトップクラス」

「もちろん。行こうね」


 にっこりと笑って。そう言った。


「……うん」


 じんわりと広がる温かみ。それはお風呂にでも入っているかのようだった。

 食べ終わった皿を纏めて、厨房に持って行った。さすが夏樹、食べ残しは全くしなかった。


「帰るのか?」

「えっ?」 


 おじいちゃんが、明日の朝食の仕込みをしながら、こちらを見ずにそう言う。


「はい。戻ります」

「そうか。ようやくおじいちゃんらしいことができたと思ったんだがな。頼られるのは嬉しいが、それでも寂しいものだな」

「ありがとうございます。置いてくれて」

「気にするな。そんじゃ、お疲れさん。明日は婆さんにやらせるからゆっくりしてな」

「はい」


 ここに来てから、露天風呂に入ってはいたものの、空を眺める何てことしなかったんだな。


「おーい、そうまくーん」

「どうかしたー」

「あっ、やっぱりいた」

「あのねー。やっぱりなーんでもなーい」


 女子風呂の内風呂への扉が開く音がした。


 部屋に帰り、スマホの電源を入れる。案の定、大量のメッセージが届いていた。

 陽菜と乃安に、それぞれ明日帰ると連絡しておく。返事が届いたが、今は見ない。もう少し、整理したかった。

 布団にもぞもぞと潜り込む。目を閉じて、そうだな。素数でも数えるか。

 




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