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第十話 メイドが告白されたようです。

 「相馬君、布良さん、桐野君、少し相談があるのですが。よろしいですか?」

「相談事?聞きます!私が聞きましょう!私は頼れる学級委員長なので」


 陽菜が相談事とは珍しい。


「実は、お付き合いを申し込まれまして」

「へぇ、それがまんざらでもなくて受けるか受けないか迷っていると?やめとけやめとけ、この時期に申し込むやつに碌な奴がいないからな。単純に彼女をアクセサリとしか思ってないような奴だろ」


 桐野が珍しくそれっぽい事を言っている。僕に陽菜や布良さんを紹介してくれと言ったやつとは思えない。ていうか陽菜が告白されたか、まぁあり得る出来事ではあったけど確かに時期としては早すぎるか。


「いえ、断ったのですよ。ただ、理由を聞かれまして、それで忙しいのでと答えましたら。それでも構わないと言われまして。誰とも付き合う気は無いと言いましたら、付き合ってみないとわからないと言われまして」


 うわぁ。


「それで困ってしまいまして、そしたらほら、付き合わない理由が無くなったと言われまして」


 うわぁ、うわぁ。


「知らない人だったので、そもそも知らない人と恋人になろうというのがあり得ませんと言いましたら、これから知っていけば良いじゃんと……」


 うわぁ、うわぁ、うわぁ。


「しかたないので逃げました、そしたら今朝下駄箱にこんなものが」


 それは手紙だった。


『昨日のことは気にしてないから、返事が決まったら連絡してね』


 という文章とともに連絡先が載っていた。最後に二年三組篠田大聖と名前とクラスまでが書いてあった。


「ふむふむ、良し分かった。ちょっと待っていてね。入間いるかー」


 布良さんが突然誰かに呼びかける。


「入間いるよー」


 教室の丁度反対側から声が聞こえる。、

 やってきたのはツインテールの背が低めの女の子。


「どうも、入間入鹿です。以後お見知りおきを」

「彼女の趣味は調査らしくてね、いろんなことを調べていろんなこと知っているんだ。早速だけどこの人知ってる?」


 そう言ってさっきの手紙を入間さんに見せるとすぐに


「はい知っていますとも、はっきり言いますと屑ですね。去年四股かけて学校中の女子を敵に回したやつですね」


 そんな奴本当にいるのか。


「とは言いましても結果的にはあまり大ごとにならなかったのですよ、この男が付き合った女子も二股かけていたりしていまして、どちらかを責めることができなくなったといった感じですね」

 なるほど。

「ふーん、まぁ要するにその男を諦めさせるのがベストなんだろ、なら良い方法知ってるぜ」


 そう言って僕をじっと見る桐野。


「付き合えよ、お前ら」

「お前、そんな男前な顔できるのか」

 いや、珍しく桐野がかっこよく見えたんだ。



「さて、では、陽菜ちゃんと日暮君、ラブラブストーカー撃退作戦~」

「もう少しネーミングどうにかなりませんか?夏樹さん」


 作戦はこうだ。僕と陽菜が恋人のフリをすることでその男を諦めさせようというもの。

 入間さんも去年あんなことがあった人が今度は他人の女を知ってて寝取ったとしたらそれこそもう誰も擁護できないでしょ、と派手にやりなされという助言をくれた。

 そして一番ノリノリだったのは布良さんだ。


「まぁまぁ、ほら、まずは手を握って、見つめ合って」

「えっちょっ、待って、布良さん?!」


 時刻は放課後、学校近くの公園にて。桐野は部活でいない。入間さんによると、篠田もテニス部に所属しているためこの時間は部活をしている。


「恥ずかしがらないの。幼馴染どうし、昔からの仲なんだからこの距離も大丈夫でしょ。ほらほら~」


 至近距離で一瞬だけ目が合う。恥ずかしくて思わずそらす。


「相馬君、私は大丈夫ですので、こちらを向いていただけますか?」

「陽菜はどうして平気なのさ」

「恥ずかしいのはそうなのですが、それ以前にさっさとあの男をどうにかしたいので」

「ほら、陽菜ちゃんもこう言っているのだから、男を見せて、日暮君」


 女子にあぁも言われてしまったら仕方がない。意を決して陽菜の方を向く。至近距離で見つめあう。陽菜の手が僕の手を握る。

 きれいな顔だなぁ。人形みたいだ。感情の浮かばない顔、じっと目を見つめていると吸い込まれそうだ。

 周りの音がだんだん遠くなっていく心臓が早鐘を打つ。うるさい。表情が変わらない陽菜、こんなに僕はドキドキしているのにな。ちょっとだけ悔しい、自然と視線は唇に向けられる、少し慌てさせてみたいな。顔を近づける、距離が近づいていく、えっ、良いの?陽菜さん?良いの?


「だめー!ストップ!ストップ!これ以上はちゃんとお付き合いしてからー!」


 布良さんの叫びで我に返ると、特に変化のない陽菜と顔を真っ赤にした布良さんが視界に入る。


「もう二人とも、どっかに意識飛ばしたかのように近づいていくのだもん、びっくりしちゃった」

「私は別に、相馬君が望むのであれば構わなかったのですが」

「駄目だよ陽菜ちゃん、自分の体は大切にしなきゃ。ファーストキスは一回きりだよ」


 顔が熱い。熱でも出たのではないのだろうか。


「でもこの様子なら恋人のフリは問題なくできそうだね、明日から頑張ろう」

「はい、大丈夫そうです」

「頑張るよ」

「でも、恋人の真似をするだけで、キスとかその、えっと、一線を越えるのは無しだよ。えぇ、ダメ、絶対。学級委員として風紀の乱れは許しません」

「わかってるよ」


 大丈夫、これは恋人の真似、フリ、緊張するな。興奮するな。勘違いするな。クールダウン、クールダウン。


「ねぇ陽菜ちゃん、日暮君って女子とあまり関わったことないの?」

「私が知る限り、相馬君は女性経験ゼロです」

「なるほど」


 聞こえてるのだが、畜生、あの親父、そんなことまで知っているとは許さん。しかも陽菜に教えてしまうとは……。他にどんなことを教えたのだろう。


「ちなみに陽菜ちゃんは?」

「無いです」

「そう、まぁ、なんとなくわかっていたけど」

「さて帰ろう、今日は帰ろう」

「そうですね、帰りましょうか」


 帰り道。


「なぁ陽菜、一つ聞いて良いか?」

「はい」

「父さん、陽菜にどこまで教えた?」

「そうですね。相馬君がいかがわしい本など大事なものをどこに隠すのかというのは中々興味深かったです。まさかベッドに改造を施すとは……。ついでにその手の本の傾向も知っているので代わりに買いにいくことも可能です」

「それは陽菜の見た目的に無理だし頼みたくない。他には?」

「そうですね、中学生のころやけにオカルトにはまって夜中家の外に魔方陣を書いて毎日儀式をしていたとか」


 おいやめろ、それは僕の黒歴史。何で知っているのだよ父さん。


「こんなところですかね。ところで相馬君、何か晩御飯のご要望は?」

「お任せします」

「わかりました」


 家に帰り自分の部屋に入りベッドに飛び込む。まさかこんなことになるとは、恋人のフリか。

 どうすればいい、次陽菜と会うとき、おそらく夕飯ができて呼びに来るときだろう。どんな顔で陽菜を見ればいいのだろう。わからない。困った。

 そんな感じでもんもんと悩んでいると足音。


「ご主人様、夕飯ができました」

「わかったすぐ行く」


 扉を開けるよりも早く返事。

 よし!

 気合を入れて外に出ると陽菜がそこに立っていた。


「ご主人様、この度は私事に巻き込んでしまって申し訳ありません。ご主人様のご負担になるようでしたら作戦は中止にして自力で解決する所存です」


 いやいやいや。その言い方はずるい。それに珍しく表情が乱れてる。顔にはっきり書いてある、助けてと。


「任せろ。見捨てないから」

「本当ですか?」

「おう」

「ありがとうございます」


 引き受けてしまった。やる気ではあったけどはっきりとやると言ってしまってはもう後には引けない、退路を断った形だ。

 夕飯を食べ、お風呂に入り、ベッドに沈む。

 目を閉じると夕方の公園、まぢかに見える陽菜の顔。


「!!」


 ベッドを殴る、とりあえず殴る。

 眠れない!!







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