休息 ブレイク2
ちょっと休息。これにて休題。
朝のHRが終わり、授業開始までしばしの休息。そのタイミングを見計らっていたかのように、師匠からのメールが届く。
『直接話がしたいの。電話して♡』
無視すると面倒なことになりそうなので、屋上へ続く階段まで行き電話を掛ける。
「あ、景虎?」
こちらが名乗るよりも早く、師匠から話しかけてくる。
「景虎です」
「鳴瀬って誰よ」
「鳴瀬 望兎ですよ。隣のクラスの刀持ったヒロイン」
「ふぁ? なに、違うゲームの話?」
違うゲーム? ……もしかして、性別によって攻略できるヒロインが変わるのか。
「師匠。性別はどっちにしてますか?」
「性別? 今は男としてやってるわよ。ふわあぁぁ。なんかね、最初に女としてやったら、攻略対象が女の子じゃなくて男の子だったのよ。んで、なんか関係あるの?」
性別の問題ではないみたいだ。だったらなぜ。
「参考までに、師匠は誰が好みなんですか?」
「そうねぇ。見た目的にはムディアかムルチなのよね。でも、クラミィは妹属性だし、兄妹揃っていい性格してるし。そっちも捨てがたいのよね」
ムディア? ムルチ? クラミィ? 聞きなれない名前ばかりだ。
「あとは攻略対象じゃないけど、レシーナ様もいいわね。二週目以降できっと攻略対象になるわよ。そうすれば、彼女の抱えてる秘密も明らかになるわね」
また聞きなれない名前だ。「レシーナ様ね」師匠が様をつけて呼ぶってことは、彼女こそが百人目の嫁候補ということか。
「知らない? もしかしてあなた魔王妃謁見イベントクリアできてないの?」
どうやら声に出ていたらしい。って、それよりも。
「魔王妃謁見イベントだと?」
「そもそも知らなかったのね。それと敬語はどうしたの?」
師匠があきれたようにため息をつく。
「すいません。それよりも、どんなイベントなんですか?」
「文字の通りよ。魔王の妃、レシーナ・モ・アールセン様に謁見するイベント」
どういうことだ。まるで本当に違うゲームの話をしているような。でも、魔王が出てくる恋愛ゲームなんて他にいくつもあるわけない、よな。
「スパイ……、スパイについては何かわかってますか?」
「勇者育成学校にもぐりこんでる子がいるって話かしら?」
「そうです」
「知ってるのは、人名が滝川 雅食ってくらいね。学校では偽名を使っているんでしょうけど」
偽名か。さすがにそう簡単にはいかないみたいだ。
「あ、あとは勇者一行に拐かされた魔王の娘が、その学校に通ってるとか。随分と母親に似てた娘らしいわね」
「名前はわかりますか?」
「名前か、なんだったかな」
話の食い違いから、俺は一つの結論にたどり着いた。俺の予想が当たっていれば、師匠から得られる情報次第であのゲームをクリアすることが出来る。
そのためにももっと情報をーー
「景虎。時間は大丈夫か?」
階段の下から声をかけられる。時計を見ると授業開始まではまだ余裕がある。
「大丈夫だ。先に行っててくれ」
返事をするが、反応はない。まあ、ウルフのことだから俺に返事を待たずに教室に戻っただけだろう。あいつはそういうやつだ。
「エスラン……そう、エスランって呼ばれていたわ」
ウルフと話してるうちに名前を思い出したらしい。
「エスランですか」
だが、あまり参考にはならないようだ。
「本名で通ってるわけはないから、わかったのは見た目ってことでしょうね。スパイも意外といい身分の出身……まさか」
「師匠。なにかわかったんですか?」
「ええ。最初にやった時の攻略対象であり、魔王の側近でありながらその姿を知るものはほとんどいないといわれる謎の魔族フレンメイト。諜報部のエースで本名不明の滝川 雅食。この二人が同一人物だとすれば、色々とつじつまが合うわね」
確かに、色々なことが見えてきた。攻略のヒントが。
「あの師匠」
「色々試したいことあるからまた後で」
それだけ言うと、師匠は電話を切った。やりたいことには一直線。他人のことなどお構いなしに突っ走る。それが師匠だった。ふと、あの時のことを思い出す。
「景虎。あなた、師匠である私を差し置いて面白そうなゲームやってるってどういうことかしら?」
突然俺の前に現れて、師匠はそういった。
「別に差し置いてってつもりはないんですが」
ゲームセンターの入口にいる以上とぼけることは難しかった。
「そ。なら、私がやるからあなたはしばらく差し置かれてなさい」
差し置かれて、というのは使い方が違うような気がするのだが。
「まあ、私がクリアしたら攻略法を教えてあげるから」
「そーー」
「いやならじゃんけんで決めましょう?」
そんな必要はない。と言おうとしたのだが、師匠は俺が嫌だと思ったと考えたらしい。実際間違ってもいないのだが。
「わかりました。やりましょう」
結果は俺の負け。五回勝負だったのだが一度も勝てなかった。
「じゃあ、私がクリアするまで大人しく待ってることね」
その時の師匠のどや顔は今でも鮮明に覚えている。
と、そろそろ時間かな。
時計を見ると、授業開始まではあと二分。俺も戻るとしようか。
しかし、教室に戻ると誰もいなかった。
時間割を確認。一時間目は体育だ。それでウルフは早めに声をかけてくれていたのか。
だが、後悔してももう遅い。チャイムが鳴る中、俺は教室に一人佇んでいた。