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基本 ベーシック

セーブポイントにつくまでが、長い。疲れる。

 俺は教室にいる。それも入口を入ってすぐの場所にだ。

 手を握ったはずの二人はいない。目の前にあるのは百鬼(なきり)先生の背中だった。

「さあ、改めて転校生の紹介だ」

 先生が一歩横にずれたことで、教室の様子が見渡せるようになる。

 縦七横六、計四十二の机の内、生徒が座ってるのは半分より少し多いくらいだろうか。男女比は半分半分だが、最前列の六人はすべて男子だった。

上杉(うえすぎ) 景虎(かげとら)です。よろしくお願いします」

 丁寧にゆっくりと言って、頭を下げる。

「ご苦労だったな。席は、どこがいいかーー」

「ここにこいよ。景虎」

 先生が決めるよりも早く、一人の男子生徒が声をかけてくる。一番窓側の真ん中の席。そこにいた男が自分の横に座るようにと身振り手振りでアピールしていた。

「だそうだ」

 先生は特に注意するでもなく首だけで俺のほうを向く。

「わかりました」

 俺はその席に向かった。


「スパイ騒動につき授業の開始を一時間遅らせることになった。各自警戒だけは怠るなよ」

 俺が席に着くと、先生は必要事項だけを告げて教室から出て行った。

上杉(うえすぎ)君はどこからきたの?」

景虎(かげとら)、あれどうやって見破ったんだよ」

「魔王軍の罠を見破る方法。教えて」

 一息つく暇もなく、生徒たちが押し寄せてくる。毎度のことながら慣れない。

「東のほうからな。企業秘密だ」

「東? 海越えてやってきたの?」

「企業秘密とは、つれませんね」

「魔王軍の罠をーー」

「もしかして、千里眼能力者ですか!」

 入れ替わり立ち代わり質問攻めにされる。

「海は越えるな、島国だから。絶対に企業秘密だ。千里眼なんて持ってないよ」

「島国ってことは、黄金の国? そうなんでしょ」

「男と男の約束だ。俺にだけでも教えてくれよ」

「かっげー、大人気~」

 もうすぐこれも終わるので、人物紹介でもしておこう。

 机にしがみついてひたすら出身地を聞いてくるのが、熊野(ゆや)さん。魔球使いらしい。

 初対面から名前呼びで見破り方を聞いてくるのが、蛍原(ほとはら)。盾部隊の一人で馴れ馴れしい奴の一人だ。

 黙々と魔王軍の罠の見破り方を聞きたがるのが、鷹月(たかつき) (ゆい)さん。風紀委員兼解析委員らしい。

 制服ではなく着物を着て現れたのが、野牛島(やごしま)さん。武士道に憧れてるらしいが、武士感はない。

 千里眼ですかと聞いてきたのは、虻川(あぶかわ) 惑刃(わくば)。名前に反して、背の小さい、かわいい系の男子だ。

 男と男の約束なんていいだしたのは、横に座る(だん)だ。

「ちょっとコイ。転校生」

 人の間を縫いようにして現れた手が、俺の体を掴み上げる。

 そのまま、引きずられるようにして俺は教室の外へと連れ出された。


 ※※※


「単刀直入にキクがね。鳴瀬(なきせ)鯨伏(いさふし)の二人とどういう関係だ? キミは」

 人を引きずるような力などなさそうな細い腕、蛇のような細く鋭い瞳。隣のクラスの担任、蛙鳴(あめい)先生だ。

「スパイを探しているときに、屋上で会いました」

「それダケか?」

「それだけです」

 しばし俺を睨みつけていた蛙鳴先生だったが、嘘がないことがわかると俺をおいてどこかへ去っていった。

「嘘はついてないからな」

 蛙鳴先生は、勇者には似合わない邪眼使いだ。嘘を見抜く力と石化能力をもっているらしい。独特な見た目やしゃべり方もあって、悪役向きだと俺は思う。

 それにしても、この学校は難読な苗字が多すぎると俺は思う。選択肢や会話文にはふりがながついているから問題なく読めるが、名簿とか見たら苦労しそうなのが目に見えている。製作者凝りすぎだろ。

 閑話休題。

 次のイベントのために教室に戻ろう。


 ※※※


「よう。セクシャルビースト景虎(かげとら)

 教室に入るなり、騨が元気よく声をかけてくる。

【黙れ、セクシャルビース殿町(トのまち)

【せく、しゃる……なんだって?】

 意味もなく表示される選択肢。

「誰が、セクシャルビーストだよ」

「スパイ探しから、美少女二人侍らせて戻ってくるとか。セクシャルビースト以外になんて言おうか。淫獣め。しかも、鳴瀬(なきせ)鯨伏(いさふし)とか、俺的美少女ランキングのトップツーだぞ。羨ましい。俺と変われ」

「最後に本音でてるぞー」

 確かに屋上で手を握ったんだが、俺には帰ってくるまでの記憶はない。つまり、スキップされたのだ。恋愛ゲームとしてはおかしいだろう。イベントCGあってもいいくらいだろ。

「くっ。俺が屋上に行っていれば」

 本気で悔しそうにしているこいつを見ていると何かしたくなる。そして、それを予測していたかのように選択肢が出る。いつも。

【今度、飲み物おごってやるよ】

【今度、二人を紹介してやるよ】

 どっちを選んでも差はない。てか、こんなところで恋愛ゲーム感出さなくていいよ。男を落としに来たんじゃないんだから。

「今度、二人を紹介してやるよ」

「おお、心の友よ。我が親友よ。このご恩は一生忘れません」

 わざとらしいくらい大げさに感謝する騨。

「お礼だ。知りたいことを何でも聞いてくれ」

 騨の決め顔。同時に俺の前には選択肢が現れる。


【ヒロイン情報】

【クラスメイト情報】

【イベント情報】

【セーブ】


「また今度な」

「いつでも聞いてくれよ」

 現実ならまずありえない話だが、これ以降騨がいればいつでも情報を確認できるようになる。セーブはこれ以降することが出来るところまで行けていないが。

 ヒロインは、鳴瀬 望兎、鯨伏 柚希、蛇穴 千里の三人だ。イベントをこなすと関係性がかわるらしい。

 この時点では、全員知り合いレベルだ。

 クラスメイト情報はヒロイン以外の情報で先生方も含まれている。とはいえ、苗字しか設定されて人が多いのか、ほとんど下の名前については語られない。

 下の名前が聞けたのは、鷹月 唯、虻川 惑刃。あとは伝説の勇者の一行の一人だった百鬼 智冬先生くらいだな。

 イベント情報では、すぐに来るものからしばらく先のものまで色々なイベントの話を聞くことが出来る。とりあえずは、それを見ながらヒロインの見極め作業といったところだろう。

 ここからが、俺の本領発揮だぜ。


 しかし、人生はそう順調には進まない。今回は振り返りも兼ねて一からやってみたが、この場所でセーブしたアカウントを俺は持っている。そして、ここから先はさらに難易度が上がっていくのだった。

「ログアウト」

 明日も期末テストだ。特に苦手な数学を勉強するために、今日は帰ろう。お家へ帰ろう。

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