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殺害 アイキルド

怪しくない人が、実は犯人だったりする。でも、逆にばれやすい。

【ここからはスパイの捜索活動となります。行き先を声に出して選択してください】


【屋上】

【保健室】

【食堂・購買部】


 ここまでは問題ない。そして、防具をそろえるまでは間違っていないはずだ。つまり、

「購買部だ」

 絶対な自信をもって、俺は購買部を選択した。

【承りました】

 すると、目の前の景色が一瞬で変化する。

「いらっしゃい。なんか買っていくかい?」

 店主の女性が景気よく話しかけてくる。と同時に選択肢が表示された。


【買う】

【買わない】


「買う」


【武器を買う】

【防具を買う】


「防具を買う」


【鉄兜】

【軽鎧】

【足袋】

【手甲】


「全部だ」

【承りました。ここで装備していかれますか?】

「装備する」

 間髪を入れずに出される選択肢に、間髪を入れずに回答する。そして、うまくいったらしい。

【次の行き先を声に出して選択してください】


【屋上】

【保健室】


 さっきの選択肢から購買部が減った選択肢が表示された。前回と全く同じ展開。

「さあ、ここからが本番だ」


 俺は保健室という選択を捨てることにした。

「屋上だ」

 屋上にいる裏切り者と会う前に、準備はすべて整えなくてはならない。

【承りました】

 すると、目の前の景色が一瞬で変化する。


 白いフェンスに囲われた何もない空間に、銃を持った少女が静かに佇んでいた。

「……誰?」

 どうやら今回はいきなり殺されることはないようだ。

 防具を買ったのが正解だということが証明されたとみていいだろう。

「……兜を、取りなさい」

 少女が銃口をこちらに向けてくる。そして、一つの指示が出される。

【メインヒロインです。鉄兜を取って、名前を呼び掛けてみましょう】

 無茶ぶりもいいところである。とはいえ選択肢はある。前回の保健室でメインヒロイン三人の名前は見ているし、一人が違うことは証明されている。

 つまり、二択だ。

 だがヒントはなにもない。完全に運任せということに……いや、ヒントならある。蛇穴(さらぎ)先生の言っていた二人の特徴を思い出せ、そうすれば、必ず答えは出るはずだ。

 ……よし。

 俺は鉄兜を取り、

「これでいいのかな? 鯨伏(いさふし) 柚希(ゆずき)さん」

「……!」

 俺が名前を呼んだことで、少女は驚いた顔をした。

「……なぜ、私の名前を?」

 どうやら、名前選びは正解だったらしい。

「スパイ候補だからな」

「……私じゃ、ない……!」

 少女、柚希に睨まれて思わずたじろんでしまった。だが、ここで下手に好感度を下げるわけにはいかない。

 俺がそう決意した瞬間。会話の選択肢が表示される。


【信じられないな。挑発するように】

【俺の代わりにスパイになれ。威圧するように】


 頼りにならねぇ。

 俺は選択肢に頼らずに会話を進めることにした。

「スパイじゃないなら、何でここにいるんだ?」

「……そ、それは」

 柚希が困ったように顔を伏せる。

 スパイではないのかもしれないが、この少女は何かを隠してる。俺はそう確信した。

 あとは、どうやってその情報を聞き出すか。


【スパイなんだろう? 俺には隠せないぜ。疑り深く】

【人に見せられないことでもしてたのか? 興味深く】


 やっぱり、頼りにならねぇ。

 俺は選択肢を無視して会話を続けた。

「言えないのか?」

「……あなたこそ、何故ここに?」

「それは……」

 質問を質問で返されて、俺は言葉に詰まってしまう。


【俺が質問してるんだ。怒りを込めて】

【俺の質問に答えてくれ。愛を込めて】


 つくづく、頼りにならねぇ。

「俺はスパイを探してここに来た」

 というより、素直に言えばいいだけだったのだが。

「……私もよ」

「なら、銃を下してくれないか?」

「……いいわ」

 柚希がゆっくりと銃を下す。


【スパイについて知ってることを教えろ。脅すように】

【油断したな! 愚か者が! 死ね! 落とすように】


 頼りにならーーいや、使える。

「なら、スパイについて知ってることを共有しないか?」

「……何が目的?」

「一刻も早く捕まえたいだけだよ」

「……いいわ」

 歩み寄ろうとした瞬間。彼女の首が滑り落ちた。

 そのことを理解した俺が周りを見ようとしたとき、俺の視界には下しか映っていなかった。

「あは♪ 死んじゃった♪」

 屋上に、一人の少女の声だけが響いていた。


【魔王軍のスパイとして殺される。DEAD END】

「ログアウト」

 と、正直DEAD ENDに慣れてきた気がする。

 自分の成長をどこかうれしく思いながら、俺は金庫の上の百円玉を投入口へ入れた。

「さあ、今度こそやって」

「コインをお確かめの上、入れ直してください」

 俺の決意は、無機質な音声に遮断された。

 俺は払い出しされた百円玉を掴むと、投入口へと入れ直した。

「コインをお確かめの上、入れ直してください」

 再び払い戻される。

 一日の回数制限でもあったのかと思い説明文を読んでみるが、そんなことはない。

 俺は百円玉を拭いてから入れようとして、


「…………」


 突然だが、拭いてから入れようと思った理由を説明しよう。

 自動販売機などでお金を入れても戻ってくるときがあるだろう? それは、表面の汚れや、傷などが原因であることが多いんだ。汚れの場合は、拭けば何とかなることが多いのだ。他には、旧貨幣だと読み込めないものがあるぞ。

 閑話休題。

 今回はそんな話ではなかった。五十円玉だった。しかも穴の開いていない、いわゆるエラーコインというやつだ。

 財布の中を見てみるが、他に百円玉はない。つまり、今日はもうできない。

「まあ、仕方ないな」

 俺は金庫から荷物を取り出すと、すぐに帰宅の準備を整えた。


「じゃあ、また明日くるぜ」

 機械に別れを告げ、俺は骨董屋に向かった。

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