終幕 エピローグ
完結します。突然に。
「お前が魔王軍のスパイなんだろう?」
俺は確信をもってそう言ったわけではない。
「へえ。なんでそう思うんだ?」
殿町の表情が見たことのないものに変わる。
「なんとなく」
その反応を見て、俺はこいつが魔王軍のスパイだと確信した。
「へぇ。面白れぇな」
殿町の姿が少しずつ変わっていく。背中には黒い翼、全身に黒いオーラをまとった悪魔のような姿へと。
「お前が魔王軍のスパイ滝川 雅食なんだろ?」
「ご明察!」
一つ手を打って殿町、もとい滝川は飛翔する。
しかし、俺に抵抗する手段はない。なすすべもなく俺は切り伏せられた。
「だが、残念。お前がスパイとして死ぬことになるんだよ」
【魔王軍のスパイに殺される。DEAD END】
久しぶりこの表示見たな。
それにしても。スパイはわかったが、この時点で暴いてはいけなかったらしい。
ログアウト。
次はもっとタイミングを考えて、って……あれ? ログアウト出来てない?
「さて、運ぶとするか」
滝川が指を鳴らすと、どこからか棺桶のようなものが出現する。そして、俺の視界が真っ黒に染まった。どうやら俺は棺桶の中に入れられたらしい。
何も見えない世界で滝川の声だけが響く。
「友達だ、をもじった名前だったんだが何がダメだったんだか」
「来たばかりの転校生に見破られるのは予想外だったな。もしくは知ってて転校してきたのか」
「魔王軍に増援を頼まないといけないかな。あいつに頭下げるのヤダな」
時々揺れる棺桶の中。聞こえてくるのは滝川の愚痴ばかり。
しばらく経って揺れが収まった。指を鳴らす音を合図に棺桶が崩れ去り、目の前に光が満ちていく。
ここは屋上か。
「さあ、死んどいてくれよ。転校生」
それだけ言うと、滝川は去っていった。
ログアウト。
何度となく繰り返してみるが、声は出ない。声に出なければ認識はされない。
そんなことを繰り返しているうちにチャイムがなった。それでも、屋上には誰も来ない。
このまま誰も来なかったらどうなるのだろうか。そう考えては来ても関係ないだろうと思考を止める。
現実世界はどうなっているのだろうか。こんなことになっているのはわかっているのだろうか。そもそも、なぜこんなことになってしまったのだろうか。師匠の名前を勝手に使ったから天罰が下ったのか。ないか。いや、師匠の場合ありそうで怖いな。名づけの魔力、だしな。
そんなことを取り留めもなく考えていると、突然ドアが開いた。
「あら? いい死体発見♪」
動けなくなった俺の元に一人の少女が駆け寄ってくる。
そのまま俺を抱き起すと、恍惚とした表情で見つめてくる。
【ヒロイン・鳴瀬 望兎の好感度が一定値へ達しました。任意のタイミングで告白イベントを発生させることが出来ます】
軽快な音楽とともに、ヒロイン攻略の字幕が表示される。
こんなことでヒロインは落とせたのか。あまりのあっけなさにため息がこぼれる。心の中で。
そういえば、魔王の娘は誰だったのだろうか。動物の名前が入ってないのが魔王軍だと考えたのだが、そんな生徒にはあっていない。
と、名前について考えていると一つのことに気が付いた。
なきせ→nakise。逆さにするとesikan。屍姦。
それで死体になってから攻略できたのか。名前に隠されていた真実にため息がこぼれる。心の中で。
「ずっと可愛がってあげる♡」
鳴瀬は俺を抱きしめると、そっとほほに口づけをした。
ゆっくりと全身を撫でまわし、俺の目を見つめる。彼女の手が目にかぶせられる。自力では閉ざせなくなった瞼が閉ざされ、俺の視界は完全な闇に染まった。
全身を撫でまわされる。耳に息を吹きかけられる。女の子独特の香りが漂う。
視界以外の五感が研ぎ澄まされていくような中で、俺はいつになく異性の存在を強く感じていた。
唇と唇が重ねられる。
ファーストキスの感想は色々な例えで表現されてきたが、俺の場合はなんだろう。とてもVRだとは思えなかったとだけ言っておこう。
ドアが開く音がして、抱きついていた鳴瀬の感覚がなくなる。
『いつでもみてるよ』
彼女は最後にそう言った気がした。
ヒロインの女の子はネクロフィリアでした。というのを書きたくて書きました。彼女の家にはきっと死体がたくさんあります。そういう女の子です。
ここまでお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。




