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開幕 プロローグ

これは、VRゲームであって恋愛ゲームではない。のでご注意を。

 喧噪の中を俺は歩いていた。クレーンゲームやガンシューティング、メダルゲームなど、色々な機械が所狭しと並ぶ中に俺はいる。

 ヤンキーや不良の集まる場所。治安の悪い無法地帯。俺はそんなイメージを持っていたが、実際に行ってみれば何のことはない。人なんてほとんどいない、機械の音だけが響く世界が俺の目の前に広がっている。

 いや、簡潔に言おう。俺はゲームセンターにいる。

 四十年前。東京オリンピックの開催で日本全国が盛り上がる中、都心の路地裏にオープンした小さなゲームセンターだ。ソースはホーク。

 俺はあるゲームを攻略するためにここに来た。

「合言葉は?」

 自動販売機と壁の間、人一人が通れるその隙間(中肉中背な店の主人基準。ソースはウルフ)に入ると壁に声をかけられる。

「新たな刺激を求め、さらなる高みを目指すために」

 それが合言葉。ソースはホーク。

「紹介者は?」

坂東(ばんどう) 鷹矢(たかや)

「入れ」

 短い返事と共に、目の前の壁が横にスライドした。中へと入ると、壁は再びスライドし俺の逃げ道をふさいだ。

「また、鷹矢の連れてきたヤローかよ。たまにゃぁ、いい女連れてこい、つったんだけどなぁ」

 目の前に現れた男が、無精ひげを撫でながらこちらを物色するように俺を見ている。特筆することのない体つきに反して、顔だけはやたらといかつい。特に眼力はすごいもので、身長は対して変わらないのに見下ろされてるかのように感じてしまった。いや、ビビったわけではないぞ。まじで。

「まあ、いいや。好きに遊べや」

 男はそれだけ言い残すと、すぐわきにある扉を開けてどこかへ去っていった。

 中肉中背。図らずもウルフの言葉の裏が取れたところで本題だ。まあ、歩きながらでも語るとしよう。


 ここはゲームセンター。その中でも一部の者のみが入ることを許される究極のゲーム空間。そこに、未だ何人たりとも攻略することが出来なかったあるゲームが眠っている。

「ラブ・オブ・デス! 俺がクリアしてやるぜ!」

 おっと、つい声に出してしまった。

 とはいえ、俺のテンションが上がるのは当たり前だ。

 誰もクリアしたことのないゲームを初めてクリアするという爽快感。そして、初クリア者に与えられる景品。俺はこのゲームをクリアすることでそれらを得ることが出来るのだ。

 しかも、景品のほうはただの景品じゃない。超豪華景品なのだ。ソースはホークとウルフ。

 ホークがクリアしたのは、ロングロングアローゲーム。要するに超長い遠的で、確か、通常の四倍は距離があるらしい。その景品が、現金百万円と道着、袴、弓の三点セットというものだ。

 ウルフがクリアしたのは、ラストサムライウォーズ。実際に刀を持って動くと、ゲームの中のキャラが同じように動くゲームらしい。要するに体を動かす無双ゲームってところか。ゲーム画面だけじゃなく本人の周りも立体映像で敵が見えるから、実際に戦ってる感じが味わえるらしい。その景品が現金百万円と模造刀、登録書付きの日本刀のセットといものだ。

 な? 豪華だろ。正直百万円だけでも十分おつりがくる額だ。

 現に二人は、その賞金をまだ使い終わっていない。まあ、高校一年生には過ぎたる額だってことだな。俺みたいなやつは例外として。

 と、到着だ。扉を開けよう。さあ、これが俺の伝説の始まりだ。


 部屋の真ん中に大きな鉄の卵が鎮座していた。

 生命維(LIFE SUPPO)持装置(RT SYSTEM )一体型(INTEGRATE)( VIRTUAL)( REALITY)ゲーム( GAME)LIVEGG(ライブエッグ)

 そんな文字が黒で大きく書かれた銀色の卵だ。

 手前には小さなテーブルがあり、ゲームの説明が書かれている。


【ようこそ、プレイヤー様。このゲームはリアル恋愛シミュレーションゲームです。注意書きが長いですが、きちんとお読みになってから初めてください、思わぬ事故に発展する場合がございます。

 初めに、このゲームを行っている間は決して死ぬことはありません。なぜなら、この機械が生命維持装置も兼ねているからです。それから、生命維持装置をきちんと作動させるために身につけているものはすべてこの金庫にお入れください。チップをお持ちの方は残念ながらこのゲームを行うことが出来ません。スマホなどをお持ちの方は必ず金庫の中に入れてください。不具合の原因となります。金庫には色彩認証と指紋認証のダブル認証体制をとっており、ピッキングの恐れもありません。さらに、この部屋の扉とも連動しており、金庫の鍵を閉めればこの部屋には誰も絶対に入ってくることは出来なくなります。装置につきましては、非常時用のバッテリーが搭載されており、供給電力がなくなっても一年の間は動き続けることが可能です。それから、パーソナルデータの入力時には嘘をつかないようにお願いいたします。不具合の原因となります。

 次に、このゲームを行ている間、脳からの指令はすべて機械に回収され、ゲーム内のアバターの動きとなります。また、選択しなどでは音声入力が基本となりますので、活舌などに問題を抱える人はやめることをおすすめします。ゲームから出る場合には、ログアウトと言ってください。万が一発音が悪くて機械が読み込みに失敗した場合でも会社としては一切責任をとることができません。アバターの情報は、ステータスと呼ぶことで見られます。なお、バッテリー駆動時のみの仕様として、手を縛られているときに手を動かすことや、しゃべれない状態の時には音声入力を受け付けない機能が備わっております。あらかじめご了承ください。ゲーム中に何か困ったことが起こった場合は、マスターシステムと呼んでください。素敵なナースがあなたの窮地を救いにきてくださることでしょう。もし、ゲームオーバーになった際は次のお客様のために速やかに部屋を出てください。

 最後に、このゲームないで起こることはあくまでもフィクションです。現実のそれとは異なることですので、混同しないようにお気をつけください

 以上の注意事項をお読みになられた方に、本編冒頭でも、ほぼ同じ内容が読み上げられます。読むのが面倒だというかたはそちらをご覧ください。この注意事項を読んで十分だと思われる方はスキップと言ってください。

 金庫の投入口に百円をいれればEGGが開きます。それでは、ゲームをお楽しみください】


「……長ぇよ!」

 思わず、テーブルにツッコミを入れてしまった。だってそうだろう、テーブルというか金庫だし、小さな文字で細々と書いてあるし、もう途中どこ読んでるのかわからなくなったりさ。

 ちゃんと、読めた? 途中でブラバしてない? まあ、仕方ない。だって、読むの無駄に大変だし。

 俺が短くまとめよう。


「持ち物はすべて金庫に入れてゲームをすること。考えたとおりに動くアバターと、音声入力」


 ほら、短く言えた。注意書きなんて長々と書いても読むの大変なだけだから、あとはやって覚えればいいんだよ。っと。

 読んでいる間に裸一貫になった俺は、百円玉を握りしめ、すべてを金庫をしまうと鍵をかけた。色覚認証と指紋認証。二つとも同じものを持つものはいないとされる絶対安全な二重のロックをかけて、俺は投入口に百円を入れた。


 轟音とともに卵が大きく口を開ける。

 玉座のような椅子に腰を下ろし、頭にヘルメットを被る。卵が閉じ、視界が真っ暗に染まった。

「マスターシステム起動。プレイヤー様のプロフィールを入力してください」

 可愛らしい女性の声が聞こえる。それと同時に目の前が真っ白になった。

 女性から質問され、答えるとそれが目の前に表示される。年齢、性別、趣味、特技。

「最後に、プレイヤー様のアバター名をお教えください」

上杉(うえすぎ) 景虎(かげとら)

「苗字が上杉(うえすぎ)。名前が景虎(かげとら)。で、よろしいでしょうか? よろしければ、はいとお答えください」

「はい」

 俺の場合、アバター名に完全な本名は使わない。だが、恋愛シミュレーション(この手の)ゲームで全く別の名前を呼ばれるのも嬉しさ半減というものだ。ヒロインに声があるなら尚更。なので、名前がたまたま一緒だった歴史上の偉人の名前をお借りしているわけだ。ちなみに、親が意識してつけたわけじゃない。誰それ? とかいう始末である。割とメジャーな人物なんだから、しっかりしてくれよ。

「では、上杉 景虎様。入力情報に間違いがないのかご確認のうえ、よろしければ、はいとお答えください」

「……はい」

 一通り目を通したのちに首肯する。

「じゃあ、まずは注意事項をーー」

「スキップ」

 注意事項は端折った。一度読んだし、いきなり男の声で読み上げられてもなぁ。まあいい。


「さあ、ゲームの始まりだ」

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