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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第一章 中三-春
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1986春-8

毎月25日になると、小森のおやっさんが家に白い封筒を三つ持ってやってくる。

まずかあさんに挨拶して恭しく封筒を渡し、台所のテーブルでお茶を飲みながら残る二つの封筒をかなえさんに渡す。

こっちはかなえさんへの給料とこの家の生活費だ。


小森のおやっさんはチビでハゲで腰が低い。

とてもヤクザには見えないが首藤組の事務長で、親父の事業の金庫番をしているから、頭のよさそうなこ狡い目をしていた。

親父の組関係者で、唯一この家に足を踏み入れる人間だ。


「おお、ヒロちゃん。でかくなったな。いよいよ中三か」

廊下をすれ違った俺の横をそれだけ言って通り過ぎようとするから、右手を突きだした。

「――中三になる祝いくれよ」

じろりと俺を見上げて、仕方なさそうに財布をだし、千円札一枚を俺の掌に乗せた。

小森のおやっさんはケチだ。


それから台所のかなえさんのところへ行って、新しい学ランを買う金を貰う。

中二まで着て小さくなった学ランをこれ見よがしに着たままの俺の姿と、この間の惨めに破れたショーヤのお下がり学ランを見られていたから、黙って金を出してくれたが、「五万」と言ったら、「あんたのは三万以下で十分。どうせすぐ破くんだから」とバシッと言われた。

その後は、かあさんの部屋に行って、「ショーヤのお下がりの学ランを破いたから、かなえさんに金を貰えない」と嘘を言った。


毎月の俺の小遣いは母さんが直接くれることになっている。小学校の頃から、一学年で千円ずつ上がってくるという、泣きたいようなガキの計算だったが、おまけして中三から一万ということになっていた。

もっとも、なんだかんだ理屈を言えばかあさんは甘いから、毎月その二、三倍はせびっていた。


「ちゃんとした学生服買うのよ」

今日は熱の下がったかあさんは気分がいいのか、今着ている学ランが窮屈に見える俺の成長を嬉しそうに笑って、小遣いと学ラン代を足して俺のねだる五万を渡してくれた。


グズグズしてるとかあさんが騙されたことをかなえさんが気づいて金を取り戻しに来るかもしれないので、急いで家を出た。

原チャリに乗って駅に向かう。このタクトもショーヤが中三まで使っていたものだ。

俺の人生はショーヤのお下がりでできている様な気がするが、今、暴走族紅蓮トップのショーヤの愛車カワサキのZ400FX(フェックス)がいつか俺のものになるのなら、俺としては文句は言わない。



駅でみんなと待ち合わせて、変形学生服ショップの【ベンクー】に向かう予定だった。


俺たちが単に【駅】というのはJRの中央駅から出ている私鉄沿線の二つ目の最寄駅で、通勤通学の電車が中央駅まで6分で到着する。

駅の周辺はそれなりに賑やかで、スーパーのダイエーやコンビニ、ゲームセンター、雑多な飲食店も揃っている。


普段の俺たちの遊び場は、この駅周辺と国道のバイパスに最近できたジャスコだ。

もっとも、大きな買い物や遊びにはデパートやショッピングビルの揃っている中央駅前まで出かけていくことになるが、その時にはかなりの気合を入れていく。

【ベンクー】は中央駅の近くに店を構えていたから、その日の俺は新しい服を買うこととは別に、自分の勢力圏外に出ていく興奮もあった。




俺のタクトは駅前広場をぐるりと回ってから、商店街を通り抜けて一番端っこにある喫茶店【ジャバウォック】の前で停まった。

店の外からも流行っていないのがまるわかりの喫茶店、通称【ジャバ】が俺たち千種中のたまり場の店だ。


【駅】の周辺には4つの中学校がある。つまり遊び場が被るので、鉢合わせの諍いはしょっちゅう起こる。そのせいもあって、お互い手を出さない暗黙の了解の溜まり場をそれぞれ持っていた。

ただし、【ジャバ】の店内に入れるのは千種中の卒業生と三年生だけだ。

俺たちはこの春休みから、晴れて店の客になった。




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