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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第五章 高二・高三
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1989夏-3

「ヒロ、羽衣狩りのレビンハチロクの噂を聞いたか」

久しぶりに学校へ顔を出すと、かずまが俺を教室の隅に引っ張って行った。


「羽衣連合の奴らを狙ってるレビンがいる。首藤組のステッカー貼ってるらしいぞ」

「知らねぇ。関係ねーよ」

しれっと嘘をついた。


「おまえ、免許取ってからレビン買ったろ」

昼間はレビンに乗らないようにしていたが、かずまも知っている中古屋で買ったから話が洩れたのかもしれない。

「なあ、羽衣連合に恨みでもあるなら手貸すぞ」

最近ではあまり見せたことのない生気に満ちた表情で喰いついてくる。

「羽衣のケツ持ちの監物組が目の色変えて追ってるみたいだぞ」

「しつこい。俺には関係ねぇ」


かずまはまだ何か言いたそうだったが、顔を顰めてぷいと離れていった。


これは俺だけの身勝手な闘いだ。

かずまも紅蓮も絶対に巻き込んではならない。


首藤組に入らなければ、俺はカイを迎えに行くことができない。

その約束を守れない俺には、カイに会うための手段を他に思いつくことができなかった。



※ ※ ※



国道を流していると、前方をKP61スターレットが走っていた。

すっかり見慣れた羽衣と監物のステッカーがリアウィンドウに貼ってあるのを確かめて、10cmの隙間を開け後ろにべたづけして煽った。

逃げ出すかと思ったが、スピードをあげずにのろのろと走り続ける。

フェラーリホーンの耳をつんざく音を叩きつけながら、リアバンパーに軽くぶつけてやった。


やっと国道を逃れ、バイパスへの支線へ曲がりこんでいくのでそのまましつこく追いかけて煽り続けた。

この辺で止めといてやるかと思った時、いきなりスターレットが急発進してタイヤを軋ませながら急角度でスピンターンして、俺のハチロクの後ろに回り込んだ。


俺でも驚くほどの巧みなステアリングで、あっと思った時には前方から突進してくる以前見た古いクラウンが目の前に迫った。

挟み撃ちの罠に落ちたと理解する間もなかった。


三台の車の急ブレーキのスキール音にタイヤが焦げる臭いと白煙が上がった。前後からの衝撃で一瞬目が眩んで、金属バットを見失った。


窓がぶち破られ、胸ぐらをつかんで引き摺りだされた。

道路の照明灯はあるが、めったに車が通らない道だ。囮のスターレットに簡単に引っかかった俺が馬鹿だった。いきなり足で腹を蹴りあげられた。

膝を突きながら、男たちが三人いるのを霞む目で数えた。全部本職のヤクザだ。


「お前、どこのもんだ!こんな真似してただですむと思ってないだろな!」

また引き摺りあげられ、今度は拳で顔をぶん殴られたが、俺は蹲っている間にドアの陰になっていたバットを探り当てた。


手に握った瞬間それを振り回して、

「もっと強い奴連れてこいよ!てめぇらみたいなチンピラが相手になるか!」口の中の血を吐きだしながら叫ぶ。

そうだ、カイが来るまで止めるわけにはいかない。


「ぶっ殺してやるぞ!」

クラウンの後ろに走りこんだ男が、トランクから木刀を取り出して仲間にも放った。殺気立った手強い三人を前にして、俺も覚悟を決めた。



「――その辺で勘弁してやってよ。俺の昔の知り合いなんだヮ」

クラウンの中からふわりと声が落ちた。


「それ、首藤組の組長の実子だから。やりすぎるとあとが面倒だよ」

運転席に座ったままの男は窓の向こうで黒い影にしか見えない。それでもカイの声はすぐわかった。


「首藤組の――?」

一瞬たじろいだ気配があったが、男の一人が俺の髪をわし掴んで頬を張り飛ばした。

「だからって何の真似だ!てめぇのしてることは親の看板に泥を塗ってるんだ!二度とできないように身体に叩っこんでやる!」

カイの声を聞いた時からそれまでの意地が融け落ち、全身の力が脱(ぬ)けた。


三人がかりで袋叩きにされた。

俺と同様に、ハチロクもバットでボコボコにされた。窓も全部ぶち壊され、ボンネットもドアも穴だらけの惨状だった。


――降りてこいよ、カイ。


「二度とこんな真似をして見ろ。首藤組にカチコミに行くぞ!」

ぼろ屑になった俺を放り出して、男たちは其々の車に戻っていった。


辛うじてハチロクにもたれて座り込みながら、俺は震える手でマルボロを引っ張り出し口に咥えた。痛む指でジッポの火をつける。


――火、借りに・・・・降りてこいよ、カイ。

マルボロの煙は腫れた喉に沁みた。



クラウンの窓から右腕が突きだされ、その指の先に白い煙が燻るショッポが挟まれていた。



※ ※ ※



二台の車のテールランプが闇の中に消えていくのを、俺はただじっと見送りながら、ひりつくような笑いで痛む身体を揺らしていた。


『俺の目の前でヒロさんがやられるのを見るのは嫌だ』

そう言って、タイマンの時にさえ加勢してくれたカイが――降りてくることは無かった。



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