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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第五章 高二・高三
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1989夏-2

7月にやっと18歳になって俺は四輪の免許を取った。


車はかあさんにせびった。かあさんは毎月小森のおやっさんが運んでくる金を使い道もなくただ持っているだけだから、俺のために使えることが嬉しそうだった。

だから、俺はそんなに罪悪感を抱かずにかあさんの金を使うことができる。


「運転が上手になったら、一度ヒロちゃんの車に乗せてね」

俺の運転免許証を宝物のように両手で持ち上げて眺めながら、かあさんは微笑していた。


俺はもう十分運転は上手かったが、かあさんを乗せてやることはなかった、最後まで一度も。



当時、バブルの景気に乗って続々高級車が発売されていた。400万から500万にもするソアラやシーマが売れている時代だった。

俺は何もそんな高い車をかあさんに買わす気はなかったし、女の気を惹く車を欲しいわけでもなかった。


6年落ちの1983年製カローラレビンAE86を45万で買った。通称ハチロクと呼ばれるこの車は軽量後輪駆動車で急カーブを駆け抜ける峠の走り屋たちに人気があった。

俺にとっては動きが身軽で俊敏に走ってくれさえすればいい。少々ボコられても中古なら気にしないで済むだろう。


クラスの絵の上手い奴に頼んで首藤組のステッカーを作ってもらうと、他の無線クラブの代紋ステッカーを真似て自分の車に貼り付けた。

他の誰とも交信する気はなかったから、無線の装置を乗せることもなかった。


俺はハチロクだけを相棒にたった一人で狩を始めた。獲物は、腹に無線クラブ【羽衣連合】を貼りつけた――監物組をケツ持ちにしている車だ。



※ ※ ※



中央駅方面入口のある国道を流していると、【羽衣】と監物組代紋のステッカーを貼ったトヨタのマークⅡが走ってくるのが見えた。

後をつけて追い越し車線から、ウィンカーも出さずにマークⅡの直前にすっと割り込む。


「退(の)け!」 というようにパッシングしてくるから、すぐに車線を譲って先に行かせた。そしてその後に回りこんだら車間距離を詰めて煽りまくる。

ぶつけるのも覚悟の上だから、車間距離は10cmも空けず逃がさないように執拗に追っていった。



羽衣狩りは毎夜のように繰り返した。

気の弱い奴なら無線で仲間を呼ぶし、気の強い奴なら行く手を塞いで車を停め、俺を引き摺りだしに来る。

金属バットを握った俺が降りて行けば、たいてい逃げ出した。残された車のフロントガラスをバットでぶち割り、ボンネットをへこませて一丁上がりだ。


ほとんどは女漁りのヘタレだったが、中には腕に覚えのある奴が向かってきた。最初から闘う気満々の俺が先手を取るから、まず負けることは無かった。

無線で呼ばれた三台5人に囲まれたこともあったが、それでも勝った。


「悔しかったら、てめぇらのケツもち呼んで来い!」

俺の目的は、ただそれだけにあった。



※ ※ ※



その夜のローレルは逃げ足が早くてなかなか追い詰められなかった。運転も上手い奴で俺もついむきになって深追いした。

脇道に曲がって停まったところへ追いついたが、ドアを閉めたまま出てくる気配はない。


弱っちそうな二人組のくせに窓の内側から、俺に向かって中指を突き立てた。遠慮なくフロントガラスに金属バットを叩きつけてやった。

悲鳴が上がったが、それに重なるように背後に車が地面を噛んで急停車するスキール音が響いた。


「てめぇか、羽衣狩りとかほざいてる奴は!」

まだタイヤから煙が出ているくたびれたクラウンから男が二人降りてきた。


ヘッドライトの明りの中に監物組のステッカーが見える。やっとお出ましか――だが、カイの姿はなかった。


二人のヤクザが俺をねめつけてる間に、窓に蜘蛛の巣状の割れ目をつけたままローレルは逃げ出して行った。

「うちのお客さんに何ふざけた真似してくれんだよ。どこのもんだ!」

一人が俺の車の首藤組のステッカーに気づいて、指さして鼻で笑った。


「騙(かた)るんならもっとましな組にしろ。あんな金があるだけのヘタレの首藤組を名乗って何の得がある」

「首藤組がどうかは知らないが、俺はヘタレじゃないぞ!」

男が笑い終わる前に、バットでその肩口をぶん殴ってやった。喚き声を上げてひっくり返る仲間に慌てて、もう一人が飛びかかってきたが足で蹴り倒して脛にバットをぶち込んだ。


「もっと強い奴を連れてこい!」

地面を転げまわって呻いている奴らを蹴りつけて、吠えた。



凶暴なまでに荒れ狂う血が求めているのはたった一つ――カイにもう一度会いたい。



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