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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第五章 高二・高三
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1989夏-1

4月生まれのかずまは18歳になるとすぐに免許を取り、母親にねだってプレリュードの新車を手に入れた。


女に大人気の車だというのは知っていた。初乗りに俺を助手席に乗せてくれたが、いきなりシートがどさっとフルりクライニングに倒れ俺が天井を見上げて呻いたら、かずまがふっふっと鼻を鳴らして笑った。


「いいだろ。運転席からそっちのシートが倒せるノブ付きだぜ」

かつての倉田中の頭もただの女たらしに落ちていた。ただ運転席のドアの隙間に突っ込んである木刀だけが、昔の名残だった。


自分の車を手に入れると、かずまは先輩たちに倣って無線クラブ【天翔連合】に入った。



携帯電話の無い時代、ポケベルもまだ数字しか表示できない当時の俺たちの連絡手段は車に取りつけたパーソナル無線だった。

チャンネルの固定は違法だったが、仲間に無線で呼びかければすぐに連絡を取りあって集合できる。

【天翔連合】に入っても、紅蓮のように全員が顔見知りという訳ではない。一度も会ったことのない相手と声だけの交信で知りあいになることはあったが、仲間という感じは希薄だった。


色んなクラブが乱立し、少ないチャンネルの混信を避けて仲間内だけで独占しようと争いが起きるために、ほとんどのクラブにはヤクザのケツ持ちがついていた。

かずまの入った【天翔連合】は首藤組と同じ上部団体系列の来島興業がバックだった。


何も知らない奴が混じって交信でもしようものなら、「【天翔連合】以外の奴が割り込んでくんじゃねぇ!他のチャンネルへ行け!」と怒鳴りつけて追い払う。チャンネルを監視して常時確保してくれているわけだ。


何か事故を起こしてもめた時には、駆けつけて仲裁に入り、片をつけてくれる。

もちろん、無料(タダ)でそんなことをしてくれるわけではなく、会費と称する金を毎月支払う。そのヤクザの代紋のステッカーを車に貼って一目でどこがケツ持ちかわかるようにしておけば、他の車への牽制(けんせい)にもなった。


ひときわ派手な代紋のステッカーをつけたヤクザの車も見回りのように走り回っているのをよく目にした。他の組のステッカーを付けている無線クラブの車に嫌がらせすることも多かった。


俺の親父の首藤組はそんなケチな稼ぎはやらなかったが、それなりの小遣いになるのだろう、市内の幾つもの組が其々自前の無線クラブのケツ持ちをやっていた。

――カイのいる監物組もその一つだった。



かずまと一緒にプレリュードで夜の繁華街から中央駅前ロータリーを巡回しながら、女たちの品定めしていた。同じ目的の車は多かったし、ナンパを目当てに女たちも周辺に集まってきている。


最近では俺たちも目が肥えてきて、女なら誰でもいいというほどがっつかなくなっていた。

見た目のよさそうなワンレンボディコンの二人組の女に声をかける。こっちが年下だと見抜いている目つきだったが、かずまのプレリュードは女たちに絶大な効果があった。


歩道沿いに車を停め、笑いながらお決まりの誘い文句を交わしていると、後ろから大きく煽るエンジンの音とけたたましいホーンが鳴った。

かずまがちっと舌打ちして車を進める。


後ろについていたのはそれとわかるヤクザの車だった。でかでかと貼り付けられた代紋から見ると、富山組のものだろう。

【天翔連合】とは対立している無線クラブ【若草連合】のケツ持ちだ。

かずまは無線で仲間に警告の連絡を入れていた。


【若草蓮合】は暴走族崩れの連中が多くて荒っぽい。

以前、荒渡大瀬崎の正月暴走でもナイト・リッパーともめ事を起こしていた。紅蓮にも絡んできて追い回してやったこともあった。



「【若草】って言えば――最近の話だけど」

かずまが別のナンパ場所、南口の新しいファッションビル前に移動しながら、話しかけてきた。


「【羽衣連合】ってクラブと揉めて、双方のケツ持ちが出てくる羽目になったらしい。たいていはまあまあって宥めて双方の顔を立てることになるんだが、その時は両方のクラブの連中が頭に血が上ってて殴り合いの大げんかになった。

【羽衣】のケツ持ちのヤクザにめちゃくちゃ強い奴がいて、【若草】の連中をほとんど一人でぶっ潰したんだと――」

かずまが一瞬言葉を切ったので、次に続く言葉がわかった。



「――【羽衣】のケツ持ちは監物組だ。そこの若い奴だって言ってたから、きっとカイじゃないかと思うんだ」


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