表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/125

1988冬-10

呼吸ができなかった。

出せるだけの全力のスピードで突っ走るフェックスに向かって、風が叩きつけるような勢いで刃向い、俺の息の根を止めようとしていた。



「――親父はどこだ!」

幸町にある首藤組の組事務所に飛び込んで行った俺に、慌てた組員が右往左往として止めようとする。

それを片端から突き飛ばして奥に向かった。


組長の部屋に親父の姿はなく、若頭の滝さんとショーヤがいた。


「なんだ、ヒロ」

滝さんを制してショーヤが俺の前に立った。


「カイを連れ戻すんだ――!!」

そのためなら親父に頭下げる。高校だってちゃんと行く。紅蓮だって抜けてもいい。


「親父に頼むんだ!カイをうちの組に入れてくれって――!」

「何をガキみたいなことを喚いてるんだ!オヤジは出かけてて留守だ」

俺の前に立ちはだかって、鼻で笑うショーヤを本気で憎んだ。

こいつはいつもいつも俺の三歩も四歩も前を歩いて、俺の道を塞ぐ。


俺はショーヤに飛びかかっていって、その笑った顔に拳を叩きつけた。すぐに殴り返されて、後は俺の方がサンドバック状態だった。

ショーヤは体もでかいし、パンチが重い。殴り合いになるのは久しぶりだったが、やっぱり敵う相手ではなかった。

それでもどうしてもこいつに勝ちたかった。こいつを俺の前から押しのけたかった。



気が狂ったように暴れる俺を、部屋にいた若いもんが寄ってたかって押さえつけてきた。俺を止めるというより、ショーヤが俺を殴るのを防ぐためだったかもしれない。


やっと力尽きて大人しくなった俺とショーヤを残して、滝さんが他の組員を連れ部屋を出ていった。

「――カイがどうした」

床にひっくり返ったまま動かない俺の傍に屈み込んで、ショーヤが思いがけないほど優しい声で聞いた。

途端に喉に熱い塊がせり上がってきて、泣くまいと頑張ったが声が震えるのは隠せなかった。


「カイが、カイが・・・監物に行っちまう。あいつにカイを取られちまう」

「あいつって誰だ」

「カイの・・・親父。あんなのホントの親父であるもんか!」

「監物組の甲斐か・・・出てきたって聞いてたが」


大きく息を吐いたショーヤは俺の眼を覗き込み、昔の小さな俺に言い聞かせるような口調になった。

「カイが女なら、お前が守って傍に置いておけばいい。だが、あいつは男だ。お前の横に並びたがってた男だ。どんな道だろうが、自分で歩いて行くしかない。

ここにあいつの居場所はない」


「俺が組を継ぐ!それでカイを若頭にするんだ!」

「だめだ。お前に首藤組は継がせない」

拳よりも強い言葉で、ショーヤは俺を打ち砕いた。


「ふざけんな!首藤組は俺の親父の組だ!実子の俺が跡を取るんだ!」

「何度も言わすな。ここにはお前の居場所もないんだよ、ヒロ!」


突きつけられた言葉に、感情の全てが崩壊した。やり場のない泥濘の中で、俺は喚くことしかできない。

「お前が取ったんだ!組も親父も!――カイぐらい俺にくれよ!!」

「いつまでガキのままでいるつもりだ!」



もう一回殴られて意識がぶっ飛んだ。

気がついたら家のベッドに戻っていて、かなえさんが何とも言えない顔で俺を見下ろしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ