1988冬-2
「なんだか、ちょっと気になる・・・」
マリンさんだけが考え込む表情になった。
「機動隊まで来てたにしちゃ手ぬるいぞ。あのバスとパトカーの数、見たか」
警察車両がかなりの数で待機しているのは見えたが、初めての俺たちの代はそんなものだろうとしか思っていなかった。
「まあ、俺たちの後の奴らは捕まるか、追い返されそうだな。岬の頂上が空いていいヮ」 的矢先輩は気楽そうだ。
急坂と急カーブの続くスカイハイウェイは、もちろん降(くだ)ってくる車は無いから、上下二車線とも初日の出をめざした車が隊列を組んで進んでいく。
暗い中をゆっくりとスピードを緩めた四輪が申し合わせたようにみんなハザードを点滅させていた。
身体を車から乗りだした箱乗りの手にも赤く輝く筒が握られて打ち振られる。
赤や紫の光を撒き散らす回転灯を屋根に乗せた四輪や、ウィンカーを点滅させるバイクもいた。
それは、轟音に包まれた光の帯が天に向かって登っていくかのように不思議に荘厳な光景だった。
「きれいだな・・・」
初めて目にする俺たちは寒さも忘れてしばらくその場に立ち尽くしていた。
合図をして再び一斉に動きだした俺たちも、その光の流れの中にそれぞれの愛車と共に身を投じていった。
大瀬岬の頂上周辺は冬場は昼間でも閑散としているが、四季の花が咲く花壇や子供向けの遊園地やアスレチックも設置された広い公園になっていた。
スカイハイウェイは俺たちの県からの入り口だが、トンネルの向こう側、隣県からも同様に有料道路が岬に上がってきている。あっち側はブルーラインだ。
ちょうど頂上の辺りが県境だから、どっちも譲らなくて名前だけがぶった切られている。
広い駐車場は既に到着している四輪やバイクで埋められていた。ざっと見ても四輪が150台、バイクは300台というところだ。
まだこれから続々と増えてくるだろう。
公園の施設のほとんどは閉められているが、ドライブインを兼ねたレストランは煌々と明かりをつけて営業している。
「警察が毎年営業停止を申し入れてるのに、稼ぎ時を邪魔するなってはね除けているんだ」
どこにも、松爺や玄さんみたいな人間がいるらしい。
緊張が緩むと寒さが骨の髄まで染み込んでくる。
普段の倍の金を取るカップめんを喰いながら暖を取った。
「初日の出は何時だよ」
「今年は7時11分だったな」
「うぇ、まだ二時間以上あるのか」
じっとしていると寒さが募るので、周りを見回って来ることにした。
的矢先輩らは知り合いを見つけて話し込んでいるが、初めての俺たちは結構物珍しくてうろつきまわった。
ラジカセをガンガン鳴らして踊っている奴らもいる。どこから薪を調達してくるのか、盛大にたき火を燃やしている奴らもいた。
待ちきれないロケット花火が時々ひゅんと夜空を掠める。
正月ぐらい休戦条約がきくだろうというのは甘かった。ちょっとした小競り合いはあちこちで起きていて、罵声や怒号が響く。
さすがにすぐ他からの抑えが入っている。四輪の無線クラブのケツ持ちらしい本職のヤクザの車もかなりの数がきているようだった。
「拳王が来てるぞ」
バタがいち早く気づいて、駐車場のバイクを指さした。目いっぱい過激に改造した車体に髑髏のマークが描かれている一群。
ションを見つけたら、帰りがけに一発喰らわせてやるかとほくそ笑む。
「あっちでナイト・リッパーのバイクも見た」
「かずまたちは来てないかな」
智楠ナンバーや隣の県から来てる奴も多いから、警戒は緩めずに歩いていた。
岬の先端にあがると、眼下は真っ暗な海が広がっていた。砕け散る波頭だけが、時々白く光る。
遠くには無数の明りがきらめく工業地帯が臨めた。
「ヒロさん」
カイが俺の腕を掴んで、空を見上げさせた。
晴れ渡った夜空に、星が数えきれないほどの光を撒き散らしていた。
「・・・・寒いけど、来てよかったな」
「地上も天上も星の輝く夜だ」 ダブルがアホな詩人のような台詞を言う。
口々に笑い声をあげる、みんなの吐く息が白い。
「日の出はもっときれいだよ」
そらが歯をがちがちさせながら、自慢げに言った。
「俺、前に親父や兄ちゃんたちとここで初日の出を見たことがあるんだ。まだスカイハイウェイができる前だから、暴走族も来なかったからね」
スカイハイウェイができて暴走が始まってからは一般人は敬遠してしまっているが、大瀬崎は昔から初日の出の名所として有名だった。
「あんまり増えねぇな・・・」
駐車場に戻ってバイクや四輪を数えるように見渡していたマリンさんが、何か気になるのかしきりに首を傾げている。
「どうしたんだ」 俺が聞いても、首を振るだけだ。
「さっきから上がってくる奴がいない・・・」
「下の検問が厳しいんじゃねぇの?どうせ、日が出ちまえば、解除にするだろ」 的矢先輩は能天気なものだ。




