1988冬-1
大晦日の夜。
除夜の鐘が鳴り終わる頃、唐沢川の手前まで送りに来たハガたちのコールが鳴り響く中、紅蓮は橋を渡って西に向かった。
行き先は、20㎞先の県境を越えたその先、海にせり出した荒渡大瀬岬で見る初日の出。
岬は背後の山脈から続く峻険な岩山からなり、昔から風光明媚な観光の名所だった。5年ほど前に頂上付近に公園が整備され、国道から分岐した有料のスカイハイウェイが頂上まで開通した。
初日の出に向けての正月暴走が始まったのがその頃からだ。参加台数は年々増加していた。
唐沢川を渡って西進すると、20㎞先に県境があり、そこで県警が大規模な検問を敷く。自分の県の暴走族を外に出すのは恥だとばかりに、県警は総力を結集して西に向かう下り車線を完全封鎖してくるのだ。
検問の場所から5キロ手前、バイパスのドライブイン駐車場に、派手な改造をしたバイクや車高を低くした四輪の列が次々に集結し始めた。
暴走族のバイク、無線クラブの四輪、代紋をでかでかと貼った明らかにヤクザの四輪、小競り合いは起きても、とりあえず【行き】はみんな抑制している。
ここで情報を交換し、作戦を立てる。日ごろは対立している洲崎と智楠ナンバーも、この日ばかりは対警察で一致団結する。
「今年の検問は4時から始めるらしいぞ」
「去年は6時からやってその前に大勢突破されたから早めたんだろ。卑怯な奴らだ」
「国道とバイパス、どっちを行く」
並行して走る国道とバイパスの二か所があるから、どちらに重点を置くかはその年の県警の気分で決まるという噂だ。
たいていは四車線あるバイパスが対象になるが、それを避けて国道側を突破しようとした昨年の暴走族は、隠れていた覆面パトカーや白バイに猛追されて阿鼻叫喚だったらしい。
「今年は国道にも交機(交通機動隊)が来てるぞ」 偵察に行った先導隊が引き返して来て報告している間にも、目の前の道路を警察の増援部隊の車両が続々と通過していく。
デカいバスの窓には金網が入っている。
「マッポ(警察)も今年は気合が入ってるな」
「今年は500人態勢だって聞いたぞ。警備車両は100台以上出てるかもしれん」
「検問が始まる前に突破しちまおうぜ!」
時間は午前3時を過ぎていた。第一陣は既に飛び出している。
官憲側の唯一の弱点は、規則に縛られることだ。4時に検問開始と決めたからには、その前に繰り上げることができない。
「どっちを行く、ヒロさん!」
隣に並んだカイが叫んだ。
「バイパスだ!」
一斉にスロットルが回され、爆音が吠えた。俺とカイの合図で紅蓮は隊列を組んで一斉に走り出す。
紅蓮は俺のフェックスをはじめ、表向きは直管のマフラーとカウル(風防)以外あまり手を入れていないように見えるが、中身はエンジンのボアアップなどの改造しまくりのものが多い。
他の族のように三段シートや羽根つきテール、絞りハンドルの派手に目につく族仕様はないが、検問で停められたら全員整備不良で即アウトだ。
マリンさんも正月用にと奮発した新しい六連ホーンでゴッドファーザーを鳴らしまくっている。
強行突破は当然の成り行きだ。
西に向かうバイパスには一般車両も通行しているが、大瀬岬への正月暴走は知れ渡っているせいで他へ迂回して数は少ない。
県境には岬につながる岩山がせりだし、国道とバイパスは麓を貫通する長いトンネルで隣の県に通じている。
その少し手前、バイパスと並行する国道を繋ぐ交差点を全面封鎖して検問が敷かれていた。
3時半には、まだ三角コーンや鉄柵を並べ始めた段階だった。
停止させようとする警察が赤色灯や発煙筒を振り回しているが、そんなものを蹴散らす勢いで次々に強行突破して交差点を右折していく。
パトカーや白バイがサイレンを鳴らして急追して不運な数台が捕まったが、まだ態勢が不十分のせいで深追いはしてこない。
この後、どんどん後続部隊が押し寄せて来るから、検問態勢を整備する方を急ぐしかないはずだ。
国道へ出るとそのまま交差点を直進して支線に入り、有料道路のスカイハイウェイの料金所を目指す。
料金所前にも毎年検問が敷かれる。
警察車両らしいバスやパトカーがずらりと並んでいるのが見えた。だが、検問はまだ形だけで赤色灯が取りつけられた柵も突っ込む暴走車になぎ倒され、次々と突破された。
料金所はもちろんそのまま押し通るだけで誰も金は払わない。
「なんだ、マッポ(警察)も大したことないな」
料金所をくぐったところで一度集合して顔ぶれを確かめ合った。岬へ来るのは初めての俺たちでさえ、あっけない程簡単に通過できたことに拍子抜けした。
「検問が始まればあいつらも忙しくなるから、こっち側まで追ってはこないだろ」
ちょうど4時になり、バイパスも国道も本格的な封鎖と検問が開始される時間になっていた。




