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1987秋-2

「イブに走ってるのは、女のいない寂しい男ばっかりだぜ。モテないって世間に知らせてるみたいなもんじゃないかよ」

その年のクリスマス、ぶつくさ言うケータも引き連れて、紅蓮の集会に全員が揃った。


ダブルが本隊のみんなに真っ赤なマフラーを配って回り、「クリスマスプレゼントだ」と得意顔をする。

寒くなって首にタオルを巻く奴が多くなり、それがダブルの審美眼をいたく傷つけていたらしい。

ベンクーのバイトですっかり高給取りになって懐が潤っているから大盤振舞だ。



紅蓮の先頭には俺とカイがツートップで並び、続いてマリンさんや的矢先輩たち、バタを始めとする俺らの代、さらにハガやトラの代が続いた。最後尾はあさひがこっそり原チャリでついて来ていた。

途中からようこたちのレッドリップスが加わり、かずまやのんちゃんも合流した。


紅蓮だけでなく、市内の族の大半が一時休戦でイルミネーションの煌めく町中を爆音を立てて走り回った。

その後をパトカーの赤いランプがサイレンを鳴らしながら追いかけるが、今夜はどちらもお祭り騒ぎの小手調べだ。

本気の追いかけっこは、大晦日からの正月暴走にかかっている。



バイパスに新しくできた24時間営業のマックの駐車場で流れ解散になった。

レッドリップスの女たちは紅蓮の先輩と付き合ってる奴が多かったし、ようこも最近は的矢先輩とできてるらしい。

クリスマスだから、女の相手がいる奴はそのまま帰って行った。


ケータはもちろん一番先に姿を消し、そらもニタニタしながら消え、ダブルとバタさえ高校で女ができたと帰って行った。

ハガはまだバイクを持っていないトラを後ろに乗せて家まで送りに行き、結局残ったのは俺とカイとあさひの三人だけになった。


「男の友情より女を取るなんて世も末だ」 あさひがしみじみ言うと可笑しいよりこちらが惨めになる。

こいつはまだ中二のチビだからいいが、紅蓮のツートップが女っ気なしだ。

寒いから店の中に入り、三人でケーキの代わりのハンバーガーを喰った。


真夜中を過ぎているから客はまばらだ。

「あ・ふ・・俺、眠たいス・・・」

腹がいっぱいになったあさひが欠伸しながら隣の席へ移ってごろりと無理矢理横になった。



「俺も少し寝ていいか。明日朝から仕事なんだ・・・」

カイが脇の柱に身体をもたせ掛けて目を閉じながら言う。

「じゃあ、家帰って寝れよ」

「いい。ここ暖ったかいし・・・」 

あの寒々とした部屋が目に浮かぶ。クリスマスにたった一人あの部屋で眠るカイを思うと、窮屈でもここの方がましだった。


熱いコーヒーの追加を貰って席に戻ると、あさひはもういびきをかきながら眠りこんでいた。

カイも柱にもたれたまま眠りかけているようだった。薄い唇が少し開いて、ほとんど聞こえない声に動かされている。


「・・・・・・ら・・・・ら・ら~・・・・」 抑揚もないメロディ。途切れがちなフレーズ。

キキが繰り返していた、あの歌。 「・・・・いつか・・・行きたい、シャングリ=ラ・ら・ら・・・ら・・」



ぐらりとカイの頭が落ちて、そのままテーブルの上に突っ伏して動かなくなった。

まだ茶色に染めている髪の根元が黒くなってきていて、痛んだ毛先がぱさぱさになっていた。気がつくと、俺の指はその髪に触れていた。

少し長く伸びた髪は乾いて指に絡むと軋(きし)んだ。前より痩せたと頬と削げた顎先が見える。



キキと同じように楽園を夢見るカイは、どんなに強がってみせても本当は辛いのだと俺にはわかってしまう。


待ってろよ、カイ――きっと迎えに行くから。

16歳の俺にできるのは、そう繰り返しつぶやくことだけだった。



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