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1987夏-2

8月の最終土曜日。

その日、俺たちは初めて国境を越えた。


俺らの市の西端は唐沢川が北の山地から南に流れて海に注いでいる。それが西隣の市との境界線になっていた。

東西に走る国道とバイパスが各々大きな橋をかけて川を渡るのだが、俺たちにとって文字通り国境となっていた。


この唐沢川を挟んで車のナンバープレートの地名が変わる。一目で越境者がわかるのだ。

俺たちは【洲崎】、川の向こうは【智楠】の国だ。

【智楠】の国にも族は多い。地域意識が強いのは似た者同士で飛び抜けて大きいグループはないが、新参の多い俺らの【洲崎】に較べると10年以上連綿と続く老舗が多いのが奴らのしつこい性格を表している。


一般車の通行には全く関係のないことだが、俺たちのような族にとって同類の越境は密入国に等しい。派手な族仕様のバイクや四輪の【智楠】ナンバーを見つけたら、即、狩りが始まる。

そういう時は、市内の敵対グループも一時休戦で手を組むという暗黙の了解が成立していた。

【智楠】ナンバーを狩りたてて唐沢川から西へ追い戻すのだ。手向かって来れば、バイクも車もボコボコにして唐沢川に投げ込んでやった。


これが逆になれば、俺たちの【洲崎】が唐沢川を越えて越境者として追われる。

その肝試し的スリルが病み付きになるので、どちらの国も日々の越境が後を絶たない。

お互いのJR駅前のロータリーを一周して無事に帰還できれば、英雄だ。


先週、南野中卒の族【世紀末覇者:拳王】の数台が川を越え、【智楠】の奴らに追われて逃げ帰ってきたと笑いものにされていた。



唐沢川までハガたちが見送りに来た。

俺たちの代同様に夏休みの後半から紅蓮のケツに付いて走り始めていた。フェックスに乗り換えた俺がそれまで乗っていた250Eのザリはハガに譲ってやった。

「こっから先は中坊はだめだ」 昨年タクロウさんが口にした台詞を俺が言う。


唐沢大橋を渡って国道を西へ進む。

何度も川を越えている先輩たちが先導して、俺たちがその後に続いた。今日は俺とカイが遊撃隊だ。

橋を渡り終わった瞬間に、凄まじいマフラー音と挑発するコール、ホーンが響き渡って背後を襲ってきた。

――待ち伏せされたか!


越境してくる車を検問する見張りが置かれていると聞いていたが、予想以上に数が多い。10台以上のバイクと車が1台。

先輩たちがスピードを上げ、俺とカイが左右から最後尾に回り、スピードを緩めて蛇行しながら追ってくる奴らを牽制した。


赤信号も無視して爆走するが、振りきれないうちに脇道からも次々に智楠ナンバーのバイクが湧いてくる。ついに対向車線の前方からも迫ってくる一隊が見えた。

先輩たちが急ブレーキをかけて、交差点を左折した。追撃が予想以上にきついので駅前へのコースを諦めたのだろう。

だがこのままバイパスに入ってしまえば、追い返されるだけだ。拳王の二の舞は許されない。


カイに指で知らせてから前に回ると先頭の的矢先輩に、「やるぞ」と合図を送った。

地理に詳しいマリンさんが先頭に出てさっと脇道に入る。そのまま続いて一斉に後を追うと廃工場の跡地に走りこんだ。

みんなバイクを降りるとてんでに獲物の金属バットや木刀を手に待ち構えた。


「一回目からこれじゃ先が思いやられるね」 ケータがあははと諦めたように笑った。

越境一年組の俺たちは半端なく緊張していたが、ここまでくればいつもと同じケンカだから腹も括れる。

「それにしても、尋常じゃなく数が多いな。いつもはも少し楽なんだが」

 腕っ節に自信のある的矢先輩がこぼすように、眼前にヘッドライトを浴びせながら集結してくるやつらは50人ぐらいになっていた。

紅蓮は30人だが、せめても自分たちのバイクは死守するつもりだ。



「なんだ、拳王じゃねぇのか」

前に出てきた奴がメットを脱ぎながら意外そうな顔をしたので、先週逃げ帰った【拳王】の本隊が仕返しに来るのを待ち構えていたのだとわかった。

「俺たちの紅蓮をあんなヘタレと一緒にするな」 とんだとばっちりだ。

「こんなことしてる間に拳王が橋を渡ってるかもしれないぞ」 言っても無駄かもしれないが、一応言ってみる。


「紅蓮だろうが、拳王だろうが、洲崎の奴らはみんな口先ばかりのヘタレだよ!」

お定まりの台詞を口にして、そいつが鉄パイプを受け取ろうと背中を向けた途端にぶっ飛んだ。

カイがもう戦端を開いていた。


ショーヤとタクロウさんに仕込まれてるから、先輩たちもケンカ慣れして強かった。それでもカイの強さは群を抜いていて、初めてそれを目の当たりにした味方からも思わず驚嘆の声がもれる。

人数の差はあっても最初は俺たちが優勢だった。だが、援軍を呼び寄せたのか、次々と新手が押し寄せてきてとうとうバイクを背にするまでに押し戻された。


――俺のフェックスに手をかける奴がいたら、ぶっ殺してやる!

自分の愛車に対する思いはきっと誰も同じだったろう。



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