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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第三章 中三ー秋・冬
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1986冬-3

中三のクリスマスは、市内中の族が結集して賑やかに騒ぎまくった。あっちこっちで小競り合いを起こしながら、俺には女とパーティするよりはるかに面白かった。

ただ一つ、昨年は笑っていたキキがもう俺の傍にいないのが寂しかった。その代わり、今年の俺の傍にはカイがいる。



大晦日の深夜から初日の出をめざして、隣の県の荒渡大瀬岬まで走るのが周辺の暴走族のここ数年の流行りだった。

八坂神社やクリスマスの市内限定集会とは比べようもないくらい、二つの県にまたがる大規模の暴走は、警察も威信をかけて待ち構える。


紅蓮はもちろん参加したが、俺たち中三組は市の境界線である唐沢川の手前で見送るだけになった。

「こっから先は中坊はだめだ」

いつになく厳しい顔のタクロウさんがきっぱり言い、ショーヤや他の先輩も気合が入っている。


俺たちのコール音に送られて紅蓮は橋を渡っていった。



他にも幾つもの族が爆音を残して、次々と橋を渡っていく。

「来年は俺たちの番だな」 バタが白い息を吐きながら消えていくテールランプを見送って言った。


来年は――俺は単純に高校生になっている自分を想像していたが、高校に行かない奴もいる。入っても来年の今頃は退学してる奴もいる。

今まではただ学年を重ねるだけだったが、今初めて未来は茫洋とした不確かなものになった。

義務教育の中学を卒業すると言うのは、そういう意味合いを持つのだと初めて実感が襲ってきた。


「来年は絶対に橋を越えて、みんなで初日の出を見に行こうぜ!」 そらが力強く叫ぶ。

そうだ、少なくとも俺たちには来年も【紅蓮】があった。



国道を引き返して【みやこ食堂】で何か腹に入れて帰ろうということになった。

大晦日の夜に長距離トラックの姿は無かったが、俺たちみたいな族がらみや単純に初日の出を拝みに行く一般人も混じって広い食堂は結構混んでいた。


「今日は美佐ちゃんの電話はいいのか?」 月末の31日なので、カイにそっと聞いてみたが、「先月話しておいたから。大晦日はツレと出かけるって」あっさりとした返事が返ってきた。

やっと片隅に空いたテーブルを見つけて、そらがみんなの注文を聞いて回っている。


「おせち定食にしろよ」 俺が声をかけると、

「やだよ、そんなダサイの。うち帰ったらまたおせち喰わなきゃなんないのに」 ダブルは姉さんたちが寄り集まっておせち料理を作るのがうっとうしいのだ。


「うちはじいちゃんの作る煮物と蒲鉾だけだよ」 バタが苦笑いするが、「うちも似たようなもんだぜ」 息子ばかり三人いるそらの家では母親が正月からパン食にするらしい。


「うちは三段重ねのお重だよ。それを延々三日も食うんだ」 ケータの家はいまだに謎だ。父親は固い市役所勤めだし、母親は専業主婦だと聞いてる。なんでこんな女好きが生まれたのかわからない。


俺の家は、料亭でつくらせた仕出しの立派なおせちの重が組事務所から届く。かなえさんがお雑煮の椀を用意する。

かあさんはほとんど手をつけない重箱の中で、でかい鯛が俺を睨みつけているから、俺も子供の頃からおせちは好きじゃない。

若頭の滝さんが新年のあいさつに来るだけで、親父はもう何年も正月に姿を見せることは無かった。




「年越しそばにしようぜ。天ぷら付きで~」

「年越しはラーメン」

がやがやとうるさかったが、

「おせち定食でいいんだよ!俺が奢ってやる!」その一言で全て決まった。

明日になれば、お年玉で臨時収入が入ってくるはずだから、850円×5人分ぐらい軽いもんだ。


筑前煮に黒豆、芋きんとん、蒲鉾、伊達巻、海老、少しずつだが取り揃えたおせちとでかい餅の入ったお雑煮の椀。

湯気の立った温かい椀を抱えたカイが俺を見て笑いかけたが、不意にその顔がくしゃっと歪んだ。それを隠すように椀を口に運ぶ。


たった一人の家に帰るカイに、温かい正月の料理を喰わせてやりたかった。奢られたくないと意地を張るカイが断われなくするようにみんなにも奢った。



「キキも餅好きだったなぁ・・・」 雑煮を食べながらバタがつぶやく。


【みやこ食堂】にはお汁粉や安倍川餅も置いてあった。甘いものの好きなキキはよくそれらを頼んでいたが、前歯が溶けて噛みきれなくなってから食べなくなった。

小さく切ってやればよかった。


「だらしないし、言うこときかないし、正直じゃまくさい奴だと思ったこともあるけど」 ケータが鼻をすすりあげる。

「いきなり死んじまうなんてひでぇよ。キキがいないと俺らが俺らじゃないみたいだ」


周りが年越しでにぎやかに騒いでいる中で、俺たちのテーブルだけがお通夜みたいになった。

あの事件の後、みんなで集まってキキの話をするのは初めてだから仕方ない。


「俺はキキが可哀そうだと思ってた」

いつもは口数の少ないバタが、言葉が止まらなかった。

「あいつに較べれば俺の方がまだましだと上から見れたから、あいつに優しくしてやれた。ほんとは、もっと怒って、殴ってもシンナーを止めさせればよかったんだ」


「キキはさ、なんか人懐っこい犬の子みたいだったね」 そらは涙声だ。

「可愛かったよね。いい子だったのに・・・・どうして、あんな死に方しなくちゃならなかったんだ」


どうして――答えの出ない問いかけは永遠に繰り返される。

どうして俺たちは、キキを救う術(すべ)を持てなかったのか。


「俺たちがガキだからだよ。どうしようもない馬鹿なガキだからだよ」 ダブルの痛切な言葉は真実を突いていた。

みんなべそべそしていたが、俺はあの夜にさんざん泣いたからもう涙は出なかった。



向いの席に座っていたカイは、黙って俺を見ていた。




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