1986冬-1
12月の初めに受験の志望校を決める最後の三者面談が行われることになっていた。
俺はショーヤの行っていた仙堂学園に行くつもりだったから、いまさら面談の必要は無いと言い張ったが担任の川端が珍しく決まりだからと引かない上に、
かなえさんが自分で担任に電話して日時の確認をしてしまった。
名前だけ書ければ入れる(但し、金がかかる)ので有名な仙堂学園以外に俺の選択肢はなかったし、かなえさんもそれは承知だから、親も承知ということになる。
どこに面談の必要があるかと思えるが、川端はキキが死んだ事件で俺が影響を受けているのではないかと心配していたのは確かだった。
気は弱いし、授業はぼそぼそ声でわかりにくいし、体はヒョロヒョロだし、生徒には馬鹿にされっ放しの担任だったが、俺はそんなに嫌ってはいなかった。
何かというと俺に責任をぶん投げてくるのだけは鬱陶しかったが。
かなえさんが来るからと、一応大人しく廊下の椅子に座って待っていると、指定時間の5分前に現れたのはかあさんだった。
警察署に駆けつけてきた時とは違って、きれいに化粧して、スーツも着ていた。
「今日は気分もいいし、ヒロちゃんの先生にもごあいさつしたかったから」
びっくりしている俺の隣に腰を下ろしてにっこりと笑う。頬紅もつけているから、元気そうに見えた。
教室のドアが開いて面談の終わった前の組が出てきた。
武田綾香とその母親らしかった。ちょっと目を見張って俺と母さんを見比べた後、そっと会釈して帰って行った。
俺の素行注意の呼び出しやら何やらで何度か会っているかなえさんの顔は見知っている川端も、かあさんが来たのに驚いたのか、挨拶もしどろもどろで俺の方がこいつ大丈夫かよと心配になる。
「首藤君は仙堂学園なら単願一本で大丈夫だと思いますが、なにしろ、あそこは・・・」
「南條照也君が行っていた学校ですからよく承知しています」 かあさんが頷いたから、よし、これで終わった!と腰を上げかけた時、
「ヒロちゃんは・・・博之は学校ではお友だちと仲良くやっていますか」 小学校の時と同じ質問をかあさんが聞いてきた。
成績のことを聞かれたわけではないので川端もほっとしたらしく、「首藤君はリーダー格で友人も多いし、信頼もされていますよ」
最大級に当たり障りなく褒める。
「そうですか、よかった」 かあさんは嬉しそうだ。
もう他に褒めるところはなさそうだから、俺はかあさんを引っ張るようにして席を立ち廊下に出た。
かなえさんが待っていて、「ヒロの行状を聞かされてショックで倒れなかった?」 と余計なことを聞く。
「ヒロちゃん、いい子ですって」 かあさんは自分の聞きたい言葉しか聞こえないのだろう。
かあさんがかなえさんと一緒に帰って行くと、川端がドアから顔を出してそれを見送った。一人20分の予定が5分で終わったから暇なんだろう。
「・・・首藤君はお母さん似なんだね~」
「うるせぇよ!」
あんな今にもぶっ倒れそうな女と似てたら、ヤクザになれないじゃないか!
俺は、仙堂学園から首藤組へのコースが志望進路なんだよ!
「首藤君、仙堂学園は今年から少し難度が上がったって聞くから、勉強しといたほうがいいからね」
最後に爆弾発言をして、川端は教室のドアを閉めた。




