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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第三章 中三ー秋・冬
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1986晩秋-1

後で思い返せば、その秋は一番幸せな時期だった。


騎兵隊は盤石の地位を得て恐いものは無く、中央駅まで出ても大手を振って闊歩していた。


紅蓮ではタクロウさんとショーヤのツートップの下で、俺とカイが特攻隊長を気取っていた。


タクロウさんとショーヤを先頭に、25人の先輩たちが並ぶ。

その後ろを俺たちの代が続く。

ダブルの後ろでケータが紅蓮の旗をしっかりと支え、キキはそらの後ろで歓声をあげながら片手に握った木刀を振り回していた。

バタがケツに付き、背後に目を配る。

俺とカイは左右に分かれて前後を行き来しながら、何かあればいつでも飛び出せるようにしていた。


赤信号の交差点では一番に突っ込み、青信号の車線をふさいで仲間を通過させる。

反対車線ですれ違う敵対する族との一瞬の攻防。急回転して背後に回り込み、狩りたてるように追い詰める。


全員が一斉にセル掛けする時の身震いするほど官能的な瞬間。煽り立てるエンジンの排気音。

バイクと自分の身体が一体となって風を切る快感を覚えてしまうと、他は何もかも色あせて見えた。



※ ※ ※



11月の暖かな日差しが教室の窓ガラス越しに降り注いで、まるで俺に寝ろと言っている様だった。

担任の川端の数学を唱える声も子守唄のように聞こえてくる。


とろとろと短い眠りを貪りながら、頭の片隅にひっかかるものがあってよく眠れないのは、隣の席のキキがもう三日も出てきていないせいだ。

俺たちは遅刻したり、早退したり、ずる休みしたりだったが、基本的には友達と会える学校が好きだった。

家でまともに温かい飯を食えない奴らは、給食を食べるのも楽しみの一つだった。



二年の終わりごろ、そらとケータが給食室の廊下に用意されていたチキンシチューの入ったバケツを盗んで来て、みんなで屋上で喰ったことがあった。

「いっぱい食えよ、キキ」 それがキキの好物だとみんな知っていた。


俺の幼なじみだから仲間に受け入れてもらったわけじゃなくて、キキには独特の愛嬌があったから仲間に可愛がられていた。

それでもキキの家庭環境は最悪だったし、いくら呼び出されても親は学校へ来なかった。

一番の問題はシンナーの常習で、教師たちは完全に見放してあと四ヶ月先の卒業まで大きな問題を起こさないでくれればいいと思っている。



廊下の方で騒ぎが起きていた。悲鳴と歓声。けたたましいマフラー音。校舎の二階の端にある俺たちのクラスまでその騒ぎがうねりのように押し寄せてくる。

廊下を走る原チャリが壁に激突する寸前に急ブレーキをかけて止まり、急回転してまた廊下を走り戻っていくのが入口のドアのガラス越しに見えた。

「席についていなさい」 川端が悲鳴のような声をあげて、それでも廊下に出ていった。


「ヒロさん!」 隣のクラスのバタが飛び込んできて俺を呼んだ。

そらもケータもダブルも走りこんできた。「ヒロさん!キキが!」

それでも俺は動けなかった。廊下を走る原チャリをガラス越しに見た時から、それがキキだとわかっていたから。俺はいつも肝心の時に動けない――その先が怖い。


「――首藤」 川端が声を震わせて俺の腕を掴んだ。「止めてやってくれ、児玉はお前の言うことなら聞くから」


廊下に出ると、体育教師の勝俣が喚いていたが原チャリは止まるどころか、跳ね飛ばすような勢いで廊下の端まで爆音を響かせて走っていた。つるつるした床に滑って転倒してもすぐに起き上る。片手に木刀を握ったままだ。

「キキ!やめろ!」

俺の声が聞こえたとは思えない。そのままの勢いで戻ってきた原チャリは今度こそ壁に激突して、キキの身体が投げ出された。


二階にある三年6クラス分の戸口に生徒が鈴なりに首を突き出している。

勝俣とガタイのいい現国の加藤が近づこうとするが、キキの振り回す木刀に恐れをなして腰が引けている。


「キキ!どうしたんだ。またシンナーやったのか」

よろよろと立ち上がったキキはふらつきながら歩いて階段の手すりに手をかけると一段ずつゆっくり上っていく。


「他の生徒は教室に戻りなさい!」

「警察を呼んだか!」

喚き続ける教師たちの声も、呼びかける俺や仲間の声もまるで聞こえないようにキキはひたすら階段を上っていく。

三階は特別教室が並ぶだけで、キキが上り続ける階段のその先は屋上だ。

俺たちがいつもたむろしていた――鍵の壊れた屋上。



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