1986盛夏-9
とりあえずかずまは戦力外になったのがわかったので、カンカンと久我中方面へ向かった。
JRの踏切を渡ったところで、引き返してきたカイたちと上手く出会えた。
「遊佐たちは無事か!南中は来てなかったのか!」
「久我中の奴らは無事だが、遊佐が面倒なことを言いだした」
バタが顔を顰めて路上に停めた原チャリのタイヤを蹴った。
どうやら遊佐は南野中にスパイになる奴を手懐けてあったらしい。
ションたちの動きをいち早く知ってうまく逃げ遂せたらしいが、うろうろしていた南野中の下っ端を一人捕まえて交渉役に仕立て、ションに条件を突きつけた。
タイマンで決着をつけよう」ということだ。
※ ※ ※
「50対50で全面対決になったら、それこそ警察沙汰になる。それぞれ代表を出してタイマンで戦って、負けた方が潔く退く。どうだ、いい条件だろう」
その日の夕方、【ジャバ】で落ち合った遊佐は、集まったみんなの顔を見回して自画自賛で頷いている。
「5対5だ。ションもその条件を呑んだ」
外村ののんちゃん、香西のカイ、倉田のカンカン、千種の俺――あと一人。
「お前も出るんだろうな、遊佐」
「俺はだめだよ。喧嘩は強くない」全く悪びれずに遊佐は首を振るが、久我中の他の奴らも似たり寄ったりだ。
「俺が出る」 バタが唸った。
「うん、最強の布陣だ」こういう時の遊佐はどうも胡散臭い。
三日後、夏休み最後の8月31日、午後8時。工業団地の西駐車場。
南軍騎兵隊と南野中学は、それぞれ五人の代表を出してタイマンで勝負することになった。
「多分南中で出してくるのは、ションの他にまずラオウとケンシロウだろうな」
早速情報収集に乗り出したそらが遊佐と相談しながら対戦相手を検討する。
「はったり臭い名前の奴らだな」ダブルが冗談ぽくいったが誰も笑わなかった。
ラオウとケンシロウは名前が知られている南中の双璧だ。どっちも喧嘩が強い。
「ションはヒロさんとやる気だろう。ラオウは体のデカい力自慢だから、のんちゃんがやるか?」
のんちゃんは大きく頷いてにたりと笑った。遊佐と違って、こういう時ののんちゃんは頼りになる。
「ケンシロウは空手をやってるって聞いてるから、カイがやった方がいい」
カイも頷く。
「あとは、トミタと目良(めら)とタイガの誰かだろ。どいつも他の学校なら番格になれる奴らだ」
全く嫌になるくらい、クリーンナップが打てる奴らが揃った悪の巣窟だ。
「誰にしろ、それは俺とカンカンがやる」バタがバキバキと指を鳴らしながら言うと、
「トミタは俺にやらせろ。かずまをやったのはトミタだ」カンカンも唸る。
「おお~決まったな。前祝といくか」
この前のあくどい追剥のような所業は忘れたふりをして、玄さんがあれやこれや山盛りの皿を運んできた。
まだ病院にいるかずまが、今夜の支払いは全部持つと言っていてくれているので遠慮なく飲み食いしたから、玄さんも上機嫌だった。
気合の入っている俺たちは、玄さんの運んでくる泡の立つジュースのグラスを次々に空にした。
「大丈夫か、ヒロさん。南中の奴らは危ないぞ」
隣に座っていたカイが低い声で俺に聞いてきた。少しも酔った風が見えないのはいつものことだった。
カイが心配しているのは自分のことではなくて、俺のことだろう。
「お前と引き分けた俺が、他の誰に負けるって言うんだ?」酔いが回ったせいで、気が大きくなっていた俺はけらけら笑った。
「いいか、カイ。タイマンになったら他の奴は手を貸しちゃだめなんだ。お前が負けそうになっても助けてやらないからな」
「わかってる」
どうせ一度はぶつかって決着をつけなくてはならない相手だ。勝った方が天下を取る。




