表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第二章 中三-夏
41/125

1986盛夏-8

バイクの練習は涼しい夜の間で、暑い日中は一応エアコンの効いた【ジャバ】でだらだらと喋りながら過ごすことが多かった。

一杯のアイスコーヒーで粘る俺たちを嫌な顔をしながらも、他に客も来なかったから玄さんも追い出しはしなかった。もっとも俺たちのためになんか、エアコンは設定温度を下げてはくれなかったが。

松爺のところが暇になったカイもほとんど毎日俺たちと一緒に行動していた。



いきなりドアが押し開けられて、ウィンドチャイムがぶつかり合い、けたたましく鳴り響いた。

玄さんが「いらっしゃいませ~」を言う前に、あさひと倉田中のカンカンが転がるように飛び込んできた。


「かずまがやられた!」

「柳屋に南中の奴らが来たって!」


かずまの率いる倉田中の【駅】近くのたまり場は、柳屋という駄菓子屋だった。奥にゲーム機が三台ほど置いてある。

小学生の頃からのお得意のかずまに店のばあさんが便宜を図ってやるので、倉田中の奴らはほとんど毎日そこにたむろして、買い食いに来る小学生をビビらせていた。


「俺がついた時にはもうやられてて、かずまとせいちゃんが救急車で病院に運ばれてた!」

倉田中で一番けんかの強いカンカンが留守の間に襲われた。

「南中のションが15人ぐらい引き連れてきたらしい。一個ずつぶっ潰してやるって喚いてたそうだ」


「俺、他の学校の騎兵隊に知らせてきます!」

あさひが飛び出して行った。

「どうする!ヒロさん」 わらわらと仲間が血相を変えて集まる。


夏休みでバラバラになっているところを狙ってきたに違いない。

学校にいないから、互いに連絡をつけるのに時間がかかると見抜かれたのだ。


「のんちゃんの外村中は遠いから後に回すだろう。次にやられるとしたら、遊佐の久我中だ。カイ、バタとそらとダブルと一緒に久我へ行ってみてくれ」

頷いて店を走り出た四人は、二台の原チャリにニケツ(二人乗り)で乗り込むとあっという間に走り去った。

「キキ、ハガを捕まえてこっちの態勢も準備しとくように言っとけ」

うん、と珍しく真剣な表情になってキキも駆け出して行った。


「南中とやるのか!」カンカンが血走った目を俺に向ける。

「お前は俺と来い。かずまの様子を見てからだ」

「多分、千坂総合病院に運ばれたと思う」


カンカンが乗ってきた原チャリの後ろに跨って走り出そうとすると、店の中から玄さんが出てきた。手に金属バットを握りしめている。

南中の奴らが殴り込みに来ても、玄さん一人で十分戦えそうな迫力だった。


「おい、金払ってけ」 ドスの効いた声で俺に凄む。

「こんな時ぐらいツケにしとけよ、タコ!」

「うるせぇ、お前らがやられたら金を取りっぱぐれるじゃねぇか」

手に持ってる金属バットは助っ人をしてくれるわけじゃなくて、食い逃げを殴る気なのがよくわかった。

俺は黙って金を叩きつけ、玄さんに向かって中指を突き立ててやった。



※ ※ ※



千坂総合病院の院長はかずまの実の父親だ。

俺が町中に住んでいた小さな頃は、風邪をひくとこの病院に連れて行かれた記憶がある。

内科医の院長はけっこうな年のジジイだと思っていたが、若い愛人を囲うだけの金と体力があったらしい。


かずまの病室には、医者らしい若い男と、生活安全課の刑事(デカ)の但馬がいた。

千種中の二個上の先輩らがものすごく悪かったから、但馬はよくうちの中学に顔を出していたので、顔なじみと言ってもいい。


「おう、ヒロじゃないか。こいつをやったのはお前か」

指さすベッドの上で頭に包帯を巻き、左かかとにギブスをはめたかずまが睨み返している。

「これは原チャリで転んだって言ってるだろが!」

「免許は?見せてみろ?」

むぐっとかずまが押し黙る。


「まあその辺で勘弁してやってくださいよ。まだ頭の検査も残ってますから」

傍らの医者が助け舟を出してくれて、但馬はしぶしぶ病室を出ていった。

「大丈夫か、かずま」 カンカンが心配そうに覗き込む。

「せいちゃんは・・・」

「ああ、あの子は大丈夫。少し縫ったけど、もう家に帰したから。こいつも足の骨折以外は、見た目ほどたいしたことは無いよ」

若い医者がけろりとした感じの雑な手つきでかずまの頭をこづいた。


ひでぇ医者だと思った俺を察したように、かずまがひどく困惑した表情で、「こいつ、俺のにいちゃん・・・」と、ぼそぼそ言った。

どうやら、本妻のところの異母兄ということらしい。

「かずまの友達なんだろ。あんまり無茶をしないように言い聞かせてやってくれ・・・と、言いたいがその様子じゃ無理だな」


苦笑いしながら医者が出ていくと、かずまがやれやれと言うようにベッドに倒れ込んだ

「できのよさそうな兄貴だな~ 幾つ違うんだ」 

「12。――それより南中だ!あいつら、本気でやる気だ!」


南野中の頭のション(鳥居賢二)は、かずまたちを袋叩きにした後、「なにが南軍騎兵隊だ!てめぇらなんか、いつでもぶっ潰せるぞ!ヒロを呼んで来い!」と喚いたらしい。

同盟を組んだ俺たちにビビッていると南中卒の先輩らがションを吊し上げたせいもあるのだとかずまが言う。南中の頭としてはこのまま引っ込んでいるわけにはいかない。腹を据えて騎兵隊と全面戦争に持ち込む気だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ