1986初夏-6
「これじゃあ、いつもと同じだ。京都まで来て、何やってんだろね。俺たち」
やっと逃げ遂せて呼吸を整えながらダブルがぼやくと、みんなその通りだと笑いだした。
他の班はとっくに名所旧跡を回っているに違いない。
「なんかうまいもんでも食おうぜ」
そのあたりのことはそらがしっかり情報を仕込んで来ていて、錦市場で食べ歩こうと言うことになった。
「どこへ行った」と聞かれても錦市場なら、誰も文句は言えまい。
目新しいものが並んでいる商店街を歩きながら、俺たちはあれこれ買っては分け合って食べた。
佃煮屋で売っているチョコレートのコロッケは【ジャバ】の玄さんに食わせてやりたかった。
串揚げや天ぷらも美味かったが、俺は出汁巻き卵が気に入った。かなえさんの卵焼きは甘いだけだから、こういうのも勉強してくれればいいのに。
「ヒロさん」 呼ばれて振り向くと、カイが俺の口にアツアツのタコ焼きを放り込んできた。
「あちぃ」 俺があふあふしてるのが面白いらしく、カイが楽しそうに笑った。
「もう夕飯がはいらねぇな~」
みんなそう言いながら、アイスだ、団子だと賑やかに騒いでいる。
これでキキが揃っていたら――俺たちは完璧なはずだった。
結局錦市場だけで自由時間は終了し、俺たちは慌ててタクシーを奮発してそれぞれの宿に戻る羽目になった。
ケータもちゃんと時間に戻ってきたが、腹が膨れただけの俺たちと違って、妙にすっきりした顔をしていた。
夕食前に勝俣が木刀を没収しようとしたが、担任の川端が「旅行が終わったら、返してあげるから」と預けるだけで済ませてくれた。
「君たちが何事もなく無事に帰って来てくれて本当にホッとしたよ」
本音を漏らす川端に、土産物店での武勇伝やケータの他校女子との不純異性交遊を教えてやりたくてうずうずした。
※ ※ ※
次の日の夕方、予定時間通りに新幹線は中央駅に到着した。
改札の外で迎えの教師と一緒に、キキが伸びあがるようにして俺たちを探していた。
「キキ――」
手を振ると、嬉しそうに大きく手を振り返してくる。
最後の点呼を終えると、俺たちはキキの側に走り寄った。
「ほら、土産だ。八つ橋」
「阿闍梨餅(あじゃりもち)だ。ぺったんこだから喰いやすいぞ」
「金閣寺と京都タワーのミニチュアだ。どっちにするか迷ったから二つな」
みんないつ買ったのか、口々に説明しながらキキに土産を手渡す。
俺の土産の小さな紙袋をキキが開けると、みんなぶはっと吹き出した。
可愛い双子のついたキーホルダーはどう見ても女の子向けのものだ。
「これキキとララって言うんだ。この青い髪の方がキキっていうらしい。お前と同じ名前だろ」
俺が一生懸命説明しているのに、「布団背負ってるぞ」とそらが茶化す。俺の仲間だけあって似た者同士の感覚だ
「ありがと、ヒロちゃん。俺、大事にする」
ぎゅっと握りしめて、キキが嬉しそうに笑った――真っ黒な融けかかった前歯が覗くのが見ていられなくて俺は顔を背けてしまう。
荷物があるから迎えの親が中央駅まで来ている者も多かったが、俺たちは一緒に電車で帰ることにしていた。
【ジャバ】に原チャリを置いてある。
「俺らはバスで帰るから」
香西中のカイたちが声をかけて帰って行った。
その後ろ姿を見送りながら、俺はカイがいつ美佐ちゃんに土産のブレスレットを渡せるのだろうと考えていた。




