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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第二章 中三-夏
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1986初夏-1

学ランに鮮やかな黄色の腕章をつけて朝飯のテーブルに着くと、ショーヤがもう食べ終わるところだった。これからタクロウさんとこの土建屋のバイトに出かけるのだろう。


腕章を見てぷっと吹き出し、「だせぇ、中坊丸出しだな」と俺の頭を小突いて出て行った。

「葬式の喪章にしちゃ、黄色は見たこと無いね」

かなえさんも笑いをこらえていたが、俺はいたって真面目な顔で受け流した。



タクトで【ジャバ】に乗り入れると、千種中の顔ぶれはそろっていた。同盟中学全体の集合場所は中央駅なので、俺たちはここの駅から電車で行くことにしていた。

三年は俺、バタ、ダブル、そら、ケータ、キキの他につるむことの多い工藤、山本、浦賀を加えて9人。

二年はハガの他には連れて行かないことにしていたがトラはやっぱりついてきた。

おまけの一年のあさひは腕章をまだ渡してもらえないが、こんな機会を見逃してなるものかとこれもついて来ている。



玄さんに見送られて俺たちは電車に乗って中央駅に向かった。

最初ははしゃいでいたそらやケータも、電車が中央駅のホームに滑り込むと緊張したように黙り込んだ。


「――行くぞ」

下腹に力を込めて仲間に声をかけ、ホームへ降りたった。

これは南野中への挑戦状を突きつけることになる第一歩だ。



※ ※ ※



改札を抜け駅ビル北口を出たロータリーの前、市のシンボルである欅の大木が集合場所だったがどうやら俺たちが一番乗りだったようだ。

この辺りはたいてい南野中の奴らがうろついているはずだが、その前にガラの悪そうな高校生の三人組が寄ってきた。

「おう、おう。今日は葬式へ行くのか」

「黄色じゃ鶏の葬式だろうよ。ケンタで鶏のから揚げ喰うんだと」

身体のデカい奴らだったから、中坊の群れぐらいちょっと脅せば小遣い稼ぎになると思ったのだろう。


気の短いバタが出る前に、腕章を馬鹿にされたダブルが切れた。一番デカい奴に向かって飛びかかっていった。

俺たちもさっと身構えた時、

「何やってんだ――ったく」

久我中の遊佐が6人引き連れて近寄ってくると、改札の方からも倉田中のかずまが10人並んで突っ走ってくる。


総勢30人にも囲まれると、さすがの高校生も顔色を失くして逃げていった。

みんなで大笑いしながらそれを見送るのはなかなかいい気分だった。


そのうち集合時間の10時を過ぎたが、まだ全員そろっていなかった。

「香西のカイと外村ののんちゃんはバスで来るんだろ。南口のバスターミナルだな」

様子を見てくると、ハガとトラが走って行った。

「南中の奴ら・・・全然、姿が見えないと思わないか?」

遊佐の言葉を待つまでもなく、俺もそれが気にかかっていた。

これだけの人数で駅前に集まっているのだから、南野中の奴らが気づかないはずがない。


「――あっちだ!」

連絡通路から飛び出してきたトラが南口の方を差して悲鳴のような声をあげた。

それだけで十分だった。俺たちはいっせいに通路に向かって走りだし、南口への階段を駆け下りた。



形勢はもう決まっていた。香西と外村の20人に立ち向かっていた10人ほどの南野中の奴らはほとんど地面に転がっていたが、駆け寄ってくる俺らに気づくとそれこそ蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

カイは何事もなかったように学ランについた土埃を払っていたが、のんちゃんは巨体を揺すって満面の笑みを浮かべていた。


「見たか。南中の奴らすっとんで逃げてったぞ」

のんちゃんの外村中は柔道部崩れが多く15人の総勢で、もともと不良(わる)の少ないカイの香西中はりょーへーやクーガの他に三年があと二人、計5人の顔ぶれだ。


同盟した五つの中学校の戦力は三年を中心に50人を超えた。南野中は全学年で50人ぐらいだから、大勢は俺たちに有利だと思える。

「全員揃ったところで南軍騎兵隊のお披露目パレードだな」


行き先は決まっていた。駅前に半年前にオープンしたばかりの全館ゲームセンター。ずらりと並んだ最新式のゲーム機のフロアや、ボーリング場やカラオケルームが揃っていたが、いつも南野中の奴らがたむろしていて、他中の生徒は寄りつけもしなかった憧れの殿堂。

俺も一度だけ、ショーヤとタクロウさんにくっついて覗いただけという屈辱を味わされていた。


50人もの男子中学生が黒の学ランに黄色の腕章をつけて駅前ロータリーを練り歩き、赤信号の横断歩道を強引に渡り、前を横切るものを邪魔だとねめつけていたのだから、善良な市民は目を合わさないように慌てて道を譲った。

因縁をつけてくる高校生もいなかったし、駅前交番のマッポ(警官)も唖然としているだけだった。


ゲームセンターで半日遊び、近くのデニーズで飯を食い、【ベンクー】で新製品の学ランを品定めし、ヨーカドーの駐車場に停めてあった鳥居たちの原チャリを蹴倒し――俺たちが南野中の縄張りを楽しく蹂躙している間、奴らはとうとう一度も姿を見せなかった。



帰り道の中央駅前は結構な観衆が出ていて、その中に歓声と冷やかしの声をあげるようこたちのグループもいた。ケータが愛想よく手を振って、キャーと黄色い声が上がる。

「中坊がイキがりやがって」

聞こえよがしに吐き捨てる高校生たちも、面と向かっては何も言って来れない。



南軍騎兵隊の名前は、その日のうちに市内の全中学校に知れ渡った。




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