表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第一章 中三-春
24/125

1986春-23

同盟が成って、まず俺たちがしたことは――同盟の名前を決めることだった。

一応トップは俺に決まったので、千種中で同盟の名前を決めて良いことになったが、それはそれでかなりのプレッシャーがのしかかっていた。


「〇〇愚連隊とか××連合や□□同盟は止めてくれよ。そういうのはあっちこっちでついてるからダサい。」

ダブルはファッション以上の熱を込めて、上がってくる名前を片端からけちをつけた。

同盟した他の中学の奴らに馬鹿にされるような名前は絶対に付けられないと力説する。


俺たちの間では考えられないことだが、漢和辞典とか、四文字熟語選集とか、良い子のことわざ辞典とか、誰がどこから持ってきたのか、周囲にうず高く積み上げられていた。



俺たちが顔を揃えていたのは、いつもの集合場所で、バタのじいさんが昔使っていた古い作業場だった。

かずまの家の冷暖房完備で、菓子ジュース大盤振る舞いの贅沢に慣れてしまうと、隙間だらけの板壁に囲まれ壊れかけた作業台や椅子が並んでいるだけの場所はわびしかったが、ここならキキはいつでも好きに振る舞える。


バタは小さな木工所をやっているじいさんと二人暮らしだった。両親がどこにいるのかバタは口にしないし、俺たちも聞かない。

そらは何か知っていたかもしれなかったが、仲間内では本人が喋ること以外は詮索しないのが暗黙のルールだった。


じいさんは午後7時には酒を飲んで寝てしまうので、俺たちは夜中でもおおっぴらに出入りできたし、作業場の周囲は畑と竹林が広がっていて、騒いでも文句を言ってくる近所もなかった。

ただ、作業場に使っていた小屋は燃えやすい木端が散乱しているため、中でのタバコは厳禁だとバタにしつこく言われている。


万が一のためにと、そらが大型消火器を二本配備してくれたが、【千種中備品】とシールが貼ってあるのは見ないことになっていた。


タバコは外で、ドラム缶を半分に切って水を溜めた側で吸う。冬は寒いし、夏は蚊に刺されたが、水の中には吸い殻がどんどん投げ込まれているからボウフラは湧かないだろう。



そんな場所で、俺たちは三日間もあーでもない、こーでもないと名前を決めるのに、一生分かと思うほど頭を悩ました。


「北斗神拳五兄弟」 ケータは漫画の【北斗の拳】の大ファンだ。

「それを言うなら南地区が多いんだから、南斗五聖拳」

「もし、もっと他の学校が入ってきて増えたら数が合わなくなるだろ」

「南部レインボー戦隊。これなら七校まで大丈夫だ」


「ガキっぽいのをつけるなよ!倉中や久我に馬鹿にされるだろうが!」

ダブルが切れたので、「のんちゃんは喜ぶと思うけどな」と俺がとりなしてやったら、分厚い辞書が頭めがけて飛んできた。

「英雄が集う梁山泊」 漫画で水滸伝を読んだばかりのそらが言ったが、ダブルの顔色を見て、「あれは108人いないとダメか」と自ら取り下げた。


「ヒロちゃん、これなんて意味だ」

漢和辞典をぱらぱらと手持無沙汰にめくっていたキキが俺の袖を引っ張った。

【桃源郷】――多分、キキは唯一読める【桃】という漢字に反応したんだろう。桃が好きで、八百屋の店先でよくかっぱらっていたから。


簡単な説明しか載っていなかったが、「【とうげんきょう】――天国って意味だろ。桃の名前じゃねーよ」

俺が説明してやっていると、ケータが、にたにたして、「桃色天国」と口を挟み、そらが悪乗りして、「ピンサロのことだよ、キキ」と笑いだした。


ピンクサロン、通称ピンサロがどんなところか、俺たちの中で実際に行った奴はまだいなかったが、中でどんなことが行われているか、うっすら卑猥な妄想で察していた。

「中学でたら兄ちゃんが連れてってくれるってさ。卒業記念にみんなで行こうぜ」

「金出さなくても、そういうことをやってくれる女はいるよ」

ケータが身を乗り出すと、ダブルのいる方角から北極の風の様な冷気が流れてきて、みんな押し黙った。


「桃源郷は――理想郷、ユートピアって意味だな。似たようなものがシャングリ=ラやエル・ドラド」

【現代用語の基礎知識】の分厚いページを開きながら、そらがキキに説明してやった。

「ユートピアって何だ。極楽みたいに死んでから行けるのか」

「死ななくても行けるんじゃねーか。きっときれいな女がいっぱいいて、美味いもんがいくらでも食えて、何の心配もない天国みたいなとこだな」


キキは渡されたページを指で幾度もなぞって繰り返した。

「とうげんきょう、りそうきょう、ゆーとぴあ、しゃんぐりら、えるどらど・・・」

「おう、そこへ行けばきっと桃が喰い放題だな」

「俺・・・行きたいな」

そうつぶやいて、キキはまたお経のように「とうげんきょう、りそうきょう・・・」と繰り返していた。

「行ってもシンナーは無いぞ、キキ」


俺たちは笑った。キキも笑った――キキがどれほど天国に憧れていたか、その時の俺たちは誰一人として気づいていなかった。



「悠宇徒卑亜――ゆーとぴあはどうだ?」

「怒羅魂――どらごん」

「頭の悪い暴走族みたいなてめーらは、一度死んで来い!」

ついに切れたダブルが棒を持ってそらとケータを追い回すのを、俺とバタは大笑いしながら見ていたが、キキは本に視線を落としたままだった。



ダブルがセンス生命をかけた同盟の名前は、三日目の夜に、「騎兵隊」と決まった。

さらに五校が町の南地区だから、「南軍騎兵隊」と最終決定し、他の中学のやつらにも好評で迎え入れられた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ