1986春-22
【ジャバ】の玄さんは、客が大入りなのは大いに歓迎だったが、店の中での揉め事は一切容赦しないぞと睨みをきかせて、カウンターの上に金属バットをこれ見よがしに置いていた。
久我中からは三人来ていた。
その中で、一番小柄な遊佐(ゆさ)と名乗った男が纏っている剣呑なオーラは、そいつが頭だとすぐに知らせてきた。
警察官の息子だというのが全く信じられないような殺気立った不穏さを感じさせる奴だった。
「お前が首藤組の組長の息子か」
向こうは向こうで俺がヤクザの息子にしてはのほほんとしていると思ったらしい、不審がる目つきで聞いていた。
「千種中の首藤博之だ。こっちが、倉田中の永瀬和馬」 かずまも相手の力量を計る目で見ている。
「久我中の遊佐博巳だ」
名乗って、俺の後ろのバタやそら、キキ、ケータ、かずまの連れてきたカンカン他二名の顔ぶれをざっと眺め渡してきた。
「南中に対抗しようって言うにしちゃ、少ないんじゃないか」
「人数は他にもいる。それに、香西のカイも俺らと組む」
会談の日時を知らせてあったにもかかわらず、カイは姿を見せていなかった。
一抹の不安があったが、とりあえず、遊佐を俺たちの同盟に引き入れなくてはならない。
「お互い、このまま南中の奴らの好きにさせておくわけにはかない。中央駅へまともに出ることもできないし、あのあたりのゲーセンや遊び場は奴らに占領されてる。
だから、俺たちが同盟を組んで、もし俺らの誰かに手出しをしたら、同盟の学校がみんなで報復すると思い知らせてやるんだ」
「千種と倉田、香西と久我。四校合わせてまともに闘える人数はどのくらいになる。うちはせいぜい6、7人だ。南中は少なくとも50人はいるぞ。
南中だけじゃない。俺らが同盟を組んだと聞けば、秋葉中も黙ってないぞ」
遊佐はひどく冷静で大人っぽい冷めた口調で問題点を突いてくる。
秋葉中というのは、南野中と並ぶ不良(ワル)の多さで悪名高い北区の学校だ。南野中とは仲が悪いが、俺らが同盟を組めばまた動きは変わってくるかもしれない。
「それに、もし同盟を組んだとして誰がトップに立つんだ」
遊佐は少しも譲らない気迫で、小柄な肩をそびやかせた。
「――トップは、ヒロさんだ」
場違いなウィンドチャイムの涼しい音が鳴って、ドアを開けて入ってきたカイが、ビシリと響く声で言った。
その後ろから、地響きを立てるような巨体が入ってきた。外村中の【のんちゃん】だった。
鼻に大きなガーゼを当ててバツ印のガムテープを貼っている。
「外村も仲間に入る」
ふがふがした声でのんちゃんが宣言した。鼻の骨が折れているらしい。カイの顔にも擦り傷があったが、目を真っ赤に充血させて足を引き摺るのんちゃんの方が明らかにダメージが大きかった。
おそらく肉の鎧のない急所ばかりを狙って攻撃したのだろう。カイの敏捷で正確な足技があってこその勝利だったに違いない。
カイとのんちゃんを見比べていた遊佐がやっとおもむろに頷いた。「いいだろ、やってみるか」
「何にも縛られずにヤンチャできるのは中学のうちだけだ。もっと上になると、ヤクザやマッポ(警察)が本気で口出してくるからな。今のうちにやれ!やれ!」
五校の同盟を祝って、玄さんが「泡付きジュースだ」と言ってビールを出してくれた。
ピザ、スパゲティ、唐揚げだのと、店のあらゆる食材を大盤振る舞いしてくれたが、請求書はちゃんと回ってきて、結局かずまと俺とで支払う羽目になった。
みんな酔っぱらっていた。のんちゃんは泣き上戸で、本当は気の弱い奴だと自らばらしてしまった。
遊佐は警察署の副署長の息子だった。厳格な親父とできのいい兄貴に反抗しているらしい。頭はいいが、闘い方は陰険そうだった。闇討ちや待ち伏せも作戦のうちだと言いきった。
会合はお開きになり、それぞれの学区に帰る他校の連中と別れて、酔っぱらった俺たちは迎えに来たハガの軽トラの荷台によじ登った。
疲れたというカイも途中まで乗って行くことになり、カイの原チャリも騒ぎながらみんなで荷台に引っ張り上げた。
「なんか、すげー楽しい!俺らみんなで南中をやっつけてやろうぜ!!」
今まで敵対していた五つの学校が初めて手を組んだという昂揚感が俺たちを包んでいた。
酔った勢いでそらが大声で吠え、キキやケータが甲高い笑い声をあげた。ダブルも機嫌よく笑い、バタも珍しく興奮した気合で握り拳を突き上げている。
カイは俺の隣で、眠そうに目を閉じかけていた。
「なんで一人で行ったんだ」
同盟は成功したのに、俺はもやもやしたイラつきが燻っていてきつい声を出してしまった。
「・・・・勝てると思ったから」
「二度と一人で行くな」
うん――首がこくりと縦に振れ、カイは神妙に頷いた。
※ ※ ※
外村中に一人で乗り込んで、のんちゃんに勝ったカイの噂はあっという間に広がって、周辺の中学でのNo.1の栄冠を受けることになった。
以前の俺との闘いは一応引き分けだったということになっているから、俺の評価も上がったらしい。




