1986春-20
始業式の騒動の後も、菊川美雪はミニスカートをはくのを止めなかった。
髪を切られても、スカートを焼却炉に投げ込まれてジャージをはいて帰っても、次の日にはまた膝上のミニスカートをはいて登校してきた。
そのうち、他の女でミニスカートをはく奴が出始めた。
それは瞬く間に広がり、ロングスカートの不良(ワル)の女の方が形勢が不利になるほどの勢いで、普通の女たちもスカート丈が短くなり始めた。
「流行ってもんに逆らえる奴はいないんだよ」
ダブルは我が意を得たように言ったが、男の学ランもどんどん上着丈が短くなり、ズボンの裾は窄まっていくのも同様だった。
まあ、スカートの丈は女たちの問題だったが、俺たちは俺たちで男のけじめが残っていた。
ハガ達二年は、新入生の学ランに目を光らせていた。大っぴらに変形の学生服を着て許されるのは最上級生の三年だけだというのが、暗黙の規律である。俺たちも耐え忍んできた二年間があるから、今の華咲く春があるのだと言ってもいい。
だが、今年は入学式からバリバリの変形を着てきた猛者がいた。それも、兄貴か親戚の従兄からでも譲られたのか、膝下を超す丈の長ランと引きずるようなドカンをはいたパンチパーマのチビが式場に並んでいたので、偵察に行ったトラが青くなって報告してきた。
「あれは変形じゃなくて、単に成長を見込んで親が大き目の学ランを買い与えたんじゃないかな」
そらが笑いながらからかったが、ハガ達二年はとんでもないことだと早速次の日にそいつを体育館裏に呼び出して、口と拳で忠告してやったらしい。
その一年坊主――あさひ(門脇 旭)は全くへこたれなかった。傷は毎日増え続け、学ランはボロボロになっていったが、頑として着替えなかった。
そのうちハガが音を上げて(もともと下級生に手を上げるのは良しとしない性質(たち)だった)、俺たち三年が集まっている屋上にあさひを連れてきた。
身体の大きな三年に囲まれると、さすがのあさひも緊張に目が飛び出しそうな表情をしていたが、怯えを見せまいと気合を入れて踏ん張っているのはたいしたものだった。
「お、お前らなんか、怖くないぞ!一年だからってなめんなよ」
「猫かよ」
苦笑いが広がって、誰も本気で締め上げようという雰囲気はなくなっていた。
トラとほとんど背の高さは変わらないから、一年生でも小さい方だろう。実際、だぶつく布地に埋まって服が歩いているように見えるぐらいだ。
「おまえさ、それダサいよ。東京じゃみんな上着丈短いのが流行だってのに」
ダブルの目にはそういうとこしか見えないらしい。
「その学ラン、誰にもらったんだ」
ため息混じりに聞くと、あさひが俺を見て「――うちの頭のヒロさんですか!首藤組組長の息子さんってほんとですか!」 嬉しそうに声を張り上げた。
「気安く声かけんなよ!」
バタが容赦なく拳骨を食らわしたが、あさひは一向にめげなかった。
「俺、ヒロさんが憧れなんです!同じガッコに通えて感激です!」
多分、俺がショーヤを見上げていた頃と同じ目をしているんだろうとおかしかった。
「まあ、もちっと大人しい格好しろや」
「はいっ!」
元気よく返事をしたあさひは、翌日から親が買ってあった標準服を着てくるようになった。
あの長ランは昔悪かった叔父さんが着ていたものらしい。あさひの一族の中では嫌われ者らしいが、あさひにとっては憧れの叔父さんだと言っていた。
※ ※ ※
倉田中のかずま(長瀬一馬)と同盟を結んで仲間になったのは、なかなかお得だった。
かずまは中央駅の近くにある千坂総合病院院長の私生児だった。院長の愛人である母親がやっているスナックも金を出してもらっているというもっぱらの噂だった。
違う中学の俺たちの間でさえ「妾の子」という陰口が当たり前だったから、当然かずまの周辺では小さい頃から言われ続けてきたのだろう。
母親似らしい色の白い細面の一見大人しそうな奴だが、中一の頃から切れたら怖いと有名だった。
かずまの家は古くて広い一戸建てで、母親と二人だけの暮らしだったが、スナックをやっている母親は夜中遅くまで帰ってこなかった。
息子が不憫だと思うのか、欲しがるものはなんでも買い与えてくれるらしい。
かずまの部屋にはたくさんの漫画とゲームソフトとおびただしいエロ本、エロビデオに自分専用のビデオデッキが揃っているという居心地の良い場所で、たちまち俺たちのたまり場と化した。
「シンナーは吸うなよ。匂いが残るからな」
せっせとジュースやスナック菓子を台所から運んできてくれながら、かずまは口うるさく注意する。だから、キキは連れてこれなかった。




