1986春-19
工業団地の西駐車場。
倉田中は頭のかずまの他に新三年が6人と新二年5人が顔を揃えていた。
こっちはカイを加えて、6人。
最初から目算があったから人数を増やさなかったが、相手は木刀や鉄パイプの獲物を手にしてやる気満々だ。
「俺が香西のカイだ。お前らを駅でやったのは俺だ。千種は関係ねぇ」
あれだけ言って聞かせたのに、カイが前に出て挑発する。
やられた奴らがざわざわと騒ぎだし、迷って引っ込みのつかないかずまが、「誰でも構わねぇ、みんなフクロにしちまえばいい!」 と、喚きだすのを抑えて、
「かずま、頭同士でステゴロ(素手)のタイマンにしようぜ」
そう言うと、かずまがちょっと怯んだ。
倉田中でほんとに一番強いのは、かずまの後ろに立っているカンカン(菅 寛太 すが かんた)だ。
だが、こいつは強いだけの乱暴者だから人望がまるでない。じゃあ、かずまに人望があるかって言うとそれも疑問だが、かずまはとにかく金を持っているという噂だ。
「かずま、俺が勝ったら聞いてもらいたい話がある」
色の白いかずまの顔がまず赤くなり、ついで青くなり、覚悟が決まったらしい。
「いや、そっちの香西の頭とやるのが筋だ。ヒロ、お前は引っ込んでろ」
一見細身のカイの方を見くびって、矛先を向けようとしている。
面倒くさいので問答無用で先に一発殴りつけると、さすがに切れて俺に向かって飛びかかってきた。
タイマンになれば周りは二人に手を出せない。
カンカンは他をやるつもりで前に出ようとしたが、「お前は俺とやれよ」と、カイがその前に立ちはだかったのが視界の隅に見えた。カイなら心配ないだろうし、残りも人数は多いが雑魚(ざこ)だから、バタがいれば倉田中ごときは問題ない。
とりあえず目の前のかずまに集中する。
かずまは空手と柔道と少林寺をやっていたというが、どれも小学校時代のお稽古事だ。ただ三つの合わせ技となると、それなりに手強い。まず捕まえにくい。するする逃げる奴をやっとひっつかんでみぞおちに膝で一発ぶちこんだ時、
「ぐうっ・・・」
という呻き声が別の場所で聞こえたと思ったら、カンカンが地面に伸びていた。
カイに瞬殺されたらしい。
カンカンがやられたのを見たかずまの戦意も喪失した。地面に引き倒してボカスカ殴ってやると、防戦一方になったがさすがに頭のプライドで泣きは入れない。
頃合いを見て引っ張り起こし、「かずま、うちと組まないか」 俺はとっておきの計画を話してきかせた。
「誰が千種の下になんかつけるか!」
かずまは申し出を即座にはねつける。
「違う。倉田と千種の五分の同盟だ――南中をやっつけるんだよ」
顔についた泥を払っていたかずまの手が止まった。地面に胡坐をかいたまま俺を見上げてぽかんと口を開いた。
「――南中とやるのか。あいつら、半端なく強えぇぞ」
「香西も俺らと組む」 カイを振り返ると、すぐに頷き返した。
のびていたカンカンもやっと起き上がってきたが、倉田中のやつらだけでなく、千種の仲間もカイの強さに恐れを抱いたのが顔を見ればわかる。
「これだけの人数じゃ無理だ。それに、ただ頭数をそろえても南中には勝てねぇ」 カンカンでも南野中とやるということに二の足を踏む。
南野中はろくでもない奴らだが、それだけの質と量を誇る不良(ワル)の巣窟なのだ。
それでも、この申し出は倉田の連中のなけなしの闘志に火をつけたことは間違いない。
「三校だけじゃなくて、もっと仲間を増やすんだ。今すぐじゃなくてもいいから、よく考えて返事をくれ」
かずまは考え込みながら、仲間と引き上げて行った。
俺に負けて潰れたメンツを、同盟というでっかい話でカバーするぐらいの計算はできるだろう。
「ヒロさん、本気で南中とやる気なのか」
みんな興奮したようにわらわらと俺の周りを取り囲んだ。
「ああ、この前みたいにやられっぱなしでたまるか。どこの中学もいっこじゃ南中に勝てないが、同盟を結んでいけば手の出せない大きさになるぞ」
「同盟とか手ぬるいこと言ってないで、傘下にしちまえばいいのに」バタはとんがったことを言うが、
「まあ、それがヒロさんらしいとこだよね」 ダブルが笑ってとりなしてくれる。
そらもケータもキキも浮き足だって、この話がどこまで進んでいくのか、期待に満ちた目を輝かせている。
「――カイ」
少し離れて立っているカイに声をかける。
「香西も一緒にやろうぜ」
カイがいてくれたから、この計画を思いついた。誰よりも強いカイが隣にいてくれれば、俺の計画も夢物語では終わらない気がした。
「俺は――ヒロさんについてくよ」
カイはポケットから出したタバコを咥え、ジッポをくるりとまわしながら火をつけた。
※ ※ ※
三日後に、かずまが俺に会いにやってきた。
「倉田も同盟に入ってもいい。ただし、上下なしの五分だ」
千種だけではきっとこれほどスムーズに運ばなかっただろう。やっぱり香西のカイの存在が大きかったのは明らかだった。
ずっと敵対していた相手とする初めての握手は、奇妙な気分だった。
かずまもくすぐったそうに、初めて笑みを見せた。意外に可愛い顔で、結構いい奴だった。




