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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第一章 中三-春
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1986春-17

それから他の役員決めや新学期の行事予定の連絡なんかの退屈な時間が過ぎて行った。

俺はクラスの顔ぶれを見渡していたが、意外なことに気がついた。

三年になると先輩の目が無くなった分、不良でなくても一見わからない程度に改造した学生服を着る奴が出てくるが、今年はずいぶん増えている気がした。


上着丈が短めだったり、ズボンにタックが入っていたり、優等生の牧でさえどう見てもズボンの裾を少し絞っている。不良でもなんでもない普通の奴らにも変形が流行っているとダブルの言った意味がなんとなくわかった。

それでも極端な変形は俺たちの周囲だけで、他があんまり目立つようならちょっと締めてやろうか。


黒板の前で偉そうに指図している牧の顔を見ながら、ちらっと思った。

武田綾香は牧の背後で、その言葉を黒板に書き写していた。チョークを握っている細い指は、かあさんの指のように冷たいに違いない。



やっとなんだかんだ午前中が終わり、給食もない初日だから、みんな帰り支度を始めた。

トラにコンビニへ昼飯を買いに行かせて、屋上でみんなと食べるかと思いながら席を立ちかけた時、「首藤君・・・」武田綾香が声をかけてきた。


「この間、大丈夫だった?」

三つ編みにした髪を揺らしながら、小首を傾げて聞く。

カイが乗り込んできた卒業式の夕方のことだろう。あの場にいたから。

「警察に捕まらなかった?」ちょっと声をひそめて顔を寄せてきた。

華奢な細面に大きな目が心配げに瞬きを繰り返す。


「――あんなのなんてこと無い」 俺が答えかけた時、「ヒロさん~」 廊下からケータが声を張り上げて俺を呼んだ。

「面白いもの見に行こうぜ」

傍らにくっついている女の肩を抱くようにして、笑いながら俺を手招きする。

驚いたことに、ケータは短ラン、ボンスリの最新ファッションの上に、カイのように髪を脱色してますます浮ついた軟派男になっていた。


「ケータ君、格好いい」

俺のクラスの女どもがわっと言ってケータを取り囲んだ。

「はい、はい。これから毎日拝めるからね」

ケータはどこかのアイドルのように愛想を振りまきながら女たちを軽くあしらって、俺を三階に向かう階段に引っ張って行った。


三階は音楽室や美術室、理科実験室などの特別室が並ぶ階で、さすがに今日は使われている教室は無かったが、女子トイレの前の廊下に人だかりができていた。

足首まで届く長い襞スカートとウエストギリギリまで短くしたセーラーの上着。不良(ワル)の女の制服には変化がないように見えた。

「見世もんじゃね~よ。あっちへ行ってな」

近寄る男を入り口でねめつけていた女も、さすがに俺には遠慮して口を噤んだ。


立ち塞がる女たちの隙間から、床にうずくまっている女の姿が見えた。

水をぶっかけられたのか、びしょ濡れで長い髪を掴まれ、鋏がその髪を切り刻んでいる。

「これで髪もスカートと同じに短くなって良く似合うじゃないか」

どっと女たちが笑い声を上げた。それで、その女のスカートが膝が丸見えのミニ丈だと気がついた。


「東京じゃもうミニが流行ってるんだっていうのにさ~田舎の女は遅れてる」

いつ来たのか、ダブルが俺の背中にくっつくようにして覗き込みながら、ぶつぶつ言っていた。

「あの子、二年の三学期に東京から転校してきた菊川美雪だろ。それにしても始業式の日からあの格好じゃ目つけられても仕方ないな」

女の情報はケータが早い。


菊川美雪は立ち上がると、無残に切られた髪の頭を振り上げるようにして廊下に出てきた。顔は濡れていたが泣いてはいなかった。正面をきっと見据えた強い目をしていた。

セーラー服の上衣は他と同じように短い。濡れた髪を払うように腕を上げると、驚くほど細い裸のウエストが覗いた。スカート丈は完全に膝の出るミニ丈で、標準の膝下の校則を反対の意味で守っていなかった。


「私らのけじめだ。男が口を出すことじゃないよ」

奥から出てきた、女の番格のようこ(阿部洋子)が俺の顔を見るなり、肩をすくめて牽制してきた。

それから、仲間を引き連れてすれ違いざまに、他に聞こえないほどの小さな声で「――ガキ」と俺の耳元で笑った。


濃い化粧をした女たちは、同い年の俺たちよりはるかに大人びて見える。聖子ちゃんカットやロングのカーリーヘアーが混じっていたが、ケータの話では菊川は切られるまで長い髪をストレートになびかせていたらしい。


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