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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第一章 中三-春
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1986春-15

俺たちの緊張を他所に、南野中からは何の音さたも聞こえてこなかった。

ただ次の日にショーヤが俺の部屋に来て、「しばらくは中央駅に行くな」とだけ言った。


南野中の奴らが大勢で俺たちを派手に追いましたのが【ベンクー】のオヤジの耳に入って、大事な客になんてことをするんだと南野中に怒鳴りこんだのだ。

ついでに地回りのヤクザの監物組事務所にも「お前らがちゃんとしとらんからだ!」と怒鳴りこんだらしい。

警察をあてにしないところが【ベンクー】の親父らしかった。もっとも、俺たちが【ベンクー】の客でなかったら知らん顔で済ませていただろう。


監物組も中学生のケンカにヤクザが出張るのはさすがに外聞が悪いと思ったらしく、組員の鳥居の兄貴が弟に釘を刺したという噂もあった。

騒ぎの一件は当然俺の親父の耳にも届いていたはずだが、俺には何も言ってこなかった。


一連の噂を聞きつけて俺たちに教えてくれたのは、例によって何でも知ってるそらだった。

「【ベンクー】のオヤジがさ、ヤクザに向かって『おれの店の周りで騒ぎが起こったら、てめーらの弟やガキ共に学ラン売らないようにしてやるぞ!』って脅したんだってさ」

「そりゃ、【ベンクー】のオヤジが最強だな・・・」

うん、うんと俺たちは頷き合ったが、南野中がこれでまるっきり忘れてくれるとは思えなかった。


「それにしたって、今度のケンカは香西のカイのせいじゃないのか。あいつがいきなり先に手を出したのが始まりだ」

バタはまだ根に持つ言い方をした。

「でも・・・南中の奴が先にボンタン狩りしたんだし・・・」

おずおずとだが、トラが初めて言葉を返した。今度の一件でずいぶん変わった気がするのは気のせいではないだろう。


「あいつ、まだ顔が売れてないから一緒にいるとみんな俺らのせいにされちまうなぁ」


ダブルの懸念は当たっていた。

カイの疫病神の風は南野中のある北の方角ではなく、忘れたころに西の方角から吹いてきた。

それも新しい年度の始業式の日に。



※ ※ ※



中三の新学期の初日は珍しく早くに目が覚めた。

真新しい学ランを身に着けて、やっと伸びた髪をムースで盛り上げる。

俺の髪は少し天パーなので櫛とムースでそれなりに格好がついたが、結構時間を喰ったので慌てて台所へ走って行った。


高三になったショーヤは普段と変わらない格好で朝飯のテーブルに着いていた。

青色のブレザーでは何の面白味もないんだろう。髪も無造作に掻き上げているだけで、俺の気合の入った格好を鼻先で笑った。

「ごっそさん」

自分で流しに茶碗を下げて、一足先に出て行った。


かなえさんが俺の前にご飯とみそ汁を置いてくれる。

朝に弱い母さんはなかなか起きてこれないから、かなえさんが朝飯を作ってくれることになるのだが、甘い卵焼きを喰う不良(ワル)というのは仲間に見せられない姿だ。

小六の頃、「朝飯なんか要らねぇ」とかなえさんに挑んだこともあったが、「それじゃあ、朝も夜も一生喰うな」と怒鳴られ、その後ショーヤにぶん殴られたから、俺は黙って出された飯を食う。


「へぇ、最近はそういうのが流行りなんだ・・・なんか、ホテルのドアマンみたいだね」

俺の短ランを一瞥したかなえさんの感想はそれだけだった。



家の前では、バタ、ダブル、そらの新三年生組が待っていた。

ダブルはもちろん短ラン・ボンスリだったが、バタは頑固に中ランにボンタン、そらは兄貴のお下がりらしい中ランにワタリのひどく幅広いボンタンだった。

ポケットに両手を突っ込んでムササビのように広げて見せ、足下のエナメルシューズもピカピカに磨き上げている。


お互いの姿を冷やかしたり、ダブルのチェックを受けたりしてひとしきり騒いだ後、四人でぶらぶらと学校へ向かう。今日から誰はばかることのない最上級生だという気分は爽快だった。




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