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シャングリ=ラ・ら・ら・・・  作者: 春海 玲
第一章 中三-春
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1986春-13

10数人が一斉に飛びかかってきた。

俺たちは頭を低くして突進し、一瞬も足を止めずにその間をかいくぐって左右に別れた。どちらの組を追うか、敵の躊躇う隙を突く作戦だった。

振り下ろされた木刀が肩を掠めたがそのまま走り続け、敵は二手に分かれて追ってきた。

カイは俺のすぐ後ろを走っていた。



暗くなりかかった裏通りを駆け抜ける中学生の一団に、呆気に取られた買い物客が道を避けるが構っていられない。

「中央駅に行きますか!」ハガが走りながら叫んだが、「あそこは多分見張られてる」俺には確信があった。

南野中の奴らは俺の顔を知っていた。千種中ということもばれている。電車で帰ると見越して中央駅に見張りを立てているはずだ。

「南口のバスターミナルだ!」

港の工業団地へ向かう路線バスが、俺たちの学区の近くを通る。遠回りするから30分ほどかかるが、電車に代わる唯一の交通手段だ。


敵も馬鹿ではなかった。

その証拠に高架橋を渡って線路の反対側に出たところのバスターミナルに二人、先回りしている奴が見えた。後から追ってくる足音もだんだん距離を詰めてきている。

バス停にはちょうど発車しかかっているバスがあった。


「ハガ、先に乗れ!」

こちらに向かってくる二人を牽制しながら、一個下のハガを逃がすことしか頭になかった。

「嫌です!」

「俺らが【ジャバ】に行けなかったら、仲間呼んで来い!バタやダブルだって捕まるかもしれないぞ!」

言われて観念したのか、ハガは走り出したバスのドアに飛びついて「乗せろ!」と叫んだ。


ハガが無事にバスに乗れたか確かめる暇もなかった。

飛びかかってきた見張りの一人をカイが鮮やかな蹴りで一瞬で沈めた。俺もすぐに一人を殴り倒したが、身体のデカいタフな奴ですぐに起き上って太い腕で俺を抑え込もうとする。

その頃には追いついて来た奴ら10人ほどに、あっという間に囲まれてしまった。


「ずいぶん手間かけさせてくれるじゃねぇか。田舎もんがよ~」 

前に出てきた一人がペッと唾を吐きながら言ってきたが、それ以上は息が切れたらしくて続かなかった。

「首藤組なんてちんけな看板背負って、でかい顔してんじゃねぇよ、ヒロ」

金属バットをぶら下げた別の奴が出てきて、よく聞かされる台詞を言ってくれたが、こいつは顔を知っている鳥居だ。

だが、南野中は悪いのが多すぎて、誰が今年の頭かわからない。


「鳥居さん、俺やったのこいつです」

さっきの気絶もどきがカイを指さしてわめきながらへこへこ頭を下げていたので、頭が鳥居だとわかった。兄貴が監物組にいるヤクザで、こいつもその看板の威光を借りてるはずだ。


「なんだ、ションが今年の南中の頭か」 

俺の嘲りに、鳥居が真っ赤になってバットを振りかぶった。

神社の鳥居の簡単な図を小便無用の場所に書くことがあるので、こいつのことは反南野中の間では「ション(ベンむよう)」と呼んでいたのだ。本人もそれを知っているのだろう。

「てめぇ、ヒロ!ぶっ殺してやる!」

俺の頭めがけてバットをぶんまわしてきた。


つまり、ここまでがルールである。まあ、その間、俺がカイを抑えていたから成り立ったルールだが。



冗談は通じない相手だった。いくらカイが強くても、俺が腕に覚えがあっても、倒せる人数ではなかった。バットや鉄パイプが振り下ろされ、頭や肩を容赦なく打ちすえてくる。

それでも半分ほど倒した時、新手の一群が階段を駆け下りてくるのが見えた。

前から組みついて来る奴を振りほどいた時、背中をバッドで殴りつけられて一瞬息が止まりかけた。

腰が崩れて地面に膝をついたところへ、何人もが圧し掛かってきて抑え込まれた。

ちらっとカイの方を見るとまだ立っていたが、もう足が上がっていない。

こうなれば袋叩きにされるのを覚悟した。


いきなり強い光と車のけたたましいホーンが響いて、軽トラが突っ込んできた。

「うわぁあ」 俺とカイを放り出して、南野中の奴らが飛び退く。

鼓膜を突き抜けるスキール音。

白い煙とタイヤの焦げる匂いを浴びせながら、軽トラが俺の鼻先で急停車すると、窓から見知らぬおっさんが顔を出して「後ろ乗んな、兄ちゃん」と叫んだ。


一瞬もためらわずにカイは俺を軽トラの荷台に引っ張り上げた。車はあっという間に発進し、気がついた南野中の奴らが慌てて追ってくるのを見る間に引き離した。


1キロほど走ったところで、軽トラのおっさんは車を停め俺らを下ろした。

作業着を着た50代ぐらいのおっさんだが、全く見知らぬ人だった。

礼を言うと、「俺も昔はやんちゃやってたからなぁ。だけど、ああいう大勢でフクロにするのは嫌いだね。送ってやりたいが、俺も用があるからな。自分らで帰れるか?」


近くにバイパスの灯りが見えるから、今いる場所の見当はついた。

「大丈夫です。ありがとうございました。あとで御礼に伺いたいので、お名前を」

これはかなえさん仕込みの行儀の良さだろう。

「名乗るほどのもんじゃねぇよ」

颯爽と軽トラのおっさんは去って行った。


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