1986春-10
隙間の通じていたのは、シャッターを下ろした店がほとんどの寂れた裏通りだった。4人の中学生が乱闘していた。
中心にいたのはやっぱりカイで、棍棒を振り回している相手を追い詰めていた。既に地面に倒れ込んでいるのが二人。
助けが来たと思ったのか、倒れている奴が嬉しそうに顔を上げたが、他校の俺たちに気づいてがっくりと地面に突っ伏した。
「――倉田中の奴らだな」
バタが素早く顔ぶれを確認して俺に耳打ちした。
「どうする?もう勝負は決まってるみたいだけど」
とりあえずカイの方が優勢の様なので、俺たちは見物を決め込んだ。
地面に倒れている二人もカイがやったのだろう。棍棒を手にしている相手も、もはや戦意を失くしてやみくもに振り回しているだけだ。
だが、カイの攻撃は容赦がなかった。脳天から蹴り下ろした足で相手がよろめいても、すかさず回し蹴りを繰り出して倒れることさえ許さない。
自分が戦った時には気づく暇もなかったが、カイの戦い方は無駄がなく凄まじい動きの速さで見惚れるほどだった。
「・・・あいつともう一度やって勝てると思うか、ヒロさん」
バタが俺の腕を掴んで聞いた。無言で首を振ると、バタも同じ目でカイを見ているのがわかった。
表通りが騒がしくなった。
「どこだ!」口々に叫ぶ声が聞こえるが、ビルの隙間に気づいていないらしい。
「倉田中の援軍が来たらしいな」
いつもなら一戦やってもいいが、今日は【ベンクー】へ行って学ランを買うという重大事が控えていた。
「カイ!そいつらの仲間が来るぞ!もうその辺にしとけ!」
俺の叫んだ声が聞こえたのか、カイが動きを止めて振り返った。それに勢いづいた馬鹿な相手が棍棒で殴りかかってくるところを鮮やかな蹴りが仕留めた。
それを見定める前に俺たちは裏通りを駅に向かって走り出していた。
電車の時間が迫っていた。昼間は20分間隔だから、逃すわけにはいかない。うろうろしてれば、倉田中の奴らに巻き添えにされかねなかった。
改札をすり抜けてやろうかと思ったが、改札員に捕まったらかえって面倒になりそうなので、仕方なくトラが乗車券を買うのを待ってホームに駆け上がり、発車寸前の電車に飛び乗った。
ドアが閉まり走り出してすぐに、ホームに駆け上がってくる倉田中の奴らの顔が見えたが、俺たちは大笑いしながらそれに向かって中指を突き立ててやった。
「――どこへ行くんだ」
そう聞かれて、初めてカイが同じ電車に乗り込んでいたのに気づいた。