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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

心霊スポット(仮)

作者: バール

少し長くなったか…!?

俺は現在、様々な理由により弥生という名の探偵と暮らしている。

弥生はとても優秀な探偵で毎日たくさんの依頼が舞い込んでくるのだが今日はその中でも俺的に一番怖かった話を紹介しようと思う。









コトコトと煮込まれ、優しい匂いを発し始めたお粥によく溶いた卵を入れた俺はその出来栄えに口笛を吹いた。


……これなら弥生も食うだろうし、いきなり食っても胃は痛くならないだろう。



気分良くお粥をトレイに乗せ、俺は事件が全く無いおかげでら退屈の妖精に取り憑かれ、ソファの上でグッタリしている弥生の元へ向かうとやはり弥生はその長い手足をソファの上で伸ばし、彼女の長く艶やかな髪が散らばっていた。せっかくの美人も台無しである。



「おい弥生、飯ぐらい食えよ。昨日の朝から何にも食べてないだろ」



弥生はとにかく食に無頓着でこういう事がよくある。まるで某国民的名探偵のようだ。



「面倒くさい……」



違う、ただのガキだ。



「お前なぁ…生物にとって必要最低限の欲求なんだぞ?三大欲求の一つを無視してやるなよ」

「君はその一つである性欲が枯れ果てているけどな。そのマグナム、一回暴発させてみたらどうだ?」

「いきなり下ネタかよ!!」



美人なのになぜこの女は下ネタを平気で吐くんだ!!



「美人だからこそのギャップ萌えだ」

「心を読むな!メンタリストかお前は!!」

「そうだ」

「そうなの!?」



ハッ!?こんな会話してる場合じゃない!早く弥生にお粥を食べさせないと!!



「頼むから食ってくれよ……お前が心配なんだ」

「…………」



弥生は顔をしかめるとおもむろに口を開いた。



「……手を使いたくない」

「…………」



赤ちゃんかよ……。



「……弥生?お前は大人だよな?それかあれか?俺たちは男女の関係だったりする?」

「理由が必要か?ただ面倒なだけま。どっちでも良いから早くしろ……。あーん」



上目遣いで幼児のようにパッカリと開いた口を見ていると毒気が抜けるような気がする。……気がするだけだ。



「しょうがないなぁ……あーん」

「ひえええええええええっ!!!!」

「!?あっちょ、お、お客さん!?」



突如上がった悲鳴が聞こえた先には俺より身長が少しだけ低く、いかにも裕福そうな可愛らしい少年が立っていた。


明らかに弥生の依頼人である。



「あ、えっとっ……!ど、ドアが開いててっ、勝手に入ってしまってそのっ…お邪魔をしてしまって………」



少年は顔を赤くし、しどろもどろになりながら答えた。てかヤバい誤解されてる。



「ち、違います違います!!これは……」

「いつもこうやって食べさせてくれるんだ」

「誤解されるような事をわざわざ言うな!?」



ああ……、少年の顔がどんどん真っ赤になって行く……。



「そ、それじゃあ翔太さんと弥生さんは恋人同士……!?」



違う!!!!

弥生もこの発言には流石に怒りを覚えたのか少年を睨みつけた。

お前の発言のせいだと思うけどな。



「違います違います!!俺と弥生探偵はただの探偵とその助手の関係です!!」

「今はな」

「おい!!」



人が訂正したものをっ……!



「何だ……そうなのか、翔太さんと弥生はんはまだ恋人じゃない、恋人じゃない……」



少年には弥生の発言は聞こえなかったのかひどく安心した様子を見せ、ブツブツと何か呟いた。弥生はそんな少年の姿をしばらく観察した後、眉をひそめると言った。



「安心しているところ悪いが早速依頼内容を教えてくれないか?まさか貴方は何も用がないのに来たわけではないだろう?」

「弥生、言い方……」

「いえ、弥生さんの言う通りです。私は依頼があって来ました。本当に本当に恐ろしい体験をしたのです。ですがあまりにも現実味がない体験で貴女達は信じてくれないかもしれません……」



弥生の無礼な口調も特に気にする様子もなく、自分の体験を酷く恐れているのかその依頼人はカタカタと震え始めた。



「それは我々が聞いてから決める、続けろ」



弥生がつっけんどんながらも話を聞いてくれるとわかり、依頼人は嬉しそうに笑った。



「はい。ありがとうございます。実は私は資産家、室淵家の一人息子の室淵水樹と申します」



驚いな事に彼は数多の事業を取り仕切っている室淵コンチェルンの息子さんらしい。通りで育ちが良さそうなわけだ。



「知っての通り、私の家はお金がありますのでいくつか土地を持っています。あまりにも土地がありすぎて忘れられてしまっている土地があるくらいです」



それは多分【いくつか】じゃない。



「その忘れられていた土地を私は誕生日祝いにもらったのです。しかしそこにはかなり前に建てられ、既に廃墟になっている洋館があったのです」

「洋館……ですか?」

「はい」

「古いとは言うがどれくらい古いんだ?」



弥生が突然口を開いた。



「わかりません。なにせ本当に忘れられていた土地だったので全くと言って良いほど記録が残ってないんです」

「なるほど、話を続けろ」

「は、はい……。最初の印象は気味が悪いでした。その日は曇りだったので一層重苦しく感じられたのかもしれません。私はとても臆病なのでビクビクと洋館の中に入るとやはりそこは廃墟、所々の床は腐り、階段は崩れていて二階には上がれませんでした。部屋の中は薄暗くて私は心底怯えていました」



そこで依頼人は次の言葉を言うのを躊躇したのか口を噤んだ。



「続けてください」



弥生は室淵さんの怯えを知ったのか珍しく柔らかく微笑んで促した。



「……で、その時です。出たんです……」

「出た……とは?」

「愚問だな、亡霊だろ」

「えぇ!?」



室淵さんは興奮したように立ち上がった。



「弥生さんの言う通りです。出たんです!!女の亡霊が!!女は二階にいました!登れるはずがないのに!私が二階を見ると女がいました。私があまりの事で固まっていると女は私の顔を見て心底ぞっとする笑みを浮かべてこう言ったのです」


『この館は私の物よ…奪うなら許さない……!!』


「私はすみません!すみません!!と言いながら逃げ帰りました」

「その話だけならそこに住み着いてる唯のキチガイ女じゃないのか?」



弥生は呆れたように椅子にもたれた。



「いえ、まだ話には続きがあるのです。私も帰った後そのような考えが思い浮かびました。その考えに少し安心した私は遠出した疲れもあって寝てしまったのです」

「結構肝が座ってますね」

「そ、そうですか?は、恥ずかしいなぁ…。ですが本当の恐怖はここからでした。朝起きた瞬間私は気付きした。部屋の異変に……。本棚の本は落ち、飾っていた花は枯れ、セーラー◯ーンのフィギュアはゴミ箱にぶち込まれていました……。そして最も恐ろしいのは、壁一面に血文字が広がっていたのです。……これがその写真です」



写真を見てみるとそこには部屋の壁一面におどろおどろしい真っ赤な血で、



「……あの館は私の物、奪うなら許さない……」



と書いてあった。



「私は一人暮らしで合鍵も親以外は作っていません!!どうやって私の家に侵入したのでしょうか!?幽霊の仕業だとしか考えられません!!………私はあの洋館を手放したくはありません。どうか助けてください!弥生さんの名声は様々な方々から聞いています。どうか……どうか……!」



室淵さんは凄まじい形相をして頼み込んだ。

怖いよ。



「いいよ」

「軽いなおい」

「暇だからね」

「なるほどねっ!」

「ありがとうございます!!」



室淵さんの顔は戻った。可愛いよ。



「一つ質問を良いかな?その血文字はまだ貴方の家に残っているのか?」

「い、いえ、気味が悪くて消してしまいました……」



弥生はふむ、と頷いた。



「わかりました。それでは先に洋館に向かってください。後から私達も向かいます」

「早急な対応をありがとうございます」

「ふふふ、余り長くすると文字数がオーバーで応募できなくなるんですよ」

「え?」

「さぁ翔太、外まで送って差し上げろ」



弥生は珍しい事を言った。



「……?室淵さん、行きましょう」

「は、はい」



案内をすると室淵さんは何だがぎこちない動きをしていた。

どうしたんだ?

弥生はその動きを鋭い目で睨んでいた。



「緊張している……か……。連絡を入れておこう」





玄関に出る直前、服を引っ張られた。



「……あの」

「何ですか?室淵さん??」

「私の事、覚えてませんか?」

「えっ!」

「やはり覚えていませんか……。それではここの通りにある《カフェカワサキ》は知っていますか?」



カフェカワサキ……。

あっ……!?



「ああ!あの仏像をこよなく愛している店主が開いている店の事ですね!弥生と喧嘩した時によく利用してます!」



俺の発言を聞いた室淵さんは顔を輝かせた。



「私もあそこの常連で!!……貴方の事をよく見ていたんです」



そう言うと室淵さんは顔を赤らめた。

調子狂う。



「……あっ!そ、そうなんですか〜。はははっ!知らなかったなぁ」

「すみません。気持ち悪い事言って……」

「いえいえ!弥生の事で慣れてますから!」

「……翔太さんは弥生さんと仲がよろしいですね」



……気のせいだろうか?室淵さんが怒っている気がする。



「そうですかね?あいつの世話をしているだけですよ?」

「私もそういう人が欲しいので弥生さんが羨ましいですよ?」

「ええー!褒めてないでくださいよー」

「……本当に欲しいですよ」



では、また。そう言う室淵さんは先ほどのおどおどとした少年と同じとは考えられないぐらい顔に表情がなかった。ただ一つ、目だけはやたらギラギラしていたが。

……ふぅ。



「弥生、覗くな」

「バレたか」



居間からひょっこりと黒髪美人が顔を覗かせた。



「テヘペロ(真顔)」

「怖っ……なんか気になる事でもあったのか?」

「ああちょっとな。……あの依頼主の話はとても聞きやすいな」



室淵さんは混乱している風だったが、過去の依頼人の中には混乱のあまり支離滅裂な内容になってしまっていた人も多い。



「確かに全然混乱してなかったな……実は冷静な人?」

「相手は金持ちのボンボンだ。そんな度胸はないだろう……」

「それじゃあ何で……」

「簡単だ。事前に練習をしていた」

「え?」

「遅れる、行くぞ翔太」

ぶっきらぼうにそう言うと弥生は出て行ってしまった。


「えー、はいはい」



肝心な事を教えてくれないのはいつも通りですよ、ええ本当に。







洋館は確かに古そうでしかも真夜中に来たせいで否応無しのホラー感を演出していた。



「ここがあの女のハウスね…」

「やめろ」

「こ、怖い!!怖いいい」



室淵さんは何故か俺に抱きついた。



「ちょ、室淵さんくっつかないでくたさい!」

「行くぞ」

「ちょ、待てよ、」



慌てて弥生に付いて中に入るとそこは真っ暗闇だった。

……?違和感を、感じた。



「暗いな」

「お前が雰囲気重視って言った所為で夜に来たからな」

「しかし床は綺麗だホコリがない」

「無視かよ」

「あそこに女がいたんです」



室淵さん上の階を指した。

見えねぇよ。

弥生は階段をチェックしに行った。



「二階へ続く階段は確かに崩れている。上がるのは不可能だな」

「それじゃあやっぱり幽霊……」



室淵さんは青ざめた。

だから俺に抱きつくのやめてくださいって!



「そうとは限らない。少し奥へ行く、二人はここで待っててくれ」

「えっ、弥よ……え?」



「気をつけろよ翔太」



去り際に弥生にそう、耳打ちされた。








翔太達と別れた後、弥生は少し離れた場所で床をチェックしていた。



「やはりここの床にもホコリはない。」



弥生の天才的頭脳はここで急速に回り始めた。



「……まとまり過ぎている話。ボンボンの依頼人……。ここから導き出される事は……ん?」



コツコツコツ



「足音?」



コツコツコツコツ



「……誰だ?」



目の前に広がる闇に弥生はそう尋ねた。

全てを飲み込みそうな闇からゆらりと大きな影が揺れる。




「死ね」





俺と室淵さんは引き続きろ一階ロビーを探索していた。しばらく恐怖からか無言だった室淵さんはおもむろに口を開いた。



「……弥生さんは、いつもああなんですか?」

「……いえ、いつもは調査中にら離れたりはほとんどしません」

「それではどうして?」

「何か考えがあるんだと思いますよ」

「……素晴らしい信頼関係ですね」



室淵さんの顔は、なんだが羨ましそうだった。



「ふふふ……あれ?階段の下に通路がありませんか?」



崩れていた階段の瓦礫を退かすとそこには地下へ続く階段があった。



「……本当だ!全然気づかなかった!!行ってみましょう!翔太さん!!」

「えっ室淵さん!」



室淵さんは勢い良く下りていった。

怖いんじゃなかったのか?



「翔太さんこっちですよ。たくさん部屋があります」



階段を下りるとそこは廊下で所々に部屋があった。

……ん?



「明るい?」

「見えないと危ないので蛍光塗料を塗ってあるんですよ」

「……何で知ってるんですか?」

「この部屋に来てくださいよ、電気もつけたんですよ」



そう言って室淵さんは隣の部屋へ促した。



パチ



「ほら明るい」

「………」

「どうしたんですか翔太さん」

「……めっちゃ俺の写真飾ってあるんですけど」



その部屋には俺のカメラ目線ではない、明らかに隠し撮りされた写真がビッシリと貼ってあった。



「後貴方の家の見取り図もありますね」

「……ストーカーですか?」

「まさか!そんなんじゃありませんよ!!私は貴方と友達になりたいんです!!」



室淵さんは心底心外だという表情を浮かべた。



「友達の写真を……飾ってる?」

「はい!」



あ、こいつヤバい奴だ。

こういう輩にはあまり否定的な言葉を投げかけてはいけないと前にテレビで言っていた気がする。できるだけ優しく、しかし迅速にこの場を去る事を俺は決めた。



「……ちょっと上に上がりません?」

「どうしてですか?せっかく貴方のためにここを造ったのに……。ここに貴方は私と一緒に住むんですよ??」

「弥生ぃぃぃぃぃ!!助けてええええええええええええええ」



無理っ!!

なにこいつ怖い!!冷静に会話なんてできないよ!!俺の事を監禁しようとしてるし!!

助けて弥生!!



「呼んでもきませんよ」

「……え」」



室淵はニッコリと笑った。目が完全にイっている。



「彼女はとても邪魔でした。いつも貴方に世話を焼かせる……。彼女が離れた後、私の部下に処分してもらいました」



……は?



「今日中に処分しようと思っていたんですが自分から殺されに行ったのは本当に愉快でしたよ」



弥生が………



「高名な探偵とは聞いていましたが……所詮噂!中身は手のかかる唯のアホな女でしたねぇ……」



あのいつも憎たらしい顔をしている弥生が?



「これで翔太さんは私の事だけを見てくれますよね?」



……コロサレタ?










許さない。












許さない許さない許さない許さない許さない

許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない



絶対に許さない。



「ねぇ、翔太さんも喜んで……」

「……れ」

「え?」

「黙れ!!お前ごときが弥生を馬鹿にするな!!」

「え?え??翔太さん!?」



頭の中で弥生と過ごした様々な思い出が駆け巡る。

弥生は我儘で女の癖に際どい下ネタもたくさん言って、結婚しろとかシャレにならない冗談も平気で言ったりして……。

それでも……。



「黙れこのストーカー野郎!!お前なんかと比べようもないぐらい弥生は良いやつなんだよ!!確かに子供みたいですぐ服は汚すし家事も一切できないけどワケありの俺を救ってくれたんだよ!!」



弥生のいる生活は俺のこれまで送って来た人生の中で一番楽しい瞬間だったんだ。



「弥生は俺の生活に絶対に必要な人だ……それをお前は……」



……殺す。殺してやる。

俺は目の前に立つ男を睨みつけた。



「………」



室淵は俯いた。



「なんか言えよ、このストーカー野郎」



俺が室淵にそう吐き捨てると室淵は口をモゴリと動かした。



「………ちがう」

「あ?」

「ちがう!!こんなの翔太さんじゃない!!」



室淵はガバリと顔を上げた。その目は赤く血走り、焦点が合っていなかった。



「翔太さんはこんな汚い言葉で私を責めたりしない!!」

「お前何言ってんの……」

「本物の翔太さんは何処へやった!!」



室淵はその焦点の合わない目で俺を睨みつけると何処からか取り出したナイフを向けてきた。

たぶんコイツにはもう俺すら見えてない。



「完全にイッてやがる……」

「翔太さんのフリをしている偽物め!!消えろ!!」



室淵はナイフを俺に振りかざした。

……大丈夫だ弥生。ナイフで刺されたって俺がお前の仇を取ってやるよ。

ナイフをかわすために、俺は腰に力を込めた。






「はいはーい!そこまででーす。室淵!お前を与根翔太に対するストーカー容疑で逮捕しまーす!」



緊迫とした状況に、突如能天気な声が響き渡った。



「え!?」

「はーい、こんばんわー翔太さんー」



この、妙に間延びした声の持ち主には見覚えがあった。確か弥生馴染みの警部の一人である明石さんだ。



「な、何で!?ここはバレないはずなのに!!」

「あー!お前!凶器を手にしてるなー!」



警部はピシリと室淵を指差した。



「な、なんだよ!!」

「確保」

「ひぃぃぃぃぃぃ」



一瞬目を細めた警部は瞬きもしない内に室淵を拘束していた。

すごい。


「タイーホ」



室淵は手錠をかけられた。



「さすがバカ力の明石の名は伊達ではないな」



……え?



「それよりも、大丈夫か?翔太」



肩に手を置かれる。

嘘だ。だって、弥生は……



「心配をかけたな、翔太」

「……弥生っ!!」



目の前には、確かに弥生がいた。

俺の目からは、熱い何かが落ちた。



「泣くな翔太」

「弥生……何で……?」

「それもこめて、全て今から説明しよう」



そう言うと弥生は一同をぐるりと見回した。



「さて……」



弥生はひたと室淵を見つめる。



「まずネタバレすると君が私達に依頼を申し込んだ瞬間から君が翔太のストーカーかもしれないという考えがあった」

「な、何で……」



室淵が明らかに狼狽えると弥生は不敵に笑った。


「簡単だ。君は私達が教えてもいないのに私と翔太の名前を知っていた。私達が最初に会った時、君は私と翔太が恋人関係にあると勘違いしてこう言ったんだ」



『そ、それじゃあ翔太さんと弥生さんは恋人同士……!?』



確かに室淵は最初にそう言っていた。

……あれ?



「私は名の知れた探偵だ。私の名前を知っているのは不思議じゃない。だが翔太はどうだ?翔太は助手だ。助手の名まで調べるのはおかしい」



そうだ、唯の助手である俺の名前まで知っているなんて普通ありえない。つまり室淵はあらかじめ俺の名前まで調べていたんだ。

気持ち悪っ!!



「そしてもう一つのおかしな点……それは不自然に綺麗にまとまった依頼内容だ」

「……普通の依頼者は混乱していて支離滅裂な内容が多い」



記憶の中で、不思議な出来事に気が動転してしまっていた過去の依頼人達がちらつく。



「そうだ。だが室淵。君は神経質そうな見た目に反してとても要点が綺麗にまとまった話をしていた。まるであらかじめあったセリフを言っているように……。そこから私はこの依頼内容が狂言ではないかという推理した。まぁ君の態度から翔太に特別な気持ちを抱いているのは容易にわかったが……」

「…………」



室淵は押し黙っていた。



「あらかじめ知り合いの警部に連絡をいれておいた。もしもの事があるといけないからな」

「私は貴女の部下じゃないのよー」



警部は悲しげに俯いた。



「洋館について床を見た時に私の考えが当たっている事を確信して安心したよ……」



あ!あれか!!



「綺麗すぎる床……?」

「そうだ。洋館が長い事放置されていたならホコリがあるはずだ。だから私は室淵の足跡を確認しようとした。しかし無かった。ホコリがそもそもなかった。この事から私はこの洋館がまるで廃墟に見えるように新しく造られた物だとわかったんだ。……つまり、室淵と翔太の愛の巣という事だな」

「やめてっ!」



俺は耳を塞いで蹲った。



「襲われた時に警部がいてくれて助かった。……しかし暗殺者を持ち上げて投げ飛ばすなんて女性としてどうなんだ?」

「やめてっ!」



警部は耳を塞いで蹲った。



「という事だ。室淵、観念しろ」

「……どうしてなんだ……。どうして翔太を手に入れられない……」

「ふん、簡単な事だ」



そう言うと弥生は蹲っていた俺を抱きしめると俺の頬に唇を押し付けた。



「翔太は私のものだからだ」














俺は何も言えなかった。ただただ顔が熱かった。

警部は「若いって良いわねー」と言いながら泣き出した室淵を引っ張っていった。

弥生と二人っきりになった。



「…………」

「翔太、生活に絶対に必要な人がいるんだぞ?何か言ったらどうだ?」

「やめろおおおおおお恥ずかしいいいいいいいいい」



何故それを今になって言うんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!

こんにちは黒歴史ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!


弥生は恥ずかしさで悶える俺を満足気に見ていた。



「今日の私は機嫌が良い。《カフェカワサキ》で奢ってやろう」

「うぅ……結局この……ええっと……『心霊スポット』?は嘘だったんだな」

「いや、わからんぞ。あいつの君に対する生霊なら普通にいそうだ」

「笑えねぇよ……」



普通に被害者としては笑えなかった。



「さしずめ、『心霊スポット』(仮)だな」

「上手いことまとめたな…。」



暗いとばかり思っていた空は、案外宝石のような星がキラキラと輝いていた。



「行くか、弥生」

「ああ、行こう翔太」



これからも弥生と探偵業をしていく中でまた危ない目に合うかもしれない。だけど、そんな目にあっても弥生との生活は素晴らしいんだ。弥生は、俺の一生を捧げてもいいと思える唯一の人だから。






……まぁ、絶対に言ってはやらないんだけど。


隣を歩いている弥生はニヤリと笑った。



ラブラブではないけど離れられない、そんな男女の関係を少しだけでも感じていただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 弥生と翔太のコンビネーション良かったですツ‼o(^o^)o二人のやり取りが本当に楽しかった。特に 下ネタを美人の弥生さん素敵です。 「…マグナムを暴発させたら…。」 素敵なセリフです。 推…
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