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謎の石  作者: 刃闇龍河
2/2

その2 いつも通り

7月18日 午前7:20

 その日は雲一つない青空だった。日に日に気温も上がり始めており、まだ7月だというのに28度を超えていた。

 俺は目を覚ますといつもどおり学校へ行くために制服に着替え、準備をする。

 今日を含めあと3日で夏休み。今週はもう授業も午前までしかなく、その授業も夏休みの宿題を配られるだけの、ほぼ自習みたいなものだ。

 普段は学校に行く足取りも重いというのに、長期休み前の数日だけは軽くなる。

「行ってきます」

 俺は朝食を済ませると、少し早めに家を出た。


 ☆

 俺の名前は小鳥谷(こずや)希楽(きがく)(むつ)(おか)中学に通う3年生だ。

 特別好きなものも人もなし、嫌いなものも人もなしの普通の男子中学生。運動は得意というわけではないが、一応体育も含め成績はオール「4」。小学生の頃からずっとだ。

 担任の先生からはオール「5」にしていい高校に入れと言われているが、別に将来なりたいものとかないし、学歴とか気にしないのでそんな面倒なことをするつもりはない。

 それに、勉強なんかしてたら友達と遊ぶ時間がなくなってしまう。俺は学歴よりも友情を優先する系の人間なんだ。高校もあいつらと同じところに行くつもりだし。

 と、そんなことを考えていたらそのあいつらが遠くを歩いているのが見えたので、俺は駆け寄り挨拶をする。

「相変わらずお前ら登校すんの早いな。(まこと)水音(みずね)

「普通だよ。希楽がいつも遅いだけだ」

 こちらを見ずに素っ気ない態度の男子が中峰(なかみね)真。

「マコの言うとおりよ! キガ君いつも遅刻ギリギリじゃないの」

 こっちの朝からテンションが高めの女子が(いぐるみ)水音。

「だってギリギリまで家にいたいじゃん」

 こいつらは俺と同じ六ヶ丘中学に通う友達で、ついでに小学生の頃から9年間同じクラスだ。

 真面目そうに見えて近寄りがたい雰囲気を醸し出しているイケメンの真と、いつも騒がしくて結構暴力的な美少女の水音、そして面倒くさがりで二人と比べると普通な俺。相性的にはそこまでいいとは言えない組み合わせで、趣味とか性格とか全く違うというのにとても仲のいいトリオ。小学生の頃から周りにはそう言われている。

 実際俺たちもなんで仲がいいのかはわからないけど、たぶん友達ってそんなもんだと思う。と、友情を大切にする系の俺は言ってみる。まあ、本当に仲がいい奴らって意外な組み合わせのことが多いしな。

「そういえば、今日はやけに早いじゃない」

「そうだな。希楽、何かあったのか?」

「いや、別に。ただ午前しか授業がないと思うと嬉しくてな」

 ついつい意味もなく家を早く出てきてしまった。まあ早いとは言っても、本当はこのくらいの時間が当たり前なんだけど。

「もうすぐ夏休みだからな」

「真と水音は夏休みどっか行くのか?」

「俺は特に考えてないな。水音はどうだ」

「私も特には。……あ、そういえば」

「どうした?」

「二人は駅前に新しいゲーセンが出来たの知ってる?」

 俺と真は顔を見合わせ、お互い首を振る。俺も真もそういう情報には疎いのだ。

「へー。ゲーセンできたのかぁ」

「そうよ。でさ、今日の帰りに寄ってかない?」

「帰り、というのは学校から直接ということか?」

「そうに決まってるでしょ」

「そうか……すまんが俺は行かない」

「あー。マコ、あんた本当に真面目よね」

 真はとても真面目なのだ。だから、寄り道とかそういう不真面目なことをしたがらない。

「いいじゃないたまには。あんた来年には私ら高校生よ? 高校生にもなって寄り道もしないとか、今時モテないわよそんなの」

「別にモテたいとか、これっぽちも思ってないのだが」

「いいや、高校生でモテないのは惨めよ」

「そ、そうか?」

 真がこっちを見る。真は真面目なので、そういうことにも疎かったりする。俺も詳しい方ではないけど、別に高校生になってモテないからって惨めというわけではないのはわかる。そもそも俺は友情があればいい系の人間だからな。恋愛より友情だ。

 しかし。

「ああ、そうだな。高校生にもなって惨めだ」

 ここで水音に乗っかるのが、友情を大切にする系の俺なのだ。

「てか、真は真面目すぎるんじゃないか? 別に寄り道くらいしたっていいじゃないか。俺たちもう中学生、来年には高校生でもう子供じゃないんだぜ?」

「そうよそうよ、キガ君の言うとおりよ! マコはもう少し不真面目になってもいいと思うわ! 私のように!」

「水音は『少し』ってレベルじゃない不真面目さだけどな」

「水音ちゃんパーンチ!!」

「ぐふぅ」

 水音に思い切り腹を殴られる。これが……今流行りの腹パン……。

「いや、しかし、でも……」

 俺が腹を押さえてうずくまっている横で、真は頭を抱えて悩んでいた。

 うーむ。やっぱり真面目な真に、いきなり不真面目なことをさせるのは難しいか。

「仕方ない。寄り道はやめて、一度家に帰ってからもう一度集まることにしようぜ。それなら真も来るだろ?」

「あ、ああ」

「ええー。キガ君までマコみたいな真面目キャラになっちゃったの?」

「別にそういうわけじゃないけど。やっぱり無理強いするのは良くないだろ。それに、出かけるならやっぱ3人一緒じゃないとな」

 水音にだけじゃなく、きちんと真の味方もするのが友情大切にする系の俺だ。

「うー……まあ、私も、別にマコを苛めたいわけじゃないし? 今回はキガ君の提案に乗ってあげるわよ!」

「そうか、ありがとな、水音」

 こうしていつも通りたわいのない会話をしながら俺たちは学校に向かった。

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