第参夜
9月27日――
皆さん、こんばんは。
以前より気になっていたであろう、『閣下』のプロフィール・・・。
追加情報をお知らせしよう!!
渚さん、頼みがある。閣下の後を追ってほしいんだ。
「あら、どうして?」
理由は聞かないでくれ。
「まぁ、いいわ。実は、アタシも閣下の事、気になってたのよ。フフフ、彼について行けるか心配だわ」
閣下はそんなに速いのか?
「彼の技術は一級品よ。アクセルワーク、コーナーの攻め、ハンドル捌き・・・。会長に引けを取らないわ」
渚さんも速いだろ?走り屋として、負けられないんじゃないのか?
「貴方、最近、会長に似てきたわね」
走り屋ってもんを朝までレクチャーされれば、こんな考え方にもなるさ。
「そうかしら?・・・さあ、乗って、ジン君」
閣下がZ32に乗り込み、PAを出た。
俺たちは、少し距離をとって後を追った。
「!彼、気付いたみたいね。少し飛ばすわよ」
渚さんはアクセルを踏み込み、先行しているZ32を追撃する。
迫るコーナーを、華麗なドリフトで攻め、一般車を圧倒的なテクニックでパスしていくZ32。
「やるわね!!でも!!」
渚さんも負けず劣らず、コーナーのギリギリでシフトダウン、ブレーキングを一瞬で行う。
「FR車の旋回性能を見せてあげるわ!」
ブレーキは踏んだまま、ハンドルを切りコーナーへと飛び込んでいく。
カウンターを当て、ブレーキをリリース、直後にアクセルを踏み込む。
渚さん、飛ばしすぎじゃ・・・!?
「閣下に置いてかれていいの!?」
・・・ジャンジャン行ってくれ!!
「りょーかい!!」
更に深くアクセルを踏む渚さんの顔は、僅かに上気し、色っぽい感じがした。
速度を上げていくFDのマフラーがアフターファイヤーを吹き出しているのが、シート越しに伝わってくる。
スピードは上がっている。にもかかわらず、Z32との距離は開いていく。
コーナーの度にテールランプは遠退き、直線では離される。そして、ついに見失った。
「やっぱり、パワーが違いすぎるわ」
無理か?
「ごめんなさい。今度は会長にお願いしてみましょう、一緒に」
俺のほうこそ、下らん事に付き合わせて悪かった。
「とりあえず、もう少し行ってみましょう」
俺たちは、引き続きZ32の足取りを追った。
一本の街灯だけがポツンと立った公園の傍を通ったときだった。
渚さん、ストップ!!
俺の声に驚き、渚さんはブレーキを慌てて踏んだ。
「な、なに!?」
ほら、あそこ。
公園の入り口の前に停められた閣下のZ32、そして・・・
「光臣くんの・・・S30?なぜ・・・」
さぁ?行ってみりゃ、わかるさ。
街灯が2つの人影を照らし出していた。
俺たちは、草むらに身を潜め、近づいていった。
徐々にはっきりしていく人影。そこにいたのは、
「あの娘、誰?」
距離が縮まるにつれて、話し声が耳に届きだした。
「みっくん、今日は渚ちゃんとバトルしたんだ」
「そうか、楽しかったかい?」
「えぇ、とっても・・・」
「よかったな・・・澪」
俺たちは静かにその場を立ち去った。
「いいわね、若いって・・・」
・・・フッ、そうだな。
ちなみに、この事は誰にも話してはいない。
恋愛の形は、人の数ほど存在する。
あの二人がそれでいいなら、誰も口出しできないし、わざわざ関係を明らかにすることもない。
俺たちにとって、光臣は光臣だし、閣下は閣下だ。
女だろーがなんだろーが、この事実が変わることはない。
渚さんは、
「これから、閣下のこと、なんて呼ぼうかしら?澪ちゃん・・・」
別に、閣下でいいだろ。今までどおりにさ。
「ま、それもそうね。それにしても、『渚ちゃん』かぁ・・・フフフ」
そう、今のままがベストなのさ。
そんなことを思いながら、俺は眠りの扉を叩いた。