小生、ここに提案する也
二十二話 小生、ここに提案する也
「ええ!?ミーティングに参加したい!?」
「無論、無報酬で良い」
「ああ、できたらでいいんだけどさ。なんとか頼めないかな。もっちーの権力でー」
「僕にそんな権力ないって!ハヤちゃん!」
ライブまで三週間を切った土曜日。僕は朝から郷戸に呼び出された。
指定された場所は、やっぱりハヤちゃんの家だった。
到着して早々、僕は二人から衝撃的な問いをぶつけられた。
「ミーティング参加できないかって……どういうこと?そんなこと言うからには、理由があるんだよね?」
「理由は…ミーティングの場で話そう。今もっちーに話したら、十中八九反対されるだろうからな!」
「俺は話してもいいと思うんだけど、ゴウちゃんが譲らなくてさ。無茶なのはわかってんだけど、なんとかできないかな?」
いきなりそんなことを僕に聞かれても…。
しかも、僕に話したら十中八九反対される内容って……絶対ダメだろ、それ!!
僕は溜息を吐いた。
二人はフルキンサポーターからしたら部外者なわけだし、ふつうだったら断られて当たり前なんだけど…。二人には作詞作曲をしてもらった負い目があるしなあ。そのへんの事情踏まえて話せば、なんとか…なるか?
「えーっとさ、一回だけの参加でいいの?」
「我々はそれでかまわない。しかし場合によっては、そっちの方から『今後のミーティングにも是非参加してくれ!』と頼みこんでくると思うがな。そうしたら無報酬というわけにはいかなくなるな!ドゥハハハ!!」
大した自信デスネ…。僕に言ったら大反対されるような理由で参加するくせして。
「まあ…フルーツ王国にとって悪い話ってわけじゃないからさ。頼むだけ頼んでみてくれないか?」
郷戸はともかくとして、ハヤちゃんの頼みは断りにくい。僕は再び小さく息をついてから言った。
「わかった。健吾さんに電話して聞いてみる。次のミーティングが明日なんだよ。さすがにいきなり明日ってのは無理かもしれないけど…」
「話が早いな。さっさと電話したまえ」
郷戸の奴、なんで偉そうなんだよ!
僕はしぶしぶ携帯を取り出した。
目の前で両手を合わせて『お願い』のポーズをしてるハヤちゃんのためにも、ここは頑張ってみるか。
***
翌日。公民館の洋室で定例のミーティングが行われた。
僕の隣には、郷戸とハヤちゃんが座っている。いつもは笠谷さんが横からちょっかい出してくるのだが、今日はその心配をしないで済みそうだ。
郷戸とハヤちゃんの参加は、拍子抜けするほど簡単に了承された。
健吾さん曰く、「むしろ大歓迎だよ!作詞作曲を手掛けてくれたコたちに直接お礼も言いたかったし☆」だそうだ…。
頑張って説得しようとしていた僕の気持ちは、思いっきり空振りに終わった。
「では、始めたいと思います」
ミーティングはいつものように、健吾さんの第一声から始まった。
「今日は物販企画を詰めていきたいと思います。一通り話し合った後で、メンバー達の練習の進捗状況の発表をお願いします。…と、その前に皆さんに紹介したい方々がいらっしゃいます。郷戸君、高見澤君。前の方に出てきてもらっていいかな?」
僕の両隣の二人は「はい」と返事をして、前に進み出ていった。
二人がホワイトボードの前に立ったのを見計らって、健吾さんが口を開いた。
「こちらの二人は、橋本君と共に、フルーツ王国のファーストシングル『一〇〇%☆キラキラ』の作詞作曲を手掛けてくれました。今日は二人からミーティングに参加したいとの希望をいただいたので、こちらにきてもらいました」
春花さんが大きな拍手をした。つられるように室内に拍手が起きる。
「橋本の竹馬の友、郷戸正徳です。この度は作詞をさせていただいて恐悦至極」
郷戸め!普通に挨拶できないのか!
笠谷さんがにやにやしながら、こっち見てるじゃないかよお…。春花さんは不思議そうな顔して首かしげてるし…。
あー!もう!やっぱこいつは参加させるんじゃなかった!
「はじめまして!高見澤隼斗と申します。僕の作った曲を使っていただいてありがとうございます。今日は、みなさんにお願いというか…提案をさせていただきたいと思って、ミーティンへの参加を希望しました」
流石ハヤちゃん。郷戸とは一味…いや百味ちがって完ぺきな滑り出しだ。
さて、ここから何を提案するつもりなんだろう?僕も内容は知らされてないから、なんとも言えない。剛造さんが怒りの咆哮を上げない話ならいいんだけど…。
「その説明は小生が致そう…」
って、おぅい!!郷戸!!お前は出てこなくていいからっ!!
僕は不安に駆られ、郷戸の暴走を止めようと席を立ちあがりかけたが、健吾さんにジェスチャーで制された。
だって健吾さん…郷戸は超高校級の地雷男なんですよ…?このまま自爆しても責任とれないっす…。
僕は冷や汗をだくだく流しながら、郷戸の挙動を見守ることしかできなかった。
「我々からの提案とは…」
グキュリ、と僕の喉が鳴る。
「それは…」
タメるなよ!!
「……新曲を作ってきた」
『えっ?』
郷戸の唐突な言葉に、その場にいた全員が同時に反応した。
新曲って…そんないきなり、この状況で!?ライブまであと三週間切ってんだぞ!?郷戸のやつ、なんのつもりでこんなこと――!
「郷戸!お前なぁ…」
「無論、無理に歌ってくれとは言わん」
立ち上がった僕を手で制して、郷戸は続ける。
「歌うのであればこちらには用意がある。そういう話だ」
「歌うって…だってお前!バルーンフェスタまでもう時間がないんだぞ!?こないだの曲がようやく仕上がってきたところなのに、今から新曲練習しろっていうのかよ!?」
憤る僕とは正反対に、郷戸はどこまでも冷静な口調を崩さない。
「だからもっちーには話したくなかったのだ。いの一番に反対するに決まっているのだからな。歌いたければの話だと言っただろう。歌いたくなければそれで良い。我々に気を使う必要など一切ない」
「頑張って作ったからデモくらいは聴いてみてほしいけど…。時間もないわけだし、無理に使ってくださいなんて言えないよな。俺らが勝手に作っただけなんだし」
ハヤちゃんが苦笑いを浮かべながらそう言った。
二人の言うことはもっともで…曲を作ってもらったことには感謝すべきなんだろうけど…。けど!そんなこと言ったら絶対張り切り出す人がいるんだよ!!
「やりましょう!!」
ほら……ね?
椅子を蹴倒す勢いで立ち上がったのは…予想通り春花さんだった。
ほんとにこの人はどこまでしょいこむつもりなんだ。ダンス練習だって毎日居残りさせられてるっていうのに、どこにそんな余力があるというのか…。
それに、春花さんが賛成したところで他の二人がOK出すわけ…
「いいんじゃな~い。新曲、聴かせてよ?」
「大きいステージで一曲だけなんて…ちょっとショボいと思ってたから丁度いいかもね」
えええええ!?富士子さんも絢ちゃんもそれでいいのか!?
あと三週間足らずで…バルーンフェスタのステージに出られるだけのレベルにもっていくんだぞ!?
「郷戸くん、高見澤くん。よかったらデモを聴かせてもらえないかな?」
動揺しまくっている僕をよそに、健吾さんが穏やかに声をかけた。
郷戸は頷いて手にしていたCDを恭しく掲げた。
「セカンドシングルのタイトルはズバリ――」
「タイトルは『美味しい太陽!』ですっ」
「………そこは小生に譲ってほしかった也…」




