096 開放
昨日と一昨日のマトメ!
・襲撃にあったダーシャ一行は迎撃すべく立ち向かう
・サヤーニャはリーダー格と、アブさんはタダムと対峙し、残りはダーシャとバディで担当した
・戦闘でバディが瀕死の重傷を負う
・月の滴輸送箱を見つけた襲撃者が、封印を解けとダーシャに迫る
・ダーシャが呪文と唱えて封印を解くと見せかけたが、輸送中の月の滴が突如光り輝いた
ココからは俺のターン!?
封印を解く為の呪文と思っていたなら大間違いだ。俺が唱えた呪文は、『月の滴』を自由な魔素に変換する為の呪文だ。
―『月の滴』は『適合者』の意思を汲取り自由に形状を変化させる―
ならば、俺は『月の滴』を魔素に変換させ、相棒の体を治す。
「お望みの通り、魔素を開放したぞ。」
俺の胸元から発する光は、まさしく魔素そのものだ。夜襲に合う前の打ち合わせで、俺捕らえられる可能性も考えられていた。
襲撃の際に、箱が取られることはあらかじめ想定していた。あの箱を持って移動するのは困難だし、戦闘するなどもっての外だ。ならば『月の滴』の特性を利用して、俺の体に纏わせる事で守りやすくする。さらに、心臓や内臓を守る防具としていた。
実際、奴らにしてみたら『月の滴』はお宝で、それは大事に保存して輸送する物だ。俺の身体検査などするわけも無く、あっさり輸送箱に引っかかった。
そして、どうしようもない時にと決めていたのが、『祝詞』を唱えて『月の滴』を開放して戦闘に利用することである。
適合者の意思を汲取った『月の滴』は、俺の望み通り、光の塊に姿を変えた。
「この餓鬼が! 自分が何をしたかわかっているのか?」
魔素に分解された光は、相棒の元に集い、怪我を一瞬で塞いだ。残りの魔素はその体に染み込んだ。体内で変換が行われ失われた血液の代わりになることだろう。
瀕死の重傷で動けなくなっていた相棒の体が元通りになると全身から魔素が漏れ出し、光り輝いている。
「何とか言えよ! この、くそ餓鬼が!!」
俺は顔を蹴り上げられ、髪を掴まれる。
しかし、今はこの痛みすら気にならない。
「お前等に取られる位なら、相棒の回復に使うのが有意義ってもんだろ。」
してやったりと笑うが、俺を抑えている全身革鎧の男に右腕をねじ上げられ、―ベキッ―と音を立てて腕を折られた。
直後、俺の体は金色の光に包まれた。そう認識すると、先ほどまで俺を抑えていた冒険者が遠くに飛ばされていた。
「久しぶりにこの姿になれたな。」
金色のソレが口を開いた。
「ダーシャ。礼を言うぞ。」
金色のソレは、己から発する光を抑え、一糸纏わぬ女性の姿で俺に抱きついた。その声は、どこか懐かしい、聞き覚えのある声だった。
「あの時は一生相棒で居ると約定を交わしたな。そして、今回は相棒の為に『月の滴』を失った。相変わらず欲の少ない事よ。ならば、相棒の為に貴方が失った『月の滴』の対価をココで払うとしよう。」
抱きつかれた時に、折られた腕は痛みを残さず一瞬で回復している。この空間の魔素濃度は異常だ。老紳士に影響が出ないように、空気中の魔素で薄い膜を作り、それ以上老紳士に近づかないように操作を行う。
「何だこいつは!?」
「魔物だ! 魔物の類に違いない!!」
ありえない光景に慌てふためく冒険者達。俺も思考がついてこない。今の話で理解できたのは、この光る裸の女性が相棒と名乗ってることと、冒険者達がこれから蹂躙されるのだろうという事だけだ。
「まずは、私に攻撃を加えてくれた虫けらから処分をしよう。楽に死ねるとは思うなよ。」




