094 狩る者・狩られる者
※今回は戦闘シーンにつきものな残虐なシーンがあったりなかったりします。
苦手な人は明日の前書きで纏めますのでそれを待っていただくか、私の書く残虐シーンだから大丈夫だろうと覚悟して読んでください。
「どうした兄ちゃん? 何かお困り事かい?」
何度も魔素を流しなおす俺をみて、マント姿の男はニヤニヤしながら話しかけてきた。
「ひょっとして、刻印が発動しないと困ってるんじゃないかなってな」
この余裕は何だ。
「きっと俺の所為かも知れないけど、ゆるして頂戴。」
ヒャッハッハと下卑た声で笑いながら、斧をもった男が続ける。
「こいつが発動してる間で発動しようとした刻印は、起動阻害されるんだよ。」
「なので兄ちゃん、君は自力でこの5人を相手にしなきゃいけません。怪我するのが嫌ならとっとと荷物よこせよ!」
1対5で相手はEランク冒険者。まける理由が見当たらないのだ。
「これこれ、そんな言い方したらお兄さんも諦めがつきませんよ。」
仲間を制して商人風の腹ぼて男が続ける。
「貴方には選ぶ権利があります。1つ、素直に渡して怪我をせずに旅を続ける。2つ、抵抗した挙句に取り返しのつかない怪我を負う。この場合は最悪死ぬことも考えててくださいね。3つ、一緒にあのSランク冒険者を始末してくれるなら仲間にしてあげます。」
一呼吸間を空けて、俺を笑いながら見つめる。
「さぁ、どうします。」
「ふざけるな。」
即答だ。暴力に屈する選択しかないのであれば、最大限の抵抗をしてやる。俺が諦めなければ最大戦闘力が帰ってくる。刻印が使えなくても、相棒と一緒なら時間を稼ぐくらいやってやる。
「この餓鬼が、やさしく言ってやれば付上がりやがって! 交渉は決裂です。殺しちゃいましょう。」
交渉に乗ったところで殺さない場面は想像できない醜悪な顔を鏡で見せてやりたい。
「相棒! いくぞ!!」
スリングショットにセットしたナイフを打ち出し、襲撃者と退治するのだった。
「いいのかい。兄ちゃんが壊されるぞ。」
5人に囲まれる青年を気にかけるように、サヤーニャに揺さぶりをかける。
「あの子なら、貴方達に負けることは無いわ。それより、貴方も覚悟はいいかしら?」
散歩する様に近づくサヤーニャの手から、刻印が光る。
「刻印阻害が発動してるはずなんだがな。」
手の内で光る刻印を見ながら、事なさげにいう。
「術者の技量が低いんでしょう。私には何の影響も無いわ。」
自分の優位が覆されたことを理解して、リーダー格の男は武器を力一杯握り締めた。
「タダムよ。コレがお前の望む未来か?」
周りの状況を見せつけながら、老紳士は問いかける。サヤーニャに追い詰められるリーダー格の男。ダーシャを取り囲む冒険者達。
「アブさん。私は彼らを止めようとしました。いつか彼らが改心してくれることを信じてます。しかし、今は無理なのです。彼らにつけられたこの首輪が私の命を握ってるのです。だからお願いです。この侘びは必ずします。だから、この場は諦めてください。」
そういうと、首もとのシャツをひき下ろした。普段はシャツで隠された首には、爆発の刻印が刻まれた首輪がつけられていた。
「ふざけるな! お前はアンナを命にかけて助け出すと約束したではないか。そのお前が命を惜しむじゃと。あの少年は、自分の命を賭してまで、己の矜持を、民を助けるという約束を守ろうとしてるのじゃぞ。タダム! お前の覚悟はその程度のものなのか!?」
自分にできないことを、あの少年がしている。タダム1人でもあの5人を制圧するのは厳しいだろう。ましてや、少年はEランク冒険者だ。1人で狼の群れを制圧すると言ってるようなものである。
「信じられんのじゃったら、大人しくココで見ておれ。あの若き冒険者が切り開く未来をな。」
「くっそ、この餓鬼やりやがった。」
スリングショットで放ったナイフが、ボウガンの弦に命中した。これで飛び道具はなくなった。ボウガンを持った男は己の武器を投げ捨てると、腰のショートソードを抜き放った。相棒がその隙を見逃さず、一筋の光の様にボウガンを持った男の手を噛み千切った。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
仲間の悲鳴を無視して、斧をもった男は両手に掴んだ獲物をダーシャに振り落とした。
「ちぃ、避けたか。いつまで避けれるかな。」
バックステップしたダーシャの後ろは、焚き火が燃え盛っている。そこから逃がさない様にと、全身革鎧の男と商人風の腹ぼて男がジリジリと囲いを狭くする。
その中でも冷静に状況把握をして、いかに逃げ回るかを計算する。
敵は7人。ボウガンを持った男は噛み千切られた手を掴んで必死に腕につけようとしている。既に戦力外と判断して良いだろう。残りは6人。
マント姿の男は相棒が牽制している。刻印に魔素を流そうとした瞬間に相棒が飛び掛る。それを交わして、再度刻印に魔素を流す。しかし、それを見逃さず飛び掛る相棒。月光の輪舞曲は終わりを見せない。
老紳士はタダムと何か話してるようだが、内容まではわからない。野営時に説得すると言ってたか、その類の話だろう。
サヤーニャはリーダー格の男を追い詰めている。Sランク冒険者からの攻撃を凌ぐ所は、敵ながら天晴れといって言いのだろうか。いや、早く捕縛されてサヤーニャの助けが欲しい。
となると、残り3人か。|斧をもった男<カピヨー>の攻撃は1発でも受けたら終わりだな。|全身革鎧の男<ドスペーヒ>と|商人風の腹ぼて男<タルゴーヴィツ>は俺を組み伏せるのが目的だろう。
俺1人で制圧できるとは思わない、俺は俺の仕事をするだけだ。再度気合を入れなおすと、眼前ににる3人の一挙手一投足を見落とさないように集中していくのだった。




