093 深夜の来訪者
漆黒の闇が深くなった。空を見上げると先刻まで顔を出していた月が雲の隙間に隠れていた。眼下の焚き火はパチパチと音を立てて弾け、朝日が昇るまで俺の体を温めている。
サヤーニャの話だと、襲撃があるとすれば今夜。それも夜深くの人が寝静まった時間。日中に面倒事があった人間は否が応でも疲れる。緊張感から開放された夜の見張りはどうしても気が緩むものだ。そんな心の隙を狙って一気に来ると言う。
目の前に吊るしている刻印はまだその効果を発揮し続けている。代官の私兵が近づけば、以前のようにその力を使い果たして黒こげになる事だろう。
夕方早めに野営を開始したので仮眠はしっかり取れた。食事もしっかり取った。緊張感も一定の水準を保てているつもりだ。
後は襲撃が来るか、夜が明けるかのどちらかで今後の動きが変わる。
相棒がピクリを耳を動かす。耳は町の方向を向いている。生憎とこっちが風上だ。
スリングショットを左手で握り締め、弾代わりの刻印を右手で掴む。まだ人の気配はしない。しかし相棒は闇を見据えたまま微動だにしない。何か動きが有るまではサヤーニャを起こすことはしない。彼女が仮眠を始めてから3時間しか経っていない。可能ならギリギリまで寝かせてあげたい。
変化はいきなり起きた。目の前の刻印が徐々に黒く焦げた。煙を出すことなくその身に刻んだ効果を使い果たしたのだろう。相棒の耳は後ろ向きに伏せられ、柔らかい毛皮は逆立っていた。
―襲撃だ―
右手で握った刻印に魔素を流してスリングショットで相棒の見つめる方向へと打ち込む。
同時に闇から何かが飛んできた。シュッという風切音が俺の打ち出した刻印に命中すると、夜の闇を光の爆発で吹き飛ばした。
「サヤーニャ! 敵襲だ!!」
声をかけると同時に新しい弾を、襲撃者が居ると思われる場所に向かって打ち込む。光に映し出された影は7つ。こちらの戦力は3人と1匹。予想はしていたが今夜は長くなりそうだ。
打ち合わせでは、リーダー格の男はサヤーニャが抑え、老紳士がタダムと対峙する。俺と相棒で残り5人を刻印弾でけん制しながら、リーダー格を倒したサヤーニャが1人づつ無力化していく事になっている。
我ながら無茶苦茶な作戦だと思うが、俺が1対1で制圧できるとは思えない。ならば、牽制撹乱嫌がらせをして時間を稼がなくてはいけない。
「お前達の襲撃は予想をしていた。この回りには罠を仕掛けさせてもらった。怪我をしたくなければ尻尾を巻いて代官の所へ帰るんだな!」
「ふざけるな! この人数差で勝てると思うなよ! 大人しく『月の滴』を渡しやがれ!」
俺達のやり取りを尻目に、サヤーニャはリーダー格の男へと向かっていった。
「タダム! お前までこの襲撃に参加するとは情けない。わしが相手をしてやるから掛かって来い。」
老紳士も愛用の剣を持ってタダムに向かっていった。危険なので止めた方がいいと何度も言ったが、タダムなら怪我をさせないと強気で言う老紳士に押し切られた形だ。人手が足りてない状態で贅沢は言えない。
サヤーニャとリーダー格は既に戦いを始めている。反対にタダムは動きを止めて老紳士と見詰め合ってる。残り5人は予想通り俺に向かってきたか。
最初の狙いは商人風の腹ぼて男だ。スリングショットで狙いを定めて打ち込むが刻印が発動しない。
魔素が足りなかったか。再度刻印に魔素を流して打ち込むがやはり反応しない。刻印頼りのこの作戦で刻印が発動しないのはやばい。
あせっている俺達を5人の冒険者は、手なれた作業をするように取り囲むのだった。
風景描写とか心理描写とか、難しい!!
でもコレを乗り越えなきゃ先に進めない(葛藤)




