088 合流
「さてと、男爵家は何処にあるかな。」
「わふ。」
「宿屋以外で頼れるところと言えば、冒険者ギルド位だよな。」
「う~~ わふ!」
そう吼えると、地面に鼻をつけクンクンと何かを探し始めた。ひとしきり探した後「わふ」と叫ぶとダーシャの顔を見つめる。
「そうか、匂いで追えるんだな。さすがは相棒、頼りになる。」
その言葉を発するや否や、相棒は駆け出した。遅れては成るものかとダーシャも全力で追いかけた。
宿屋を出て右手に進み、万屋の前を通過し、屋台街を抜け、鍛冶屋を通り過ぎると冒険者ギルドにたどり着いた。
「やっぱりここになるよな。」
サヤーニャの事だから、てっきり知り合いの情報屋か何か伝手が有るかと思っていたが、頼り先は冒険者ギルドだった。息を切らして走った先が冒険者ギルドだった事に、やり場のない怒りを少しだけ覚えてしまった。
「ダーシャ様、いらっしゃいませ。お仕事の報告ですか? それとも依頼の受付ですか? それとも私の顔を身に来られましたか? 呼んでいただけたら何時でもお側に参上しますよ。」
「いや、どれでもないです。今朝、私の連れが冒険者ギルドにお伺いしたかと思うのですが、そのとき対応された方いらっしゃいますか。」
「は、はい。それなら私ですが、やっぱり何か問題が起きましたか。」
「いや、サヤーニャの方で問題が起きてるかどうかは知らないけど、代官邸宅の場所を聞いていったと思うんだけど、僕にも教えて貰えないかな?」
「街の住人ならどなたでも知ってる事なので別にかまいませんが、何かトラブルが発生しましたか?」
「いえ、件のタダムさん。正確には、タダムさんをこき使ってる奴らと問題が発生した感じです。」
正直に答えたダーシャの冷静さ対して、受付嬢の胸中は穏やかではなかった。
『私のダーシャ様がピンチになってる。でも、ギルド受付では何のお役にも立てない。せめて、この体で冷えた頭を温めて差し上げるしかない(じゅるり)』
「この街の地理に疎いので、できれば簡単な地図を書いて貰えると嬉しいです。」
「それでしたらこちらをどうぞ。」
冒険者が仕事で迷わないように、あらかじめギルドには配布用の街地図が用意されている。ノータイムで取り出した地図に赤丸で代官邸に印を付け、ダーシャに手渡した。
『いまの流れるような仕事振りを見ていただけました? 仕事ができる年上のお姉様がいろいろ教えてあげてもよくってよ。 きゃーーー♪』
先ほどから不意に襲う悪寒と戦いながら、手渡された地図に目をやる。
「あら、ダーシャ君。どこかにお出かけ?」
不意に後ろからかけられた声に振り返ると、サヤーニャがこっちを向いて手を振っていた。




