087 それぞれの想い
昨夜会社の飲み会で、朝起きれませんでした(挨拶
というわけで、この時間の投稿ですがご賞味いただけると幸いです。
「おい、どうする?」
相手は領主の書状を持っている。
「さすがに、領主の犬に手を出しちゃ不味いだろう。」
下手に手を出せば、自分達に被害が及ぶ。
「相手の力量も不明だしな。」
2対4で負けるつもりはないが無傷で終わるとは思えない。
「あの狼も異常に巨大だったし、そこが見えねえな。」
狼に襲われれば、命の保障はないだろう。
「ヴァジムかタダムでもこの場所に居ればな。」
いつも責任はあいつらが取っている。
「仕方がねぇ。いったん合流して方針を決めるぞ。」
現状取れる手は少ない。ならば命令として動いたほうがいざというときの責任を回避できる。
ドアの外で聞こえる会話は結論を出すと、気配と共に消えていった。
何とか凌げたか・・・。 さっきのやり取りを思い出し、いまさらながら冷や汗が出てくる。
自分を助けてくれた魔具を取り外すと、テーブルの上に並べた。幻惑の刻印と威圧のマントだ。
幻惑の刻印は、相手の持つイメージを勝手に広げ視覚的に相手を惑わす効果がある。相手を巨大に感じるものは巨大に、正しいと信じるものはより正しいと思わせる。逆向きに使うと自分にその効果が掛かるので、人間的にソリが合わない人間に謝罪するときは逆向きに使われる。
威圧のマントは装着している者を回りの人が畏怖する効果を持つ。その対象は外見だけでなく、声や匂いも含まれる。
今回この二つの魔具を組み合わせることで、まずドアの反対側から相手を威圧した。こちらに対して少しでも畏怖を覚えてくれたら、あとは幻惑の刻印が相手の恐怖心を増大したイメージを見せてこちらに有利に運ばせる。
とどめの領主紋章と領主サインで帰る理由を作ってやれば、相手は大人しく帰っていく寸法だ。とっさに思いついた作戦にしては無事に成功してよかった。
冷や汗を拭いながら、床の上にヘタヘタと腰を落とす。
「相棒もお疲れ様。」
心配そうに顔を舐めてくる相棒の首にしがみ付きながら、刹那の邂逅から無事逃げ出せたことを喜び合う。
「さて、コレは宿を引き払ってサヤーニャと合流する必要があるな。」
散乱した荷物をかばんに仕舞うと、トントンとノックする音が聞こえてきた。
「ダーシャさん、今ならあいつ等居ないんで入れてもらって良いですか?」
相棒も回りを警戒する気配がないので迷わず部屋に招き入れる。
「さっきは大丈夫だった? あいつらが大人しく帰ってったので何か裏があるんだと思うんだ。だから、今のうちに逃げるほうがいいよ。これ、宿代のお釣だからもっていきなよ。」
手渡された袋に入っていたお金は。明らかに昨日支払った代金より多い。金額を確認し袋の中に収めると、再度アンナに渡した。
「気持ちは受け取ったよ。でも僕らはまだ出て行くとは行っていない。たとえ帰ってこなくても当初の予定通りこの部屋は借りたままにするよ。」
渡された袋をもったまま固まるアンナを横目に、荷物を相棒と分けて持ち部屋を後にする。
「それじゃぁ、アンナ。いってきます。必ず君達を助けて見せるよ。」
その言葉で、時が流れ始めたアンナの目尻には涙が浮かんでいた。
「いってらっしゃい。」
出て行ったダーシャが見えなくなっても、渡された袋を握り締めていつまでも見送るのであった。




