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月の滴  作者: あれっきーの
遥かなる家路
85/136

085 邂逅寸前



 一斉に駆け出した5人。進路をふさぐ通行人を押しのけて駆けていく。吹き飛ばされた通行人は文句を言おうと相手を見ると、「犬にかまれたと諦めろ」と回りからたしなめられた。


「おい! 今の光って!?」


 商人風の男が、玉のような汗を垂らしながら、丸いおなかをユサユサと揺らしながら光の確認をする。


「多分お前の想像通りだよ。」


 全身革鎧の男がぶっきらぼうに答える。


「ヴァジムとタダムは気が付いてるのか?」


 ボウガンを持った男が問う。


「知るか!」


 商人風の男が、叫びながら答える。


「方向から考えて逆方向だ。気づいてないものとして動くぞ。」


 全身革鎧の男が暫定リーダーとして命令をだす。


「応!」


 そのまま駆け続けると見慣れた風景に気が付く。


「おい、この方向って?」


 この方向で先ほどの光の位置から察するに3階建ての窓辺。あの辺りで3階建ての建物は1箇所しかない。


「猫の歩廊亭か・・・畜生! お前ら、欠片をちょろまかしたとか無えだろうな?」



「そんなことするかよ。この生活とおさらばする様な真似はしないさ。」


「そりゃそうだな。まぁ、どこのボンクラか知らねえが、ブラト様の領地で俺達に見つかるとは運のねえ奴だ。」


「ちげえねぇ。」


 自分達の常宿に目標がある。あの母娘(親子)が手に入れることはできないだろう。あるとすれば、自分達が落とした物を拾ったか、何も知らない旅人が泊まったかだ。


 力ずくにしろ、地の利にしろ、自分達に分がある。そう思うと走るのが馬鹿らしくなった。10分ほど歩き猫の歩廊亭(常宿)に帰り着いた。


「女将! アンナ! 帰ったぞ!」


 誰も居ないカウンターにて大声で叫ぶ全身革鎧の男。


「そんなに叫ばなくても聞こえてますよ。」


 「お帰りなさい」と出迎えた女将に早速尋問を始める。


「俺達の留守中に変な輩を泊めてないか?」


 いつものやり取りだ。何か後ろめたい事でも有るのだろう。すでにそこは諦めの極致で無視している。


「変な輩じゃなくて、礼儀正しい冒険者なら泊まってますよ。」


 ダーシャの対応と比べるとあまりにも酷い、常連宿泊客(迷惑な客)についつい嫌味で返してしまう。


「さっき、猫の歩廊亭(この宿屋)から、ものすげぇ光が出てたんだが知らねえか?」


「いや、知りませんよ。」


 口ではさらっと返したが、冷や汗が出るのは止められない。目線もついついダーシャの客室を見てしまう。


「そいつだな。」


「あぁ、間違いないな。」


 ボウガンを持った男と斧をもった男が全身革鎧の男(暫定リーダー)の後ろで囁きあう。


「その冒険者は何処の部屋だ?」


 自分の対応ミスに気が付いた女将。しかし、後の祭りだ。常連宿泊客(迷惑な客)の新しいターゲットはダーシャだ。あの礼儀正しい青年に迷惑をかけてしまう。


「お客様の邪魔はよして下さい。」


 必死に止めようとするが、冒険者の力に敵うわけが無く無下にあしらわれる。


「五月蝿い! お前ら探すぞ!」


「やめてよおじちゃん! いったい何だってんだよ。」


 混乱している受付にアンナが飛び込む。さっきから宿中に響き渡る声だ。何処の部屋に居ても、この争いの内容は理解できる。


「おうアンナ。さっき猫の歩廊亭(この宿屋)から、ものすげぇ光が出てたんだ。ここに泊まってる客が禁呪を使ってるみたいなんだが知らねえか?」


 さすがに少女に対して凄むことはできない。商人風の男は落ち着いた口調でアンナに問いかける。


「あんたら馬鹿かい。あれは禁呪なんかじゃないよ。」


 ダーシャの部屋の方向に目をやり、さっきの神秘的な光景を思い出す。


「ほう、つまりお前は見たんだな。」


 マント姿の男は冷静にすべてを見ていた。アンナの顔が真っ青になり、急いでダーシャの部屋に駆け出そうとするが、無残にも取り押さえられてしまう。


「おい、お前は小娘を捕まえて置け。残りは行くぞ。」


 4人は連なって3階に移動した。宿泊客の居ない部屋のドアはすべて開いている。つまり、閉まってるこのドアの向こうに目的の人間が居ることになる。


「居るんだろ! 開けろ!!」


「代官様の荷物改めだ! 大人しく出てこい!」


 激しくドアをうち叩く。


「五月蝿い! 大人しく待ってろ!!」


 部屋の中から返ってきた返事は、まるで|目下の人間に命令しなれた《雇い主ブラト》の様な、労働階級を見下す冷酷さを内包していた。


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