082 忠臣の想い
「まぁ、弱いもの虐めをする趣味はないの。私は男爵に用事があってきたのよ。あなたは門番よね? それなら仕事しなさい。」
最初の対応は失敗したものの、真っ赤になっていた顔が、白くなり青くなる様子をみてクスクス笑うサヤーニャ。対照に、今生きてることを神に感謝してもし足りない門番は、親とはぐれた子供のように怯えていた。
「はい。すぐにお呼びいたします。」
脱兎のごとく屋敷に駆け込む。足がもつれて途中何度か扱ける旅に「急げ」とか「死にたくない」とか己を叱咤していた。
「最初から大人しく自分の仕事をしてればいいのにねぇ。」
誰に言うわけでもなくポツリと呟いた声は、冬の訪れを告げる一陣の風に巻き込まれて消えてしまった。
数分後、屋敷からは2人こちらへ向かってくる。1人はさっきの門番。もう1人は慎重175cm位の白髪の執事服を着込んだ男性。服装から考えると筆頭執事だろう。身の運び方から察するに何か武術を修めていてもおかしくない。さっきの門番よりもよっぽど手ごたえがありそうだ。
門の外まで出てくると、恭しく頭を下げた。
「はじめまして。先ほどの魔素濃度から察するに『刻印の剣舞士』サヤーニャ様とお見受けいたします。ストリギン家にようこそおいで頂きました。」
さりげなく、魔素感知ができる事を匂わす門番。うっかりもらした言葉出なければなかなかの狸だ。あれだけの魔素で個人を特定したのか、それとも門番がみた冒険者カードに載っていた名前と、門番の口から『剣舞士』が漏れたのかは判らない。しかしこちらを侮っていない。そこが一番厄介だ。
「へぇ~。なかなか魔素感知能力が高いわね。門番さんは雑魚だったけど、あなたは1戦する感じの人?」
会話に探りを入れる。実際問題、2対1で戦いになっても良かった。せっかく二つ名が出されたので、いつでも戦える姿勢を見せておこう。
「いえいえ、滅相も有りません。私は唯の老いぼれですよ。ささ、主がお待ちしております。こちらへどうぞ。」
そういうと、門を開けさせ邸宅に招きいれた。
「こちらになります。」
庭の趣味は良かった。丁寧に刈り込まれた芝生にマーメイドの形をした噴水。四方に目を遣れば、薔薇の花壇が目に入る。今咲いてるのは多弁の薔薇。花言葉は「誇り」。さてさて、代官は何の誇りを持っているか楽しみね。ダーシャ君は曲がりなりにも「貴族の誇り」と「領主の誇り」を10才で世間に披露したわよ。
屋敷に入り、廊下の花瓶を飾るのも薔薇。ただしこちらは満開ではない。三つの蕾に一つの薔薇。
「この花瓶はずいぶん寂しいけど、さっきの薔薇園から追加はしないの?」
労執事は花瓶に目を遣ると一瞬だけ重く息を吐きだした。
「この花瓶は私が毎日手入れさせていただいてます。いかんせ花が落ちるより咲く瞬間の方が好きなので、主にわがままを聞いていただきこの数でございます。」
咲いているのは紫の薔薇、花言葉は「誇り、気品、上品、王座、尊敬」
花の形はやはり多弁のバラ、花言葉は「誇り」
花の組み合わせは三つの蕾に一つの薔薇、花言葉は「あのことは永遠に秘密」
執事さんが好きなのは咲く瞬間ね。じゃぁ願うのは主人の改心ってところでいいのかしら。
花言葉・・・・
普通に口でしゃべればいいのに(台無し




