071 展望の良い部屋悪い部屋
「じゃぁ、お部屋まで案内するね。こっちだよ。」
さっそく階段に向かうアンナ。サヤーニャも荷物をもって後を追う。
「ちょっと待って。相棒、後で体洗いに迎えに来るから外で待っててくれ。」
俺は、相棒に言いつけると。宿の入り口から出ようとした。
「裏庭に井戸があるから、裏庭で待っててもらおう。バディちゃんからご案内。」
バディを忘れてたとばかりに、アンナが案内してくれた。連れて行かれた場所は裏庭というよりは、宿泊客がくつろげる中庭だった。休憩用のベンチまで完備されている。
「裏庭って割には結構手入れされてるな。」
素直な感想を告げた。
「いいでしょ。タダムさんが暇を見つけて手入れしてくれてるんだよ。」
「そんなことをしてるんだ。タダムってどんな人なの?」
改めて見渡すと、3m四方に草がない一角があった。きっとあそこで武器の素振りや型の確認をしているのかも知れない。ベンチはそれを見やすいような場所に設定されているのは、アンナが見学するときに地面に座らなくても良い配慮なのかもしれない。
「いい人だよ。ただ、一緒に居るほかの冒険者が嫌な感じかな。何かある度にタダムさんを色々こき使う感じ。」
苦労性なのかもしれない。少しだけタダムの評価を上昇した。
「じゃぁ、バディちゃん。ここで待っててね。柵の外に出ちゃ駄目だよ。」
「わふ!」
木漏れ日が差し込む芝生の上に陣取り、お昼寝の体制をとる。洗うときにちゃんと起きてくれるといいな。相棒の事だから心配してないけどね。
「じゃぁ、お兄ちゃん達のお部屋にご案内だよ。」
改めて階段を上り、また上り、さらに上って4階に案内された。
「なかなか良い眺めじゃない。」
「でしょ。私のお奨めのお部屋なんだよ。」
猫の歩廊亭4階建てで、近所の家は高くても2階建て。頭ひとつ跳び抜けてる感じの造りだ。案内された部屋は4階で町の反対側まで一望できる。
眼下のいたる所に黒煙を吐く煙突があり、カンカンカンと小気味良い音が鳴り響いている。流石は鍛冶の街って所だろう。
「じゃぁ、俺は相棒を洗ってくるよ。ついでに、水浴びもしてくる。」
荷物を置くと、早速相棒の元へと移動しようとした。石鹸は井戸の横に備え付けてるらしく、特に持っていくものはない。
「はいはい。じゃぁ私は共同浴場に行ってこようかしら。」
1人で暇になるのか、旅の汚れが気になるのか、サヤーニャはお湯浴びをしたいらしい。案内してくれたアンナはまだ部屋にいる。
「夕飯はうちで食べる?別料金だけど定食で銅貨5枚。お酒は1杯銅貨1枚だよ。」
なるほど、注文の確認か。
「せっかくだから頂きましょうか。」
サヤーニャの提案に俺はうなずいた。知らない町で飯屋を探すのは面倒だし、今日はもう動きたくない。
「それじゃぁ、18時の鐘がなってから20時の鐘がなるまでが食事の時間だよ。時間までに食堂に着てね。」
「ああ、わかった。ついでにその時に相棒の分も適当に拵えてもらえるかな?」
「うん、いいよ。ってか、バディちゃんは何でも食べれるのなら、食材の切れ端とかを私からバディちゃんにプレゼントするの。」
アンナはバディを大層気に入ってるみたいだ。もしや『もふもこ教』の信者なのかもしれない。
「ひょっとしてアンナちゃんも、『もふもこ教』の信者なの?」
「信者って、宗教じゃないのよ。『もふもふ、もこもこした動物』が好きなだけ。かーさんが宗教って言ってたけど、実際はただの動物好きなだけだよ。」
その一言にほっとした。度を越えて好きな人が居るのは事実だろうが、宗教まで発展していなくてよかった。領主館に帰ったときの展望はそんなに酷くなさそうだ。
「定期的に太陽写真とかを持ち寄って、自分の見つけた『もふもこな子』の自慢をするお茶会があるらしいけどね。流石にそんなのに行くお金はないよ。」
安心からの落胆。そんなお茶会開きそうな人物はやはり母上しか思いつかない。俺がいない5年間、いったい何があったのか。父上、ナーシャ!なぜ止めなかった。止めたとしても聞く耳もたない気がするが、この際別問題としていよう。
「まぁそれでお願いね。」
悶絶する俺を放置して、サヤーニャとアンナで話が決まった。
「じゃぁ、腕によりをかけて作るね。」
そう言って、アンナは部屋を後にした。サヤーニャはにやにやとしながら部屋を出ようとした。
「奥様の影響力はすごいのよ。」
何か意味深な言葉を残して・・・。
昨日はUV5000、PVが2000/日越え、ブックマークの増加と現実を受け止めれずにどきどきしていました。ロボット検索に引っかかったのじゃないかと真面目に心配。もしよろしければ、感想を一言でも頂けると、読者様が居たと安心できます。(小心者




