069 猫の歩廊
ポーニャさんが居なくなるだけで、こんなに筆運びが遅くなるとは・・・
ポーニャ・・。恐ろしい子。
歯軋りする先輩受付嬢に挨拶をして、僕らは冒険者ギルドからアンナの案内で猫の歩廊亭に向かうことにした。
「もー。お姉ちゃんたち遅いよぉ」
ちょっとほっぺたを膨らませながら、それでも営業スマイルを崩すまいとがんばっているかわいい少女は苦言を申し立てた。
「ごめんごめん。でも、お仕事の情報集めは大事でしょ。」
「それはわかるけどさぁ。タダムさん達の情報なら猫の歩廊亭に帰ればすぐわかるって言ってたらよかったね。」
冒険者ギルドの情報がまったく役に立たないとは思っていなかったので、本当に時間の無駄をしてしまった。
「そうだね。私も最初にアンナちゃんに聞いたらよかったね。」
ウフフフフと笑いあう二人。俺は相棒と一緒に後ろから付いて行く
「ここから宿まで近いの?」
「歩いて15分位かな。道々の案内はするね。」
猫の歩廊亭から冒険者ギルドまでの近道。どこの露天が美味しいか、この近所で品揃えのよい雑貨屋、修理を引き受けてくれる鍛冶屋、保存食を主に取り扱っている干物屋等、冒険者に必要なお店をわかりやすく教えてくれる。
「というわけで、しばらくこの辺りで活動するなら、獲物は4件先のお肉屋さんの所でそのまま買い取ってもらえます。皮革とかの素材も一緒に買い取ってくれるから解体した奴を取りにいかなくても良いのが人気の秘密です。」
「確かに、解体するのは面倒だし、解体代行してもらえるならそっちが良いね。それに素材の状態を気にせずに皮とかの値段を最初につけてくれるなら、解体失敗してもこっちの責任じゃないってのも良いわね。」
「依頼するときに、骨か何かもらわなきゃ、バディの分が確保できないんでよろしく。」
自分の嗜好品がないと大変と、相棒も目で訴えてくる。
「お姉ちゃん達はどのくらい泊まるの?」
「そうね、タダムさん達とお話したいから、彼らが帰ってきてお話ができたらぁだから・・・。長くみて1週間位かしら。」
2~3日留守にするは、冒険者の都合。実際はその倍かかる事もしばしばあると聞く。それならば、あらかじめ長めに予定を組んでいれば気を揉むこともないだろう。
「おっ、じゃぁそれなりに居れるんだね。今日だけとか言われなくてよかったよ。」
「彼らが居れば今日だけだったかも知れないけど、せっかくだからのんびり休暇を取りましょう。」
休養地から護衛をした先で休暇とは、何とも皮肉である。
「僕はその間、刻印屋巡りをしたいな。アンナちゃん、よかったら後で地図を描いてくれないかい?」
「うん、わかった。って、お兄ちゃんも刻印使えるの?」
5年間の炭鉱生活で、そこら辺の一般人よりは筋骨隆々だ。確かに刻印士という頭脳系な術を使えるとは思わないだろう。
「こう見えても、師匠の弟子だからね。徐々に仕込まれてるよ。」
その昔、独学で大型搬送魔法具を作ってましたとはいえない雰囲気だな。
「人は見かけによらない物なんだね。」
何か心に落ちてきたのか、ウンウンと頷いている。
そうこう言ってる内に、目的の猫の歩廊亭に着いた。扉をくぐると、アンナが大きな声をだした。
「かーさん、お客さん連れてきたよ~!」
その声に呼ばれて「ハイハイ、いらっしゃいませ」と女将さんが僕らを出迎えてくれた。




