054 野営の一コマ
寝起き更新・・・。ネムネム
老紳士の好物をお腹いっぱい食べると、1日の移動の疲れからか睡魔が襲ってきた。
現在時刻が18時。朝の移動開始時間まで12時間ある。見張りはサヤーニャと交代なので睡眠時間を6時間は確保できる。早く寝る分起きてからの活動時間は長いけど、明日で護衛最終日。久しぶりに宿で眠れるからそのくらいは我慢だ。
「それじゃぁ、一足先に休憩もらうね。」
「えぇ。交代時間になったら起こすわ。」
老夫婦は寝る時間が遅い。なんでも「年を取ると寝つきが悪くなけど早起きはするんじゃ。」と言っていた。朝も5時と早い時間から活動するのだが、「世の老人はみんなそうじゃ。」と本人は気にしていないみたいだ。
馬車から敷物と毛布を出し、相棒と一緒に寝床を作る。俺の頭が来る位置に相棒が陣取り、今夜もふかふかな毛皮にうずまって眠れるらしい。寒くなると枕から抱き枕へと進化するが、特に怒られた事は無い。むしろ抱きしめるように器用に前脚で全身を包みこんでくれる。
しかし野営中に抱きしめられていると「何かあった時にすぐに動けないというデメリットがあるので止めるようにと」サヤーニャから指導が入っている。
満腹感と温もりで意識を手放した。
きっかり6時間後、サヤーニャに起こされた。老夫婦はまだ起きていたが、さすがにそろそろ寝るらしい。サヤーニャから旅の話を聞いたり、自分達の農園の話をしたりと話題には事欠かない。
移動中に聞いた話だと、老夫婦は謙遜しているが鍛冶の街でも有数の商人の様だ。店舗の規模、取引先の数、1日の来客数、どれを聞いても小さな店の店主って自己申告は過小評価も良いところだと思う。
さらに言うなら、「隅っこで細々と趣味でワインを作ってる。」と言っていたが、畑の規模は5haという。老夫婦だけで暇な時間に畑の管理をするという事は無く、やはり専用で人を雇っているらしい。そこから作られる葡萄酒は領地でも上位を争う最高級品だ。と言うのも、昨夜見せてもらったエチケットは、その昔父がとっておきと出した葡萄酒のエチケットそのものだった。
家に帰った時の土産話ができたと考えながら、焚き火を絶やさないように薪をくべる。日中は過ごしやすいとは言え、夜中は気を抜くと気温が10度を下回るので寝起きのお湯の為にお湯を沸かす。相棒の為に平皿にお湯を注ぎ、少し覚ましてから渡す。猫舌ならぬ犬舌も熱いのは苦手らしい。
熱い塊が胃の腑に染みわたり、意識も段々覚醒してきた。夜空を仰ぐと今にも降り注がんばかりの満天の星空だ。大小瞬く星を見ていると、相棒がすり寄ってきた。いつもとは違う甘え方だ。何かを知らせている。
俺は暗視を発動して、相棒が見ている方向に目を向けた。




