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月の滴  作者: あれっきーの
炭鉱奴隷への転落
5/136

005 父親の手紙



パカラン、パカラン、カッポ、カッポ、


「ヒヒィィィィン ブルフゥ」


 この地域ではうちにしかない、2頭立ての馬車が目の前に静止した。父親が視察のためだけに街の職人に作らせた自慢の馬車は広い。家族3人どころか大人8人が座ってお茶をするスペースがあるほどだ。

 夜間でも走れるように用意されているランプは真鍮製。鍛冶屋のエルモと細工師のジョルジョが半年がかりで作った特注品だ。

 馬車前部に2か所。後部に2か所。ドアの上部に2か所と外装だけでなく、社内にはドラゴンと狼の意匠のガラス細工を通して光が洩れるように設計されている。

 窓は透明な板ガラスとステンドグラスの2重構造になっており、当然両方開けることもできる。ステンドグラスにもドラゴンと狼の意匠がつけられている。

 上部前方2か所に添えつけられた旗は、赤地にドラゴンとオオカミの顔がシルエットで交差するように配置されている。その動物のふちどりは金糸で行われており、価値を知らないものが見ても、結構な金額がかかっていることは容易に想像できる。

 目を見張るのは外装だけではない。座席は贅沢にもビロードを惜しげもなく使い、御者席は衝撃吸収にコーディロイを重ねて縫いつけている。


 グリエフ子爵の道楽と口さがない者は陰口を叩いているが、何も見栄の一点でつくったものではない。

 子爵領と確立してから、代々行ってきている職人擁護政策のお礼として、馬車を新調することをどこからか聞きつけた親方達が勝手に作り上げた物だ。


 月の降った夜までは、魔法を使えることをひた隠しにしていた一族。それが彼らのルーツである。

 あの日、ありとあらゆる場所で、混乱と略奪が行われていた。

 ご先祖様はそれまで他人に蔑まされていたが、それでも数少なく良くしてくれた知人の店が略奪されることに怒り、また彼らを守るべく立ち上がった。


 月の魔力は偉大で、それまで作れたろうそくのともし火程の火球は、力を練らずともバスケットボール大になった。夏場に涼を取るため、こっそりコップの中に入れていた氷は、空気中の水分を一気に圧縮し、巨大な氷柱となった。

 そのあまりにも現実離れした空間で、狼藉者は略奪を止められた。


 執事で護衛も兼ねているセルゲイは御者席から降りると、恭しく馬車のドアを開けた。


 しかし、馬車の中には誰もいなかった。視界にあるのは、視察先のお土産と思わしき箱がそこかしこに転がっている。

 だが、目的の父の姿はそこにはない。


「ちょっと、セルゲイ!父上はいないのか?」


 久しぶりに会えることを楽しみにしていた少年は、衝動に駆られ老執事を問いただす。

「はて、先程までは中でゴソゴソと何かされていたのですがねぇ。」


「いいよ。僕が探すから。」


 馬車に飛び乗ると、父上専用座席に手紙が置かれていた。宛先は・・・「ダーシャ

坊やへ」。父上から僕への手紙だ。

 きっと何か緊急の用事が発生して、やむを得ず空間魔法で転移したのだろう。それでも僕のために手紙を書いてくれたんだ。


 そっと封筒を開け、文字を追った。


「親愛なる ダーシャへ 目の前にある座席の箱を開けなさい。」


 書かれていたのは、自分宛の言伝だった。

 きっと、父上が買ってきたお土産に違いない。飛びつかんばかりの勢いで箱を開けた。


「親愛なる ダーシャへ 御者席の下に隠している手紙を見つけなさい。」


 またしても、自分宛の言伝だった。

 これは、もしや父上の身に何か起きた時に、あらかじめ用意されていた秘密の手紙ではないだろうか?


 自分の予想に冷静さを失い、慌てて御者席に隠された手紙を探す。



 その後、馬車の下・トランク・馬車の上と指示は続き、「これが最後だ」と書かれた指令を見つけた時は、探し始めてからゆうに30分を超えていた。

 最後の手紙を見つけ、息を呑んで手紙を開いた。





「は・ず・れ♪」





 その手紙を読んで、ダーシャの頭は真っ白になった。

 まさか、父上がすでに何者かの手にかどわかされた後だったとは・・・。



「おーい。ダーシャ。いい加減に家の中に帰っておいでよー。」


 応接間の窓から父親がしてやったりの顔で呼んでいた。



後数話、子供時代が続く可能性が高いです。

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