036 便利な刻印
「あー、さっぱりした。」
湯あみから戻ったサヤーニャは、僕にも入るように促した。その言葉を受け取り。僕もさっき作った風呂に浸かりに行った。
「相棒もおいで。」
お湯は嫌なのか、湖の方に飛び込んで行った。風邪を引かないか心配だ。
自画自賛になるが、自作の風呂は体をしっかり伸ばすことができ、底に敷いた石のお蔭で足元もしっかりして、泥も混ざらない。これはいいことを覚えた。
そんなことを考えながらのんびりしていると、目の前に水柱が立ったかと思うと、相棒が飛び込んできた。
「わふ!」
「どうした。冷えたのか?」
もふもふの毛皮は、水分を吸ってスリムになっている。
「その姿を母上が見たら、きっと悲しむな。」
「何を悲しむんだい?」
いきなり頭上から声が降ってきた。見上げるとそこには悪戯成功って顔をしたサヤーニャニヤリと笑っていた。
「ちょっ、サヤーニャ。」
慌てて前を隠そうとしたが、相棒が上に乗ってるので、全て隠れている。さすが相棒。俺の事をよく考えてくれてる。
「いやさ、せっかくこんな所で美女が入浴したのに、覗きの一つもなかったから、代わりに私が覗きに来たのよ。」
「そんなイベントいりませんから。」
丁寧に退場していただき、彼女の姿が見えなくなると同時に、急いで服を着た。
「いやー。若い子の肌ってすべすべしてて、目の保養ね。」
焚き火の側に座ると、冗談めかした茶々を入れられた。
「減るもんじゃないからいいですけど、あまり良い趣味じゃないですよ。」
「んー。軽いスキンシップよ。これからしばらくは師匠兼護衛として行動を一緒にするんだから、お互いの距離が縮んでた方が何かと楽でしょ。」
けろっとした顔で答えられると、それはそれで男の自尊心が悲しい事になる。
「まぁ、気にしない気にしない。」
サヤーニャさん・・・。それはあなたのセリフじゃないですから。
「話は変わるけど、今夜はそろそろ遅いし、そろそろ寝た方がいいわよ。」
周りを見渡せば漆黒の闇。遠くから獣の鳴き声や虫の声が届いている。
「そうですね。それでは、見張りの順番はどうしましょう。」
現在時刻は夜9時。夜明けまで9時間として、相棒を頭数に入れて1人3時間。睡眠時間が途切れるのはつらいが、ここは俺が真ん中の辛い時間を担当しよう。
そう提案する前に、サヤーニャが耳を疑う言葉を告げた。
「見張りとか無くても大丈夫だよ。」
頭の中に『?』がたくさん浮かんだ。
「人払いの刻印を使えば、盗賊は来ないし。獣払いの刻印を使えば、私達を襲おうって獣も来ないのよ。獣払いは、虫も来なくなるし一粒二度おいしいのよ。」
刻印にそんな使い方があったのかと感心してると、刻印2種をターフに垂らして、もう大丈夫だそうだ。
「あとは、刻印無視してくるようなのが来たら、バディちゃんが起こしてくれるわよ。ついでだから、コレも渡しておくね。
適当に刻印が刻まれた鉄片を渡された。
「使い方はその内教えるわ。それじゃ、おやすみなさい。」
そう言うや否や、あっという間に毛布に包まり、すやすやと寝息を立てた。
「豪快姉さんだな。」
まだそこまで肝が据わって無い俺は、相棒を抱き枕代わりにして、その体温を誘眠剤に代わりに夢の世界へと落ちていった。
普段はもふもふの毛は多少湿っていたが、発水はしっかりされていた。
お盆休載は特に考えていませんが
明日の投稿時間はひょっとしたら遅れるかもしれません




