034 物知りお姉さん
「魚の捌きかたは知ってるの?」
釣り上げた魚のハラワタをくり抜きながら辛い質問が飛んできた。
「やったことは無い。」
魚釣りが初めてで、釣果が坊主なのに、その次の作業をしている訳が無い。
「料理は何かできる?」
更に辛い質問が飛んできた。
「今まで自分で作る機会がなかったけど、覚えたいとは思ってる。」
質問しながら手を止めず、夕食の準備が進んでいく。鱗の処理やハラワタの処理、ちょうどいい味付け、串うちが終わると、焚き火の周りに串を刺してじっくりと焙り始めた。
「教育係を引き受けた身として聞きたいけど、あなたは何ができるの?」
直球で辛辣な言葉が飛び込んだ。
「たぶん、サヤーニャから見たら何もできないよ。」
拗ねたわけではなく事実である。他人様に自慢できるような能力は、穴掘りと昔かじった刻印作成しかない。その事をしっかり伝えると
「なるほどね。」
と、1人で納得していた。
しばらくして、焼きあがった魚を食べてると、不意に彼女が急に提案した。
「ご飯終わったら、できる事増やそうか。」
どうやらお勉強開始らしい。しかし、それは願ってもない事だ。自分にできる事が少ない身としては、万が一サヤーニャや相棒とはぐれた時に生存率が下がると言う事だ。多少でも自分でできればそれだけ生きて家に帰れる可能性があがる。
「そしたら、火のおこし方から学びたい。」
「あら、何で?」
にやりと笑いながら質問で返された。きっと此方の意志は分かっているだろうが、再認識の為だろう。今からは護衛でなく師弟としての時間だ。きちんと学べるように自分を偽らずに答えよう。
「万が一の為だよ。サヤーニャとはぐれた時に生存率をあげたい。」
答えが気に入ったのか、サムズアップされた。
「いいよ! ダーシャ君いいよ! 生き物として最初に覚えようとするのが、生き残る為って理由はなかなか聞けないよ。 じゃぁ、せいぜい死なないように色々覚えてもらおうかしらね。」
水辺から2mほど離れた所に移動して、最初に習うのが火のおこし方だ。
「火種が無い時とあるとき、どっちのおこし方が良い?」
「無い時で。」
即答だ。「はぐれた時=手ぶら」の可能性は捨てがたいので、まったく何もない状態から習うべきだ。
「それだと、まずは種火の作り方を教えておくね。」
メロンパンサイズの石を集めてかまどを作り始めた。
「仲間とはぐれてって状況だと、後で合流する事や、探された時の事を考えて、いつも作るかまどの形を決めておくの。そうしたら、後続や探索してるときの目印になるの。」
「極力同じ形にするんだな。」
「まったく一緒ってのは難しいけど、人が作るものは、必ず癖がでるから、見る人が見てそれが分かればいいのよ。」
「出来上がったら、種火をおこすよ。まずは燃えやすい乾いた木屑を集めて、平らな石の上に置いて。」
言われるがままに、平らな石の上に木屑を集めた。
「ここからが、適合者の腕の見せ所ね。」
ん?適合者? 普通の火の起こし方じゃないのか?。
「普通のやり方しても、別のやり方をしても、火がつけば一緒でしょ。」
俺の疑問を感じ取ったのか、先回りして答えられた。確かに火が付けば一緒だ。
「目を閉じて、意識を集中する。さっき木屑を置いた石の中の魔素を感じて。」
騙されたと思ってやってみる。
確かに、石の中にほの温かい物を感じる。昨日まで俺の体の中を漂っていた魔素と同じものだろうか。石の中に留まっているのを知覚した。
「見えたらそれに燃えるように促して。」
当たり前の様に無理を言われるが、やりますよお師匠様。
さっき感じた石の魔素に燃えるよう意識を送りこむ。すると、魔素の動きが激しくなり、段々と熱量が増えてきた。
「いいわよ。その意識を外さずに目を開けて。」
木屑から徐々に黒い煙が出始め、小さな種火発生した。
焚き火で焼いた魚食べたい・・・。




