029 適合者 その6
2話分(27,28話)のあらすじ
ダーシャの発掘した『月の滴』を奪おうとした警備主任のオッサンを、颯爽と現れたサヤーニャと名乗る女性が懲らしめ、ダーシャを家まで送り届けると宣言した感じ。
部屋からおっさん達が居なくなると、さっきまでの喧騒が嘘のように静かになった。
「えっと、父上に任命された護衛って事でいいのかな?」
書状をくるくると丸める彼女に念のため確認を取る。
「はい。左様でございます。また、小さな領主殿が月の滴を発掘した場合は、適合者としての手ほどきもして欲しいと申しつけられています。」
しかし気になる所がある。
「その書状を見せてもらってもいいかな?」
そして、文面を再度確認する。
『炭鉱奴隷として働き、いずれ月の滴を発掘もしくは、借金完済する我が息子ダーリヤ・ダニイル・グリエフの護衛として、グリエフまで無事送り届ける事を任命する』
この独特の角ばった文字。僕の名前だけなぜか丸く書く癖。間違いなく父の字だ。
「この文面から察するに、結構前から、父に任命されていた様に読み取れるのは気のせいだろうか?」
そう、最近任命されたのではなく、かなり前から任命されていたと考えた方が良さそうな文面だ。
「ご明察です。小さな領主殿が炭鉱奴隷に身を落とされた1年後に拝命致しました。」
そうなると、不明な点が出てくる。
「その割には今まで一度も会ったことが無いのは何故だ?」
そんな昔から任命されていたのなら、少なくとも1~2度は顔を見ていてもおかしくない筈だ。
「私が普段いる街が魔法の街だからです。」
いや、それは理由にならないだろう。
「それだと、普段僕の護衛として働いていなかったことになると思うが?」
ニコリと微笑み答えた。
「小さな領主殿はユーリーと言う男をご存知ですよね。今回の任務は、彼と私に拝命しています。ユーリーは炭鉱で働いている間が主ですので、こちらは小さな領主殿が炭鉱奴隷に身を落とされてからすぐに任命されたと聞いております。私は炭鉱から出て領主宅にお届けするのが任務でございますので、選定に時間がかかったのではないでしょうか。」
それなら、彼女を見たことがない事について納得がいった。ってか、元髭もじゃは僕の護衛だったのか。確かに何度も助けられたけど、誰にでもあんな感じだから、わざわざ依頼しなくてもよかったんじゃないだろうか。
「何故護衛を分けたか理由は聞いているのか?」
「それは理由など聞かなくても分かります。ユーリーはこの炭鉱の中ではかなり力をもっていますが、そんな彼も元炭鉱奴隷。どんな理由で奴隷に身を落としたかは知りませんが、そう簡単に外には出せないのが現実です。実際にはすでに刑期がだいぶ前に終わったと聞いていますが、彼がここから出ないと言ってここで働き続けているそうです。さらに言うと、この炭鉱は男社会。私が仕事を置いて護衛として入ったとしても、女性が少ない野蛮の楽園です。そんな所に女の私が居れば、暴動が起きる可能性があるからではないでしょうか。」
確かに、この鉱山で働いている女性の数は少ない。看護婦を除くと、食堂のおばちゃんが通いで来てる位だろう。看護婦はいつ何があってもいいようにと住み込みだが、男達に乱暴を受けたという話は聞いたことがない。
「なるほど。しかしその言い分だと、看護婦に多少失礼ではないだろうか。」
まるで、彼女の魅力が足りないかのように聞こえる。
「彼女に乱暴をしようものなら、彼女の服に刺繍されている刻印が発動します。荒くれ者共にはその話が口伝いに広まっているのでしょう。その刺繍も私が施しました。」
あの羽根の刺繍にそんな意味があったのか。それが事実なら確かに安全だ。って、私が施しましただって?
「更に申し上げると、先ほど申し上げた通り、私は普段魔法の街で生活をしています。ささやかではありますが、刻印魔法屋を営ませて頂いてます。そんな人間が常に鉱山に居ると、街の発展に支障が出るためではないかと推測できます。」
確かに刻印屋は数が少ない。街の発展どころか、領地発展の為に街全体で安全を確保して、本人がのびのびと活動できるように日常生活を支援する程だ。
「刻印屋が何故護衛に任命されたんだ?」
希少価値のある刻印屋は街に守られている。守られているものが護衛をするのは些か話に矛盾が生じる。
「それは、刻印屋以外に冒険者としても活動をしているからです。」
刻印屋が・・・冒険者・・・?
「冒険者ランクはSです。そして、小さな領主殿が『月の滴』を発見した時には『適合者』としての手ほどきを追加でお受けしたのは先程申し上げた通りです。」
一度整理しよう。彼女は、護衛であり、刻印屋であり、適合者でもある。冒険者としてはSランクと領地で有名になってもおかしくない。
「たしか、魔法の街から鉱山までは馬車で3週間程かかったと記憶しているが、1週間足らずで良く辿りつけたな。」
「はい。小さな領主殿が発見されてすぐに、ユーリーから領主殿に遠話刻印にて連絡が届きました。同時に私にも遠話刻印にて迎えに来るように連絡が来たのです。たまたま近場で刻印の素材を集めていたのでその足で此方に向かいました。」
「大体理解したよ。最後に1個だけいいかい。」
「はい。小さな領主殿のご威光には極力従う所存です。」
姿勢を崩さず、じっとこちらを見ている。
「その『小さな領主殿』って呼び方止めてもらえないかな。」
さっきから背中がむず痒くって仕方がない。
「では、なんとお呼びすればよろしいでしょうか。」
「ダーシャで良い。あと、敬語も慣れていないから止めてくれ。」
「分かったよ。ダーシャ君。私も慣れない敬語で困ってたから助かるよ。とりあえず、領主宅までよろしくね。」
さっきまでの態度と打って変わって、いきなり軽い感じになった。これが彼女の素だろう。
「こちらこそ、よろしく頼むよ。
護衛承認の証として、かたい握手を結んだのだった。
やばい・・・
バディが出てこない・・・
もふもふ成分かむばっーーーく




