028 適合者 その5
今回も多少血なまぐさい感じですので
苦手な方は次話で簡単なあらすじを入れるのでお待ちください。
「貴様! いったい何者だ!? その泥棒奴隷の仲間か!?」
怒りで顔を真っ赤にしたオッサンはどんどんヒートアップしていく。
いや、おっさん。泥棒はお前だし。
「泥棒はあなたじゃないですか。いきなり人を殴り飛ばした上に、難癖をつけて財産を奪おうとしたあなたじゃないですか。」
看護婦もいい感じに熱くなってきた。逆に女性は冷静に冷たい目でオッサンを見据える。
「『月の滴』の発見者は、発見した『月の滴』の大きさに関わらず、『月の滴』の祝福を受ける。『月の滴』の影響を受ける魔素刻印が祝福を受けた者に危害を加えないのは常識ですよ。あなたが発見したと嘯く『月の滴』が誰が発見者かをきちんと証明していますよ。」
懐から何かをつまみだすと。
「小さな領主殿。失礼します」
そう言うと、女性は俺に何かの刻印を放り投げた。
「ほら、さっき貴方が投げつけた同じ刻印を小さな領主殿に使いましたが、やっぱり発動しないでしょ。」
有無を言わさぬ確認方法に、さすがのオッサンも黙った。
そこに、呼子で集まった警備隊が部屋に飛び込んできた。
「主任! いったい何が!?」
部屋に駆けつけ現状を把握すると、女性に向かって刃をむけた。
「貴様! どこの賊だ!?」
刃を向けられた女性は、凛と警備隊に挑むと、言い放った。
「この男は、卑しくも己の分をわきまえず、貴族に暴力を振るい、財産を奪おうとした盗賊だ。ゆえに、現行犯で処罰するところだ。」
いや、あの、ね? あまり貴族言わないでほしいんだけどな。
「冗談も休み休み言え! どこに貴族が居るという。それとも何か? そこのガキが貴族様とでも言うのか?」
人を小馬鹿にした口調で笑いあう。
「えぇ。そうですよ。」
女性はその言葉を肯定し、1枚の書状を開いた。
「これは、領主閣下、『ダニイル・アルカージエヴィチ・グリエフ』様より預かりし書状だ。そしてこう書いてあります。『炭鉱奴隷として働き、いずれ月の滴を発掘もしくは、借金完済する我が息子ダーリヤ・ダニイル・グリエフの護衛として、グリエフまで無事送り届ける事を任命する』と。そして、今ベッドにおわす方こそ、ダーリヤ・ダニイル・グリエフ様であらせられます。」
勿論、その書状には父の押印がある。文字が読めない者でも、この押印を知らないものはこの領地に1人もいない。
「というわけで、そこの賊を捕縛して懲罰室にでも突っ込んでおいてください。」
俺を殴ったおっさんは顔を真っ青にして、彼女の掲げた書状を見ている。顔が真っ青なのは書状を見ただけではなく、右手からの流血も関係してるのではないだろうか。後で掃除が大変だろうな・・・。
オッサンは観念したのかおとなしく捕縛された。看護婦は嫌そうな顔をしていたが、オッサンの止血処置をしている。
医師先生はそれを眺めている。いや、仕事しようよ。
「お見苦しいところをご覧いただき、申し訳ありませんでした。」
オッサンの事などまるで無かったかのように恭しく頭を垂れる女性。
「申し遅れました。私の名前はサヤーニャ。サヤーニャ・ステファンと申します。」
これが、俺と彼女との出会いだった。
原爆投下から69年。
被害者の方々へ黙とうを捧げます。




